J1リーグ第21節の一番の波乱は、首位FC東京を5ポイント差で追う4位鹿島アントラーズが、12位の湘南ベルマーレに不覚を取ったことだ。鹿島は2-0から同点に追いついたものの、まさにラストワンプレーとなった段で、湘南にコーナーキックを与…

 J1リーグ第21節の一番の波乱は、首位FC東京を5ポイント差で追う4位鹿島アントラーズが、12位の湘南ベルマーレに不覚を取ったことだ。鹿島は2-0から同点に追いついたものの、まさにラストワンプレーとなった段で、湘南にコーナーキックを与え、センターバック坂圭祐のヘディング弾を浴びた。

 ここにきて調子を上げてきた鹿島。湘南を下しFC東京を射程圏内に置きたかったが、その出鼻をくじかれた格好だ。今季、鹿島がもし優勝を逃したら、この湘南戦はその分かれ目になった一戦として位置づけられるだろう。

 マン・オブ・ザ・マッチは、土壇場で決勝弾を叩き込んだ坂。しかし、試合の展開に大きな影響を与えたキープレーヤーは、左のウイングバック(WB)として、最初の2ゴールに絡んだ杉岡大暉になる。



今季はコパ・アメリカ期間中を除いてフル出場を続けている杉岡大暉(湘南ベルマーレ)

 湘南は後半4分に先制点を、後半7分に追加点を挙げ、試合を2-0とリードした。鹿島はその直後から反撃のスイッチを入れて2ゴールを連取。いつ逆転弾を奪ってもおかしくない流れの中でロスタイムに突入した。

 ただし、相手を警戒しながら用心深く攻めるのが鹿島の特長だ。攻めながら守り、守りながら攻めることができるチームだが、追いかける展開になったこの試合の後半は、その持ち前の用心深さが薄れていた。終盤は、逆転を狙って攻めるのみという、”らしくない”サッカーに陥っていた。坂にヘディングシュートを被弾したのは、最初の2失点で平常心を失った結果と言えた。

 後半4分の先制点、7分の追加点とも、湘南の展開は似ていた。右サイドから攻め、左に展開したところにWB杉岡が登場するパターンだった。

 コパ・アメリカに出場した日本代表に選出され、グループリーグの3試合(チリ戦、ウルグアイ戦、エクアドル戦)にいずれも先発出場した市立船橋出身の20歳。

 1点目に絡んだのは、右でボールをキープした野田隆之介からサイドチェンジ気味のパスを受けた瞬間だった。杉岡は直接、利き足の左足でアーリークロスをピンポイントで流し込み、1トップ山崎凌吾のゴールをアシストした。

 2点目は自らが放ったシュートだった。2シャドーの1人、齊藤未月からラストパスを受けると、そのまま自慢の左足を振り抜いた。シュートは鹿島の右サイドバック(SB)永木亮太に当たりコースが変わって、野田がこれをプッシュした。

 いずれも湘南の右から左への大きな振りが利いた得点だった。杉岡はそれぞれ、仕上げの局面に登場。自慢の左足でゴールに絡んだ。

 とくに鹿島にダメージを与えたのは2得点目で、杉岡と対峙した相手が永木だったことが大きかった。元湘南ながら、いまや鹿島で1、2を争うキャプテンシーを備えた影の中心選手である。日本代表級の有力選手が次々とチームを離れていくなか、それでも鹿島が順位を落とさず上位にいるのも、本職の守備的MFのみならず、右SBをもこなす永木の多機能性に負うところが大きい。

 対面で構える杉岡の活躍は、その永木の影が薄くなることを意味していた。そういう意味で言えば、鹿島の敗因は、最も活躍されたくない相手に活躍されたことにある。

 身長182cmの左利き。杉岡は、筆者がこれまでに推奨してきた小川諒也(FC東京)、松原后(清水エスパルス)とほぼ同じサイズだ。いずれも長友佑都の後釜を語る時に登場する若手実力派だが、杉岡と小川、松原には、WBとSBという違いがある。湘南が3-4-2-1を採用するのに対し、FC東京、清水は4バック。FC東京は4-4-2で、清水はこのところ4-2-3-1で戦うことが多い。

 森保一監督はどっちなのか。日本代表監督に就任以来、サンフレッチェ広島時代に採用した3-4-2-1を封印し、4-2-3-1でほとんどの試合を戦ってきた。6月に行なわれた2試合(トリニダード・トバゴ戦、エルサルバドル戦)でようやく3-4-2-1を試したが、続くコパ・アメリカでは再び4-2-3-1で戦っている。

 杉岡はこのタイミングで代表メンバー入り。4-2-3-1の左SBで3試合にスタメン出場したが、不慣れな感は隠せなかった。正直言って、そのプレーはいまひとつだった。周囲と円滑に絡めずにいた。

 もっとも杉岡をはじめ、その時に選んだ23人は3-4-2-1用のメンバーに見えた。そのつもりで現地に行ったものの、急遽4-2-3-1に変更したという感じだ。4バック(4-2-3-1)で戦おうとすれば、ふだんSBとしてプレーしている選手を多めに選ぶはずだが、この時はそうではなかった。

 不慣れなプレーをしたにもかかわらず、3試合でスタメン起用された杉岡に、森保監督の悩める姿を見た気がする。

 トリニダード・トバゴ戦、エルサルバドル戦は逆に、ふだんWBでプレーする選手を選ばず、4-2-3-1用のメンバーを選びながら3-4-2-1で戦ったという印象だ。

 日本代表における杉岡のプライオリティも、森保監督の選択次第で少なからず変動するだろう。4-2-3-1なのか、3-4-2-1なのか。

 SBとWB。両者には思いのほか大きな差がある。4-2-3-1の左SBでは、鹿島戦で2ゴールに絡んだシーンは訪れにくい。たとえばアーリークロス。これはWBの専売特許とも言うべきプレーになる。SBが周囲と絡む機会が多いのに対し、WBは単独プレーが多い。アーリークロスを送るタイミングは、こちらの方が断然、訪れやすい。

 杉岡は、湘南系のスタイルでこのままWBのスペシャリストとしての道を究めるのか。あるいはSB的な要素を兼ね備えた選手に移行していくのか。その将来には、とくと目を凝らしたい。