ラグビーワールドカップイヤーの新春を飾るにふさわしい熱闘だった。伝統校の互いの意地とプライドがぶつかる。2日のラグビー大学選手権準決勝(秩父宮ラグビー場)。明大が”らしさ”を発揮して、早大に31-27で雪辱、2…

 ラグビーワールドカップイヤーの新春を飾るにふさわしい熱闘だった。伝統校の互いの意地とプライドがぶつかる。2日のラグビー大学選手権準決勝(秩父宮ラグビー場)。明大が”らしさ”を発揮して、早大に31-27で雪辱、2季連続の決勝進出を決めた。



チームの勝利に貢献した明大主将の福田健太選手(写真中央)

『リベンジ』、これが明大のチームテーマだった。ちょうど1カ月前の対抗戦では早大に僅差で屈した。同じライバルに再び敗れることは、許されないことだった。

 後半20分。雲ひとつない青空に”メイジコール”が沸き起こる。「メイジッ、メイジッ」。ほぼ満員の2万1千の観客席では手拍子も起こり、紫紺の小旗がばたばた揺れた。

 早大の35フェーズ(回)にもおよぶ猛攻をしのぎ、明大は敵ゴール前まで逆襲してペナルティーキック(PK)をもらった。スコアは明大17-13。定石ならば、ペナルティーゴール(PG)を蹴り込んで点差をひろげるところだった。

 だが、明大はスクラムを選択した。伏線は1カ月前の対抗戦にあった。後半戦の中盤、同じような場面でPKをもらい、スクラムを選択した。だが、コラプシング(故意に崩す行為)の反則を奪われ、好機を逸した。直後、早大にトライを奪われていた。

 このシーンで、フォワード(FW)の選手たちから「リベンジ!リベンジ!」と声があがったそうだ。チームリーダーのひとり、フランカーの井上遼が述懐する。

「バックスからはショット(PG狙い)という選択肢の声も出たんですが、フォワードは”ここは行かせてくれ”と。対抗戦の時は失敗したんですが、そのミスを補うためにもスクラムでトライをとりたかった。絶対、フォワードで行かせてくれって」

 スタンドにいた明大の田中澄憲(きよのり)監督は、PKの選択判断は選手に任せている。スクラムを選択したとき、「おお~と思いました」と声のトーンを上げて記者を笑わせた。

「彼(福田健太主将)がスクラムで行くと選択したとき、すごく頼もしいなと感じたのです。(選択に)正解とかなくて、ああ、こいつメイジっぽいなって。裏目に出るのもメイジっぽいし…。うれしかったですね」

 そのスクラム、紫紺のジャージのかたまりがぐぐっと押し込むと、スクラムが左にずるずるっと動いた。瞬間、ナンバー8の坂和樹が右サイドに持ち出す。ラック。FW陣が2度、3度とサイドを突き、最後はフッカーの武井日向がポスト左のゴールライン上に右手でボールを押さえた。

 ゴールも決まって、点差を11にひろげた。井上は会心の笑みを浮かべる。

「ものすごく自信になりました。スクラムを押して、みんながしっかり、前に出られた。あそこがメイジの生命線。そこでリベンジできたんですから」

 この1カ月間は、いわば試練だった。対抗戦で早大に敗れたことで対抗戦4位扱いのノーシードとされ、大学選手権では2試合(立命館大、東海大)を戦っての正月超えとなった。対する早大は1試合(慶大)だった。

 だが、そのおかげで、田中監督は「タフになった」と言った。

「選手がたくましくなったと感じます。ノーシードから厳しいトーナメントを勝ち抜いたということが成長につながったと思います。相手をしっかりリスペクトして、相手から学んだことを、八幡山(本拠グラウンド)の練習で成長につなげることができました」

 学生ラグビーにとって、この1カ月は大事な時期となる。加えて、4年生の結束が強まった。じつは大学選手権直前、田中監督の勧めで4年生だけで八幡山駅近くの中華料理店で「食事会」を行っている。

 主力メンバーもメンバー外も、食事をしながら、腹を割って話し合った。酒なしで、食って、話して、食って、チームの方向性を確認した。意志統一である。

 井上が熱っぽい口調で思い出す。

「学生スタッフ2人を入れて、4年生22人全員でした。ぼくら4年生が手本にならないといけない。対抗戦4位になったけれど、目標の大学日本一へはブレないでいこうぜって。互いに檄を飛ばし合って…。今年はメンバー外の4年生の熱量がすごいんです」

 例年だと、この時期、試合に出られない4年生のモチベーションはどうしても落ちがちとなる。だが、今年度はちがうのだ。メンバー外の4年生でも誰ひとり、試合出場をあきらめてはいない。一昨日のスクラム練習ではレギュラー組がメンバー外のBチームに押されてしまうことも。

 井上の言葉に実感がこもる。

「ぼくは練習中に(メンバー外の)4年生のがんばりを見ていたら、涙が出てくるんです」

 ああ、ここに信頼がある。4年生同士の信頼が。こういう大学のチームは強い。1カ月前の明大と比べ、この日のチームには一体感、我慢強さがあった。とくにディフェンス。

 早大の度重なるFWとバックスが一体となった連続攻撃をしぶとく止めていった。倒れてもすぐに選手は起き上がる。タックルの点が束となり、ディフェンス網を形成していた。互いの信頼感の基は個々の責任感の強さでもある。

 最後も堅守で粘り、こぼれたボールを福田主将がタッチに蹴り出した。奇しくも、対抗戦のスコアと同じながら、勝者と敗者が逆になった。福田が小さく笑った。

「試合中、(トライ奪取直後にトライを奪われ)メイジっぽいといえばメイジっぽいところかもしれません。でも、スクラムもきっちり修正できました。不安はなく、最後までディフェンスが機能していました。粘れたことが勝因になったんじゃないでしょうか」

 今シーズンのスタートは昨季の大学選手権決勝の1点差の惜敗にある。だから、今季のチームスローガンが『Exceed』となった。悔しさを乗り越える、昨季のチームと自分を超える。結果を上回る、つまり優勝なのだ。

 決勝の相手は、王者帝京大をスクラムで粉砕した天理大となった。明大は昨年春、夏の練習試合で天理大に敗れている。もうひとつの準決勝、天理×帝京の後半をスタンドから観戦した井上にラグビー場の外で話を聞いた。

 冬の夜空の下、井上は背筋を伸ばした。「どうですか、決勝は?」。顔がこわばった。

「似たような強みを持っているチームです。外国人に負けない身体作りはやってきました。外国人をしっかり止めて、スクラムでも負けません。それが…」

 ひと呼吸おき、短くつづけた。

「プライドです」

 明大のプライドである。22季ぶりの王座奪回へ。最終学年を中心としたラグビー部全員がスクラムを組んで、昨季決勝のリベンジに燃えるのだ。