「球速・ボールの回転数」と「スイングスピード」の変化を検証

 プロ野球ファンはもちろん、あまりスポーツには馴染みがない人も、テーピングの存在はご存知だろう。競技中のケガの予防と再発防止、または痛みを軽減させるために巻くテープ。しかしそれは使い方によっては、アスリートのパフォーマンスを「向上」させるのでは? そんな画期的な考えを持った方々がいる。

 5月、桜美林大学で教鞭を執る若松健太氏と、山梨学院大学のトレーナー・永井裕樹氏は「ケガをしていない箇所にテーピングを施すことで、パフォーマンスを向上させることは可能か?」という実証実験を実施。普段の状態と、永井氏の手でテーピングを巻いた状態では、「球速・ボールの回転数」と「スイングスピード」に変化があるのか比較した。使用するテープは、伸縮性のある“キネシオロジーテープ”というものだ。

 実験に参加したのは、若松氏が発足した草野球チーム「ジャンクベースボールクラブ」のピッチャーとバッター4人。宮台康平投手(日本ハム)の東京大学時代の先輩であるアンダースローや、桜美林大学で佐々木千隼投手(ロッテ)、山野辺翔選手(西武)とチームメイトだった右の強打者など、全国区の実力派ばかり。チームも関東草野球リーグ1部で4度優勝、第42回サンスポ野球大会の東日本大会で準優勝した強豪だ。検証結果については、「パーソル パ・リーグTV」の動画でも見ることができる。

ケアから広がる可能性、奥が深いテーピングの世界

 今回実験を監修した若松氏は、桜美林大学で講師としてスポーツ医学、解剖学、スポーツコンディショニングなどを担当し、2009年には楽天で臨時トレーナーを務めた。若松氏を「平等なスタンスの先生」と称する永井氏は、同じく楽天でリハビリコーディネーター、コンディショニングコーチ、通訳を兼任し、MLBのサンフランシスコ・ジャイアンツ3Aフレズノ・グリズリーズで学んだ。

 輝かしい経歴の持ち主ながら、気さくでエネルギッシュな両名により、実験は終始和やかな雰囲気で進行。息の合った掛け合いも見せてくれた2人に話を聞いた。

――そもそもテーピングといえば、ケガの治療や予防というイメージが強い。

永井氏「基本的に、テーピングとはケガをした人に対してのサポートが多いです。例えば、損傷した靭帯は修復しないので、壊れてしまったところはゆるいままですが、テーピングという補強をすることで(新しい)ケガが防げます。それが予防の観点です」

若松氏「昔と今では大きく違います。かつてはキネシオロジーテープがなく、伸縮性のない“ホワイトテープ”を使っていました。ケガをした後に、足首なら内反(捻挫)をしないように巻きます。しかし、ケガをしても(試合に)出なければならない選手もいます。ホワイトテープで固定すると動けなくなってしまう。それで、最低限、悪化させないようにしつつも(試合で)動けるようにという巻き方をするようになりました。筋肉を補助したり(状態が)良くなってきたときに動けるようにしたりと、だんだん進化しています」

永井氏「パフォーマンスを向上させるための補助的な要素が増していると思います。伸縮性のないホワイトテープも、例えば足首に巻いたら固定感によって安定性が出るので、痛みを軽減させるような効果が見られます」

――今回の実験で、テーピングのさらなる可能性を模索している?

永井氏「はい。パフォーマンスの向上のためにテーピングを使ったのは今回の検証が初めてです。ケガをしていなければ必要とされないし、できるなら貼らない方が良いと考えられているものに、もしかしたら可能性として生きるものがあるかもしれない。ただ、同じ商品が販売され続けるわけではない。少しずつマイナーチェンジするし、全国のトレーナーが同じメーカーを使っているわけではないので、検証し続けるのもなかなか難しいのですが」

「新しいことをやるうえで、間違いなんてない」という考え方

――今回の実験で、テーピングを施したピッチャーとバッター4人全員に、パフォーマンスの向上が見られました。その中で、一番驚いたことは?

永井氏「僕はテーピングでスイングを促してあげた方が、いける(スイングスピードが出る)と思っていました。でも、(動きを)固定されたことでスピードが出る選手もいましたね。固定感がある方が、自分の中で動きが出しやすいのでしょうか。逆の発想でした」

――固定すると、可動範囲が狭くなるのではないかと思いますが。

永井氏「逆の方向に(身体を)持っていかれている方が、思い切って力が出しやすいのではないかと思います。ただ、それも人によって違っていて、促されて力が増す選手もいれば、固定された方が良い選手もいます。ピッチングもそうですね」

若松氏「ひとりぐらい、結果が変わらない人もいると思っていましたが(笑)」

永井氏「気持ち(の持ちよう)がプラスに働いたという面は、もちろんあると思いますよ。テーピングを貼ると安心できるし、気分的にはすごく楽。人間は(注意を払うべき部位に)触れられていると意識が入りやすいので、貼っているだけでパフォーマンスが上がることはある。そういったところの影響は、忘れないようにしてほしいですね」

若松氏「動画の中でも“プラシーボ効果もあります”と言いましたが、本当に大事な一言なんです」

永井氏「実は、今回の検証は、あまりロジックにならないようにしているんです。世の中でやっていることは理論で固める習性があるので、例えば“若松先生“と“永井トレーナー”(という専門家が2人揃っている)となると、もうガチガチに固めてやらないといけないような雰囲気になってしまうでしょう。でも、もっと柔らかく、“こういうことをやってみたいよね”というところから始まった方が、いいんじゃないかなと思いますよ」

若松氏「現場はやっぱり(理論を組み立てることとは)違うでしょう。実際に使ってみて、わかることがあります。感覚もありますし、ペーパーだけがすべてではありません」

永井氏「新しいことをやるうえで、間違いなんてなにもないんです。そもそも新しいことをやっているのだから、何もわからないじゃないですか。だから、今回のようなことをやっていって、同じ感覚の人が集まってきたら面白いんじゃないですかね。やっていきたいですね」

 今回の実験では、監修した若松氏と永井氏の予想を上回るほどの結果が出た。その中でも、ふたりの “やってみよう”という熱い姿勢は印象的だった。見たことのないものが生まれるのは、いつでもこのような一歩からなのかもしれない。

・若松健太(わかまつけんた)
桜美林大学健康福祉学群専任講師。ジャンクベースボールクラブ監督兼代表。一般社団法人ジャンク野球団理事。2009~12年まで、日本体育大学体育学部助教。2009年の楽天の沖縄久米島キャンプで、一般応募から臨時トレーナーを務める。2007年にジャンクベースボールクラブを発足。2018年に引退した楽天の元盗塁王・聖澤諒氏とは公私共に親しい間柄。

・永井裕樹(ながいひろき)
株式会社T-MARC代表取締役。ジャンクベースボールクラブトレーナー。MLBサンフランシスコ・ジャイアンツ3Aフレズノ・グリズリーズで研修後、2010~14年まで、楽天でリハビリコーディネーター、コンディショニングコーチ兼通訳を務める。山梨学院大にて講師をしながら、水泳の鈴木聡美をはじめ。様々なスポーツの日本代表クラスの選手だけでなく、子どもたちへの運動指導にあたっている。

・ジャンクベースボールクラブ
2007年に発足した草野球チーム。野球を通じ「人生を豊かにする」ことを目的とする。2011年、13年、14年、16年に関東草野球リーグ1部で優勝し、第42回サンスポ野球大会の東日本大会で準優勝。2018年9月、「一般社団法人ジャンク野球団」を設立し、野球啓蒙活動も実施している。