スキージャンプのシーズンが終了し、帰国した小林陵侑(りょうゆう/土屋ホーム)。その手には、日本男子初となるW杯総合優勝のクリスタルトロフィーが抱えられていた。



総合優勝の証であるクリスタルトロフィーを掲げる小林陵侑

 シーズン最後のスロベニア・プラニツァ大会はフライングヒルだった。個人第1戦は1本目でトップに立ちながらも、2本目は踏み切りのタイミングを外して2位。翌日の団体戦でチームは4位だったが、個人の記録としては1本目が1位、2本目は2位と、エースとしての役目を果たした。

 そして、個人最終戦となる第2戦では、1本目に予選でマークした日本最高記録の248mを上回り、W杯ヒルレコードとなる252mを飛んだ。2本目は1本目よりゲートが2段下がって向かい風も弱くなったなかで230.5m飛び、着地もテレマークをきっちり決める完璧なジャンプを見せ、圧勝的な強さで、総合優勝に花を添える戦いぶりだった。

 そんな小林が今シーズンで一番印象に残っているジャンプは、記憶にも新しい252mの自己ベストのジャンプだったという。

「飛び出しもうまくいって空中もうまく通過したので、ああいう記録が出たのだと思います。こうなったら次の目標にするのは、世界記録の253.5mですね。でもそれを出すには条件と調子がかみ合わなければ出ないので、あまり考えないようにします」

 昨季のW杯では、平昌五輪後に出した6位が最高で、総合も24位だった。今季の小林の大爆発はまさに予想外だった。本人も驚きを隠せない。

「シーズン前の調子がいい時は、1勝くらいできるかなと思っていましたが、最初から最後までトップレベルで戦えるとは思っていなかったので、でき過ぎのシーズンでした」

 年末から年始にかけて行なわれたジャンプ週間で、グランドスラムを達成した時は世界に認められたと感じたという。

 しかし、いいことばかりが続かないのも現実。小林は「悩む」ことと「つらい」ことの2つを味わった。

 W杯開幕から12戦9勝という高い勝率を誇った小林も、札幌大会あたりでは思うような結果が残せず少しの間低迷した。この頃は一番悩んでいた時期だったという。

 そして一番つらかった時期は、メダルを期待された2月22日からの世界選手権だった。ノーマルヒルでは1本目でトップに立ったが、2本目は降雪が激しくなり14位に沈む不本意な結果に。悩んでいないときに、同じ動きをしているつもりでも結果が出ないのはつらいことだった。

 ただ、今季の小林は強かった。特筆すべきなのは、そういう時期があっても調子を大きく崩さなかったことだ。

「5戦を残してW杯総合優勝が決まりましたが、そこからも気を抜かずに戦えたというのは大きな収穫になりました。調子が悪くなっても今シーズンはずっとブレずにできたし、不安を持たずに続けられたことがかなり大きいと思います。スポーツでいい成績を残すのは簡単なことではないけど、その選手を支えてくれている人たちが周りにたくさんいることにも気がついたというか……。最後まで高いレベルで戦えたので、コーチングや体のメンテナンスをしてくれたチームの人たちに感謝しています」

 今季の第2戦で初優勝をして以来、28試合で積み上げた勝利数は13。これは15~16年のペテル・プレブツ(スロベニア)の15勝に次ぐ、08~09年のグレゴア・シュリーレンツァウアー(オーストリア)と並ぶ歴代2位の記録で、総得点数の2085点はシュリーレンツァウアーを2点上回るものだ。

「土屋ホームのヤンネ・バータイネンコーチは、いつも『ジャンプは簡単なものだ』と言ってくれるので、僕も安心して、そんな気持ちで考え過ぎずにできたのがよかったと思う。たぶん、シーズンを通してここまで調子を維持できる選手はほとんどいないと思うので、あまり考え過ぎずに次のシーズンも取り組みたいと思います。

 ただ、夏にしっかりトレーニングすると体も変わって、自分の感覚もブレると思うので、どうやって飛ぶかを夏からしっかり作っていきたいと思うし、他の国の選手も数段階レベルアップしてくると思うので、僕も進化し続けられるようにトレーニングをしていきたいと思います」

 選手たちが目指しているジャンプはシンプルなものである。風の抵抗をなるべく受けない姿勢でより強くジャンプ台に力を伝えて飛び出し、風圧によるブレーキがより少なくなる空中姿勢を素早く作り上げ、減速しないで空中を進むことだ。だが、それを時速90km前後のスピードで進むなかの、きわめて短い時間でやり終えなければいけない難しさがあり、ほんの少しの感覚のズレが飛距離に大きく影響する。

 だからこそ、好調を維持し続けることは極めて難しい競技だ。そんな中で14位と9位が1回ずつあるだけで、あとは7位以上。しかも28戦中、13勝を含めて21回表彰台に上がるというのは稀有な結果だ。

 小林が来季はどんな成長を見せて、どんなジャンプを見せてくれるのか。それが今から楽しみだ。