史上4人目、パ・リーグでは野村克也氏(元南海)以来、54年ぶりの「捕手で首位打者」が現実味を帯びてきた。109試合を消化した8月17日時点で、西武の森友哉が打率.338で首位打者争いのトップに立っているのだ(今季の成績は同日時点、以下…

 史上4人目、パ・リーグでは野村克也氏(元南海)以来、54年ぶりの「捕手で首位打者」が現実味を帯びてきた。109試合を消化した8月17日時点で、西武の森友哉が打率.338で首位打者争いのトップに立っているのだ(今季の成績は同日時点、以下同)。



パ・リーグの首位打者争いでトップを走る西武・森友哉

 2位の吉田正尚(オリックス)は打率.328。フルスイングを持ち味とするふたりの争いになりそうだ。

「森はもともと持っている能力が高いので、特別に今年、何かが変わったということはない気がします」

 阿部真宏打撃コーチがそう話すように、高卒6年目の今季、森の打力がいきなり上がったわけではない。「プロに入ってきた時からすごかった」(阿部コーチ)という能力が、存分に発揮されているのだ。

「単純に、自分のバッティングをできている期間が長いというのがあります」

 8月13日のオリックス戦の前、森自身もそう話していた。

 今季は開幕から正捕手を務め、ここまでの先発マスクは90試合。すでに昨季(74試合)を上回っている。初めて「第一捕手」の位置づけとなった昨季は打率.275と、過去3年より数字を落としたが、先輩の秋山翔吾はこう見ていた。

「数字としては、彼の思っているものではなかったかもしれないですね。防御率や盗塁阻止率も、もっとできたはずですし、キャッチャーは苦しいなかでもマスクを被らないといけないですから」

 今季は炭谷銀仁朗がFAで巨人に移籍し、森は「第一捕手」から「正捕手」に格上げされた。チーム防御率は「4.24→4.54」、盗塁阻止率は「.373→.273」と、いずれも昨季より悪化している一方、秋元宏作バッテリーコーチは「投手とのコミュニケーションを含め、リード面で成長している」と評価する。

 しかし、守備面での成長は、打撃の好調とは無関係だと森自身は言う。

「守りと攻撃は別物だと思っています。守りがうまくいっている、いってないに関係なしに、打撃は打撃で大事にしている。そこのメリハリをしっかりできていることが、いい結果につながっているのかなと思います」

 守備と攻撃の関連は本人のみぞ知るところだが、第一捕手から正捕手になったことで、先発マスクの機会が増えた。毎試合のように同じ流れで打席に立ち続けることが、好調を持続している要因だと阿部コーチは見ている。

「試合に出る、出ないの流れが、今年はより一定になっている。そういうのがバッティングにも大きいのかなと思っています」

 シーズンの疲労が1日ずつ蓄積されていくなか、7月27日の日本ハム戦から8月15日のオリックス戦まで17試合連続安打を記録。そのうち13試合に捕手、3試合に指名打者で先発出場した。

 とりわけ、森のすごみが発揮されたのが、8月13日のオリックス戦だった。初回、一死二塁からレフト線に先制タイムリー二塁打を放った打席だ。

 相手先発の田嶋大樹に対し、初球は内角低めの厳しいコースにストレートを決められると、続く2球目、外角のスライダーに反応して三塁方向に鋭いファウルを放った。森はストレート待ちだったが、スライダーが外角やや高めに浮いてきたから打ちにいった。

 そして、2ストライクに追い込まれた6球目、外角高めのスライダーにタイミングを外されたが、うまく体重を残し、最後は右手一本でレフト線に技ありのタイムリー二塁打を放った。球種やコースにヤマを張るような状況ではなく、森は「食らいついただけ」と振り返っている。

 実はこの場面には、森のふたつの特徴を見て取れる。ひとつ目は、正捕手としての成長だ。

「今日は(齊藤)大将が今シーズン初先発で、いい立ち上がりをしてくれたので、絶対先制点を獲るぞ、という気持ちで打席に入りました」

 この日の西武の先発は、2017年ドラフト1位の齊藤。オリックスと競合した田嶋を獲得できず、同じ左腕としてハズレ1位で入団した”因縁”がある。齊藤は過去2年間、一軍であまり活躍できておらず、同い年の森はバットで援護しようとした。

 そうして放った先制タイムリーのコメントを見て思い出したのが、キャプテンの秋山が「今季のチームのポイント」として語っていた話だ。

「森をどう大人にしていくか。(菊池)雄星みたいないいピッチャーが抜けて、そこに他のピッチャーが加わるわけです。森は物怖じせずに話せると思うけど、(意思疎通を)よりやってほしい」

 秋元コーチも認めるように、今季、森は投手陣とコミュニケーションをうまくとっている。”女房役”としてリードする気持ちが、打席でプラス効果として発揮されているのだ。

 ふたつ目の特徴は、打撃面にある。代名詞のように言われる「フルスイング」に加え、森のバッティングにはもうひとつの武器があると、阿部コーチが語る。

「タイミングをずらされたときに、コンタクトする能力がすごく高いと思います。あれだけ強く振れるのはもちろん、タイミングがずれたときに(バットの)ヘッドを残す技術は、なかなか他のバッターにはない」

 一般的にタイミングをずらされた場合、ヘッドが下がって弱い当たりになる打者が多い。しかし、森はヘッドを残し、逆方向にヒットを打つことができる。こうした技術があるから、特定の球種やコースにヤマを張るのではなく、「来たボール」を反応で打ち返せる。だからこそ、今季のような高打率を記録できるのだ。

「状態がいいからあっち(レフト)に飛ぶのもありますし、もともと逆方向に打つのは苦手ではないので。ああいう形が出るのは、状態がいいのかなと思います」

 8月13日のオリックス戦のあとにそう振り返ったように、森の状態はいい。このまま行けば、史上4人目の「捕手で首位打者」が見えてくる。

 そのうえでカギを握るのが、コンディショニングだ。森が続ける。

「常に万全の状態かと言われたら、そうではないです。自分だけじゃなく、プロ野球選手はみんな、シーズンを通して万全な状態で試合を迎えられることはほとんどないと思います。そのなかでもしっかり結果を残さないといけない」

 首脳陣は今季、森の状態に気を遣いながら起用してきた。秋元バッテリーコーチが語る。

「理想を言うと、週に1回くらい休ませたい。今年は腰を痛めたり、首に(疲労が)来たりしたのが4月や5月と早かった。だから、交流戦明けくらいから岡田(雅利)を定期的にスタメンに入れるなど、考慮し始めました。

 今は岡田が負傷でいなくなって、森はこのあいだ肩の不調があったけど、8月17日からの9連戦は考えないといけない。駒月(仁人)や中田(祥多)を使うタイミングがあれば、1日入れたいなと」

 第二捕手として大きな貢献をしてきた岡田は、8月4日のオリックス戦で左指に死球を受けて離脱し、復帰は来季になる。控え捕手の駒月や中田は一軍での経験が不足し、森と比べて実力に大きな差があるのが実情だ。

 ただし、シーズンの勝敗をトータルで考えると、森をなるべくいいコンディションに置いておくことが、攻守両面で重要になる。残り約30試合となって負けられない戦いが続くなか、森を適度に休ませることも同時に求められる。

 パ・リーグでは54年ぶりの「捕手で首位打者」という偉業達成、そして首位ソフトバンクの背中を捉えるには、首脳陣の起用法も大きなカギを握りそうだ。