文=鈴木健一郎 写真=野口岳彦途中出場から3分半で11得点を荒稼ぎする鮮烈デビュー昨日の国際強化試合ベルギー戦で、林咲希は鮮烈なA代表デビューを果たした。昨年も代表活動には参加していたが、ワールドカップのメンバーには選ばれず、実質的なBチー…

文=鈴木健一郎 写真=野口岳彦

途中出場から3分半で11得点を荒稼ぎする鮮烈デビュー

昨日の国際強化試合ベルギー戦で、林咲希は鮮烈なA代表デビューを果たした。昨年も代表活動には参加していたが、ワールドカップのメンバーには選ばれず、実質的なBチームの一員としてアジア競技大会に回っている。それでも一昨年はユニバ代表、昨年はBチーム、そして今年はA代表デビューと、一歩ずつ着実にステップアップしている。

その林がコートに入ったのは第1クォーター残り3分半の場面。先発の本川紗奈生に代わって投入されると、すぐさま速攻のチャンスが訪れる。素早く駆け上がって町田瑠唯からのパスを呼び込むと、ファーストタッチでありながら迷わず放った3ポイントシュートを見事に決めた。その1分後には左コーナーからオープンスリーを沈める。続くポゼッションでも相手のローテーションのミスでフリーのチャンスを得ると躊躇なく決めて、これで3本連続の3ポイントシュート成功。その後は相手センターとの1対1でスピードのミスマッチを突き、ドライブを仕掛けてファウルを誘う。このフリースローを2本とも成功させ、11得点を荒稼ぎする最高のスタートを切った。

「最初の1本が入らなかったら次のプレーがどうなったのか分からないですけど、でもその1本を打つことに対しての練習でメンタルを強化してきたので、自信を持てました」

最終的に16分のプレータイムで3ポイントシュート5本成功を含むゲームハイの19得点。ヘッドコーチのトム・ホーバスは「ベンチからすごく良い仕事をやりました。練習中にずっとこういうプレーをやっていたので、試合でできるのはすごく良いこと」とそのプレーを称え、「シューターは打ちたがるから、オフ・ザ・ボールの動きが本当に上手。そういうバスケは選手たちも楽しいし、応援している人たちも楽しんでくれると思う」と語る。

これに対して林も「トムさんの考えるプレースタイルと自分の考えがすごくマッチしている。やっててすごく楽しい」と、合宿からこのデビュー戦に至る充実ぶりに笑顔を見せた。

「私は何も考えずにいつもどおりのリズムで打つだけ」

大学時代からずっとシュート力を持ち味としてきた林は、日本代表に来てもムービングでマークを外し、パスを呼び込んでのキャッチ&シュートには自信がある。長く続いた合宿では、お互いの特徴を知り尽くしているためにディフェンスがオフェンスを上回ることがチーム内で頻発したそうだが、ベルギーはそうではない。特に第1クォーターはまだ見ぬ林のプレーに面食らった。

A代表デビュー戦とあって最初は緊張していたそうだが、出番を待つ間に気持ちを落ち着かせることができた。「チーム内でやっているとディフェンスが良いので付いてこられるんですけど、自分たちの速いペースでやればベルギーは付いてこれないって先輩たちが見てくれました。アイコンタクトがあってボールが来るので、私は何も考えずにいつもどおりのリズムで打つだけでした」

シュートの時は無心。しかし、そこに至る過程を重視する。「打つタイミングというよりも、スペースだったりカッティングのスピードだったり。打つタイミングは空いたら打つんですけど、その前の動きをトムさんはすごく重要視しているので、そこは分かっているのかなと」

「打つ前の空いているスペースを探すのが自分的にはすごく得意というか、見つけたいと思っています。あとはスクリーンを掛けてズレができるところを狙ったりというのを、いつも考えています」

「期待以上のプレーができるよう頑張っていきたい」

無心で放つシュートとは対照的に、常に頭をフル回転させなければならないのがディフェンスだ。「日本のディフェンスはバンプだったりローテーションだったりが多くて、本当に頭を使わないといけない。オフェンスはもう自分のリズムでってなるんですけど、ディフェンスは考えて考えてちゃんと集中しないとできないので、そこは意識してやってます」と難しさを語る。

タイムシェアをしていたため疲労もなく、コートに立っている間はハードワークで自分のマークを外すことなく食らいついた。それでも出来は「まだまだ」と、こちらは課題が多いようだ。

それでもデビュー戦の出来としては上々なのだが、本人は「最初の試合で結果が出たのは自分でもうれしいんですけど、これからのレベルアップのための課題も見つかった」と気を引き締める。

林にとっては日本代表での居場所を手にする大きなチャンス。だからこそ、この日の活躍を単発で終わらせず、次に繋げることが大事になる。「今はチャンスというか、良い流れ。でも絶対ピンチの時は来るので、そこは意識してやっていかないといけない」

「次はそう簡単に打たせてはもらえないと思います。今日は良いプレーができて、日曜にはまた観客の方にも期待されると思うので、それ以上のプレーができるよう頑張っていきたい」

腐らずに努力を重ねてようやく手にしたチャンス。これを確実にモノにするには、日曜の第2戦はもちろん、その後も続く代表活動で気を抜かずに信頼を重ねることが大事。ここから夏にかけて一気に自分の価値を高められるか。林はキャリアで最も重要な日々を迎えている。