バイエルンのポーランド代表ストライカー、ロベルト・レバンドフスキが好調だ。今季リーグ戦5試合で9得点と、ほぼ1試合に2ゴールのペースで得点を量産し、欧州チャンピオンズリーグ(CL)、国内カップ戦でもゴールを決めている。



開幕から絶好調のレバンドフスキ

 毎年シーズンの終わりに話題に挙がるゴールデンシューズ(欧州得点王)争いでも、現時点ではマンチェスター・シティのアルゼンチン代表ストライカー、セルヒオ・アグエロと一騎打ちの様相を呈している。

 スペインでは、バルセロナ、レアル・マドリードの両ビッグクラブが本調子とは言い難く、リーガ・エスパニョーラを代表するストライカーのリオネル・メッシも、シーズン前に負ったケガの影響で試合に絡めていない。イタリアでは、王者ユベントスが監督交代したばかり。策士のマッシミリアーノ・アッレグリから攻撃的スタイルを貫くマウリツィオ・サッリへの交代とあって、エースのクリスティアーノ・ロナウドもバランスを探っている状況だ。フランスのパリ・サンジェルマンのストライカーのキリアン・エムバペもケガで戦列を離れている。

 今後、これらの世界屈指の能力を誇る選手たちが巻き返してくることは容易に想像できるが、やはり今季序盤はレバンドフスキの成績が目を見張る。

 好調の理由のひとつとして、クラブでのキャリアはバイエルン1本に絞り、腹をくくったことが挙げられるだろう。オフシーズンの7月、レバンドフスキがバイエルンと2023年6月末まで契約延長する第一報が衛星放送の『スカイ』から流れると、ドイツ国内でも驚きを持って他の媒体でも伝えられ、またたく間にニュースは広まった。

 実際に契約延長が決まったのは8月末だが、この契約延長が”意外”と受け取られたのは、これまで毎年のようにレアル・マドリード行きの噂が出ていたからだ。レバンドフスキ自身も、昨年のロシアワールドカップ後には移籍する意思を見せており、2018年に代理人を現在のピニ・ザハビ氏に替えたのも、そのための準備だったと見られていた。現在31歳のレバンドフスキは、2023年の契約が切れるときには35歳目前だ。これは、バイエルンで全盛期を終える覚悟ができたと見ることができる。

「ミュンヘンで、特別な歴史(=物語)を刻みたいんだ。たくさんの人々や子どもたちが、自分の名前が入ったバイエルンのユニフォームを着ているのを見るとうれしいね。ブンデスリーガで300ゴールだって記録できるかもしれない」と8月28日の『シュポルト・ビルト』誌のなかで、意気込みを話している。

 今月には、レアル・マドリードのフロレンティーノ・ペレス会長が、”白旗”を挙げたことも伝えられた。レバンドフスキの獲得時に、契約解除金(移籍金)を設定すらしなかったバイエルンは、レアル・マドリードと自クラブのエースストライカーに対して、断固とした態度を数年にも渡って示し続けたようだ。

 その一方で、バイエルンもエースの「CL制覇」という夢を叶えるために動き始めた。昨季の終了前には世界王者フランス代表のリュカ・エルナンデスとベンジャマン・パバールの両DFを合計1億1500万ユーロ(約140億円)で獲得。8月には、ブラジル代表のMFフィリペ・コウチーニョ、クロアチア代表のFWイヴァン・ペリシッチ、そしてフランスU-20代表のMFミカエル・キュイザンスを立て続けに獲得し、戦力の拡充を求めるエースの要望に応えた。

 首脳陣と直談判を行なったレバンドフスキも、「とても満足している。今のチームには良いメンバーが揃っている」と今季のフロントの動きに手応えを感じていることを明かしている。

 レバンドフスキが得点を量産できているのは、今季のバイエルンの戦い方のおかげでもある。ニコ・コバチ監督1年目に比べて、2年目の今季はDFラインがさらに高く押し上げられ、CBの2枚が相手陣内でプレーする時間帯も長い。

 対戦相手をゴール前に押し込み、ボールを動かしながら試合を支配し続け、ボールロストの瞬間には素早いゲーゲンプレッシングで再びボールを奪い返してしまう。両ウイングには、フランス代表のキングスレイ・コマンとドイツ代表のセルジュ・ニャブリがピッチの幅を確保しつつ、高速ドリブルでペナルティーエリア内に進入する…。これまで「退屈」と揶揄されてきたバイエルンは、まるでペップ・グアルディオラが率いていた当時のサッカーへの回帰を目指しているようにさえ見える。

 このスタイルの浸透を支えているのは、今年の7月からバイエルンにアシスタントコーチとしてやってきたハンジ・フリックだ。現役時代は、バイエルンで過ごした5年間で4度のリーグ優勝を経験。指導者としては、ドイツ代表でヨアヒム・レーヴ監督の”右腕”として2006年から2014年まで、チームの成功を支え続けてきた。

 その後は、ドイツサッカー連盟やホッフェンハイムでスポーツディレクターを務めた後、マンチェスター・シティで研修を終え、バイエルンに合流した。現在チームでベテランとして存在感を発揮する主将のマヌエル・ノイアー、トーマス・ミュラー、そしてジェローム・ボアテングらとは、2014年ブラジルW杯で世界王者までの苦楽を共にしたこともあり、つながりが強い。

 ピッチ上ではボールポゼッションを重視する戦術を浸透させ、ピッチ外ではロッカールームのバランスを保つという点で、フリックコーチの招聘は今季最大の”補強”とも言える。今季、レバンドフスキがシュートを打つシーンが昨季に比べて大きく増えているのも、バイエルンがそれだけ多くの好機を作り出しているからだ。

 さらにレバンドフスキ本人の、チームの副主将というリーダー格としての自覚も、エゴイスティックな面を抑制する点で役立っている。第5節のケルン戦では、PKのキッカーを新加入のコウチーニョに譲る余裕も持てるほど、チーム全体を見渡せるようになった。「昨季、自分が目立って輝くよりも、チームのために働くことのほうが重要なんだ、と理解したのさ」とレバンドフスキは振り返る。

 現在はバイエルンのU-17のチームで監督を務める、元ドイツ代表ストライカーのミロスラフ・クローゼは、レバンドフスキを「限りなくパーフェクトに近いFW」だと評価する。ボールをキープすることもでき、自分でドリブルしながら相手DFをかわして得点することも、ペナルティーエリア内でクロスに合わせて得点することも、そしてエリア外からはミドルシュートやフリーキックでも得点できるストライカー。

 何よりも、自身がチームに骨を埋める覚悟で動くのを自覚したことで、自他のミス後のゲーゲンプレッシングにも労を惜しまない姿が見られるようになった。CLのレッドスター・ベオグラード戦での2点目は、まさにシンボリックな形での得点だ。

 バイエルンでリーダーの一人としての自覚を強めたレバンドフスキ。自身の将来について腹を括り、雑念が消えたことで”余裕”を持てるようになった。エゴイストから脱却し、チーム全体を見渡せるようになったことで、チーム内にもポジティブな影響を与えている。こうしてチームの歯車が噛み合い始め、レバンドフスキ自身の得点チャンス量産につながる好循環ができている。悲願の欧州制覇に向けて、欧州屈指のストライカーは好スタートを切った。