9月のラグビーワールドカップ(WRC)開幕まで5カ月となった。

 4月20日。日本代表候補で編成するチーム「ウルフパック」が、スーパーラグビーのハリケーンズB(ニュージーランド)と強化試合を行ない、66-21で大勝した。勝利はもちろんだが、うれしいのは、けがで戦列を離れていたHO(フッカー)堀江翔太(パナソニック)の復活アピールだった。



後半にトライを奪い、存在感を見せた堀江翔太

 千葉県市原市のゼットエーオリプリスタジアムには4千人余の観客が集まった。前日、サンウルブズが逆転負けを喫したハリケーンズと比べると、チーム力が落ちるとはいえ、計10トライを奪った。日本代表のジェイミー・ジョセフHC(ヘッドコーチ)は「2月から重ねてきたハードワークの結晶」と喜んだ。

 堀江らしいトライは後半20分だった。右のラインアウトにボールを投入した堀江がモールのブラインドサイド、つまり右ライン際に残っていた。サインプレーでモールから直接ボールをもらったウイングのレメキ・ロマノラヴァ(ホンダ)が、そのブラインドサイドに切れ込む。

 瞬時の判断だった。相手につかまったレメキから、堀江がボールをもらって、独特なドレッドヘアを揺らしながら走る。最後にひょいとステップを切る感じで、右隅ぎりぎりに右手でボールを押さえた。

 日本代表キャップ(国別対抗出場数)「58」を誇る33歳ならではの嗅覚、視野の広さ、柔らかい動き。あれもサインプレーかと聞かれ、堀江は「とっさにです」と笑った。

「(ライン際に)残っていたのは自分の判断です。トライをとった瞬間? ま、トライをとれてよかったぐらいの感じでした」

 堀江は昨年9月に所属先での練習中に右足首を痛め、秋のニュージーランド戦、イングランド戦の日本代表メンバーから外れた。昨年11月末に手術し、リハビリに専念していた。2月の代表候補の合宿には参加し、ウルフパックとしてのニュージーランドでの第1戦(3月29日)のハリケーンズB戦に途中出場し、第2戦(4月5日)のハイランダーズB戦、そして、この日の試合に先発出場した。

 ケガで試合から遠ざかっていたからか、この日のプレーにはラグビーを楽しんでいる風情が漂っていた。右足を心配すれば、「順調な感じです」と応えた。

「足は治っています。からだの調子とか、ラグビー勘という部分も、よくなってきています」

 ウルフパックはこの日、キックオフ直後、ハンドリングミスからトライを許したが、その後は効果的なキックを織り交ぜ、15人が連動した動きを見せた。攻めにリズムをつくったのは、なんといってもスクラム、ラインアウトの安定があったからだろう。

 SH(スクラムハーフ)の流大(サントリー)は「あれだけセットピース(スクラム、ラインアウト)でドミネート(支配)してくれると、ゲーム運びがすごくやりやすい」とフォワード陣の健闘に感謝した。

 とくに堀江がよく、フォワードをリードした。ラインアウトはスローワーとして、後半21分に交代するまで、12本をすべて成功させた。スクラムもまた、優位に立った。

 スクラムのテーマは「同じ方向を向いて押しにいくこと」だった。基本は「8人で組むこと」ながら、長谷川慎スクラムコーチの指導はキメ細かい。バインドの位置から足の位置、LO(ロック)のフロントロー陣の付き方など、細部にこだわる。堀江はベテランの味を発揮し、ナンバー8からPR(プロップ)に転向した中島イシレリらの力を引き出した。

 例えば、後半序盤2本目の敵陣ゴール前の相手ボールのスクラム。左PRサイドが前に出る形になったが、そのまま8人が結束して押し込んで、相手のコラプシング(故意に崩す行為)の反則をもらった。

 堀江は短い言葉に充実感を漂わせた。

「きょうはいいスクラムが組めていたんじゃないですか」

 2015年のRWC同様、今年のRWCも日本代表の戦いの基盤はやはり、セットピースにある。ここで互角以上に戦って初めて、効果的なキックを織り交ぜた戦術も生きてくる。

 堀江は「2015年の時より、今のスクラムのほうが強いと僕は思います」と言い切る。

「8人で押しているという感覚が非常に強いんです。今の方が、相手を崩そうともしています。(スクラムでのポイントは)メチャクチャあるんです。特に前3人(フロントロー陣)が相手を崩す部分は基本的なところですね」

 現在、日本代表候補は約60人いて、ウルフパックとサンウルブズに分かれて強化している。ただ、チームの方向性、目指す戦い方は同じである。強化試合で露呈したゲームの入りなどの課題を克服し、それぞれがさらにレベルアップしていく必要がある。

 今年の3月にはラグビーでもずっと応援してくれた父を病気で亡くした。けがや悲しみを乗り越え、堀江は人間としてさらに強くなるのだろう。「ワールドカップへの手応えは?」と聞かれると、こう言った。

「必死にやっている最中なので、うまくいける、とはまったく思わないですね」

 焦らず、慌てず、諦めず。前回のRWCで逃した決勝トーナメント進出へ。堀江のチャレンジは続くのである。