福田正博 フォーメーション進化論 アジア大会でU-21日本代表は準優勝。森保一監督は、2年後の東京五輪を見据えた戦いを見せながら、結果もしっかりと残してくれた。 日本代表監督就任直後の森保監督と話をした時に、彼は「アジアではベスト4以上…

福田正博 フォーメーション進化論

 アジア大会でU-21日本代表は準優勝。森保一監督は、2年後の東京五輪を見据えた戦いを見せながら、結果もしっかりと残してくれた。

 日本代表監督就任直後の森保監督と話をした時に、彼は「アジアではベスト4以上を狙う」と語っていた。ワールドカップのアジア最終予選で4位以内であれば確実に本大会に出場できるからだ。



コスタリカ戦に向けて調整を続ける森保ジャパン

 その言葉どおり、アジア大会はベスト4以上の決勝進出。長い目で見た時に、ベスト8で終わるのと、ベスト4以上に進むのでは大きな違いがある。ベスト4まで勝ち上がって、準決勝で勝てば決勝、たとえ負けても3位決定戦があるからだ。いろいろな選手を起用しながら、経験を積ませるという点においても、決勝まで戦えた意味は大きかった。

 ただ、試合内容に目を向ければ、課題は多く目についた。ピッチコンディションが悪いなか、グループリーグのベトナム戦では立ち上がりから自陣でパスを回してミスから失点。追いかける展開になって負けてしまい、柔軟性や順応性の不足や、国際経験の不足が露呈した。ただ、東京五輪世代のチームづくりは始まったばかり。この先、選手たちが今回の経験を生かしてくれるはずだ。

 森保監督は布陣にはあまりこだわってはいないようで、あくまでも「日本人にしかできないこと」を重視している。アジア大会では基本フォーメーションは「3−4−2−1」で臨んだが、札幌での日本代表の練習では4バックも採用している。組織力や連動性、俊敏性など、日本で育った選手の特長を生かして経験を積み重ねていけば、それが日本代表のストロングポイントになるという考えだ。

 たとえば、「一丸となって決められたことを守る」のは日本人ならでは。裏を返せば「柔軟さがない」「融通が利かない」「自分で判断できない」ことにつながるともいえるが、日本人は組織力が高く、コンビネーションを構築しやすいという長所があるということでもある。そうしたコンセプトが明確ならば、選手も対応しやすいだろう。

 ハリルホジッチ元監督もコンセプトは明確だったが、彼が指向したスタイルは、フィジカル勝負、パワーの向上など、日本人に不向きな要素が多く、日本人の長所を生かすことが難しかった。その点、森保監督は日本人のよさを理解しているし、世界と戦うために高めなければいけないポイントも把握している。

 日本人の特長をもっとも生かす戦い方として、森保監督は3−4−2−1や3−4−3のフォーメーションを使っている。強豪国に比べて体格的に劣り、個の能力で局面は打開できないし、決定力も急には向上しないのだから、攻守にわたって日本人のよさを出して、より多くのチャンスをつくるという狙いがある。また、3バックに固執しているわけではないので、対戦相手に合わせて4バックで戦うことも視野に入れている。

 森保監督は、サンフレッチェ広島時代にミハイロ・ペトロビッチ監督(現・コンサドーレ札幌)の後を継いだこともあって、ペトロビッチ監督の築いたサッカーをベースにして、そこに守備の安定をもたらしたと見ている人もいる。しかし、フォーメーションが同じ3−4−2−1だからといって、ペトロビッチ監督と森保監督が同じサッカーをしているわけではない。

 森保監督は、ペトロビッチ監督のサッカーを丸ごと踏襲したわけではなく、日本人のよさを出すために、3−4−2−1のフォーメーションを採用している。実際、森保監督とペトロビッチ監督では、守備だけでなく攻撃面でも選手の動き方が異なる。

 アジア大会には札幌から三好康児が招集されて、1トップ下のツーシャドーの一角で出場していたが、彼は札幌で見せる輝きを放つことはできなかった。これは、森保ジャパンとペトロビッチ監督が率いる現在の札幌の基本フォーメーションが同じでも、チーム内の約束事が違うことに起因している。

 まず、ペトロビッチ監督の3−4−2−1では、前線の選手の動きはほとんど上下だけで、左右にクロスしたり、ポジションを入れ替えることはあまりない。つまり、中央の選手はサイドに流れないで中央のままで、サイドの選手は中央に移動しない。

 これは、ボールは斜めに動いても、選手は斜めに動かないで上下動することでパスコースをつくり、コンビネーションを高める狙いがある。選手は味方の位置を把握しやすいので、判断スピードを速めることができ、それによってシュートチャンスをつくり出していく。

 それに対して、森保監督の場合、前線の選手は左右にクロスしてポジションを変えることもある。ボールだけでなく、選手も斜めに動くので、時には選手のポジションが被ってしまうこともあるが、能動的に動くことで相手守備陣がそれに対応して動くときにスペースが生まれやすく、そのスペースを使って相手の守備ブロック崩せるメリットがある。

 これはどちらが良い悪いというものではなく、それぞれの監督がメリットとデメリットをどう捉えているかの違いだ。森保監督の場合、選手はある程度自由に動ける反面、状況判断が遅れると攻撃のテンポが悪くなる可能性があり、ペトロビッチ監督のスタイルでは、選手の判断は速いが、相手に攻撃パターンを読まれやすい。

 つまり、同じフォーメーションでも、表現していることは違う。だからこそ、アジア大会での三好は、ペトロビッチ監督のサッカーと、森保監督のサッカーの違いに少し戸惑ったのだろう。森保監督とペトロビッチ監督の3−4−2−1を比較すると、ペトロビッチ監督のスタイルがより特殊な戦術と言える。三好は今後、両監督のシステムの違いを理解して適応していけば、五輪代表でも自分の特徴をもっと発揮できるはずだ。

 森保監督のシステムは、サイドにどういう選手を置くかによって、その試合を監督がどう捉えているかが見えるのもポイントだ。攻撃に特徴のある選手を置くのか、守備が長所の選手を置くのか、あるいは、先発する選手の武器がドリブルなのか、クロスなのか。

 森保監督のサッカーを日本代表に浸透させるには、オシム監督時代のように平日に国内組で代表合宿を張ってチームワークを高めていく方法が理想的だが、それを実現することは難しい状況にある。それだけに五輪代表監督も兼務するメリットを最大限に生かしてほしい。

 今回、森保監督は日本代表に堂安律(フローニンゲン)、冨安健洋(シントトロイデン)、伊藤達哉(ハンブルガーSV)という東京五輪世代の海外組を招集したが、彼らが日本代表でもプレーすることは、森保監督が日本代表と五輪代表を兼任することのメリットといえる。世代交代が求められる日本代表にとって、堂安たち五輪世代が牽引役になっていくはずで、2年後の東京五輪での成功を見据え、日本代表でもいい経験を積んでいってほしい。 

 森保監督は、広島時代に佐藤寿人(現・名古屋グランパス)と浅野拓磨(現・ハノーファー)をうまく使いわけながら世代交代をした実績もある。今回、広島時代に指導した青山敏弘らを招集したのは、自らの戦術をよりスピーディに浸透させていくためだろう。ベテランの力もうまく使いながら、若手を引き上げる手法を持っている監督だけに、どういった選手を招集しながら、森保カラーで日本代表と五輪代表を染めていくのか楽しみだ。