言ってみれば、世界最高の選手がイタリア最強のチームでデビューするだけのこと――。にもかかわらず、試合が行なわれたベローナは、まるで一国の要人がやってきたようなものものしさで、スタジアムには対テロの特殊部隊までが出動した。 ベンテゴーデ…

 言ってみれば、世界最高の選手がイタリア最強のチームでデビューするだけのこと――。にもかかわらず、試合が行なわれたベローナは、まるで一国の要人がやってきたようなものものしさで、スタジアムには対テロの特殊部隊までが出動した。

 ベンテゴーディ・スタジアムは満員御礼。ホームのキエーボ・ベローナのサポーターよりも、確実にユベンティーノの数のほうが多かった。何時間も前からスタンドに陣取っていた彼らは、待ちきれなくて身もだえし、試合前のウォームアップに選手たちが姿を見せると、クリスティアーノ・ロウナドがボールに触れるたびに拍手を送った。そう、ただボールに触るだけで。



セリエAデビューを飾ったクリスティアーノ・ロナウド(ユベントス) photo by Maurizio Borsari/AFLO

 おかしなことだ。他のチームならいざしらず、ユベンティーノはスタープレーヤーには慣れているはずだ。オマール・シボリ(1950~60年代に活躍したアルゼンチン人)に始まり、ミシェル・プラティニ、ロベルト・バッジョ、アレッサンドロ・デル・ピエロ。最近もカルロス・テベスやゴンサロ・イグアインと、名選手が途切れたことはない。目も肥えているはずだ。

 しかし、ロナウドの加入が決まって以来、メディアの音頭に乗せられたのか、彼への期待は、宇宙にも届くほど高くなってしまった。まるで他の惑星からやって来た異星人のような扱いで、誰もが地球人以上の活躍を彼に期待している。

 そんなセリエA開幕戦はどうだったのか。

 結果からいえば、ユベントスにとっては悪い開幕戦ではなかった。サミ・ケディラ、レオナルド・ボヌッチ(正確にはキエーボのオウンゴール)、フェデリコ・ベルナルデスキがゴールを決め、2-3で勝利を持ち帰ることができた。

 エイリアン級だというロナウドの名前は、得点者のところにはない。しかしロナウドは、どんなに厳しい目で見ても、まぎれもなくこの日のMVPだった。ボールを触った回数こそ多くはなかったが、ボールが彼のところへ来たときには、彼はほんの一秒たりとも躊躇することなくシュートを放っていた(全部で8本)。

 だが、キエーボのGKステファノ・ソレンティーノは、ロナウドに触発されたのか、この日は神がかったスーパーセーブを連発した。ソレンティーノがこれほど絶好調でなかったら、ロナウドのデビュー戦はまた別の物語になっていたろう。

 ロナウドはまだチームに合流してから日も浅いし、コンディション調整も他の選手に比べて遅れている。それでもよく走り、最後の最後まで手を抜かずにプレーしたことは高く評価できる。また、パウロ・ディバラとの相性のよさが垣間見えたことは、ユベントスにとってうれしい兆しだった。

 一方で、ユベントスがこの開幕戦で、チームが以前から抱える大きな短所を露呈させていたことも見逃してはならない。アントニオ・コンテが去り、マッシミリアーノ・アッレグリが監督に就いて以来、ずっと修正できていない欠点だ。

 ユベントスは自分たちが強いことを知っている。そのため、リードした途端(キエーボ戦はすでに前半3分にリードしている)、選手たちは無意識のうちに「試合はもう決まったも同然」と感じてしまうようだ。そのため、以降は緩いボールを回したり、バックパスを頻発したりと、闘志がガクリと落ちてしまうのだ。

 これは致命的なリスクをはらんでいる。なぜならテクニックで劣るチーム(まさにキエーボがそうだった)は、ユベントスにリードされたら、もう失うものは何もなくなる。やるべきことはひとつ、ただ全力で攻めるだけだ。

 キエーボ戦のユベントスも、1-1の同点にされると、元ユベントスのエマヌエレ・ジャッケリーニにPKを決められて逆転されてしまった。世界最高の選手を擁するイタリア最強のチームが、たとえ一瞬でも、キエーボという小さなチームの後塵を拝してしまったとは、信じられない話だ。強いが傲慢で全力を出さないチームに、弱くとも本気のチームが挑めばどういう結果になるか、そのいい例だった。

 もちろん、さすがにユベントスはそこで終わらず、リードされてやっと目を覚ますと、再逆転して最後には勝利を収めた。しかし、いつもこんな風にうまくいくとは限らない。勝利を喜びながらも、ユベントスがこの戦いぶりを反省しているかどうかが、今後のチームの行方を占うだろう。初参戦のロナウドは、この欠点に気がついただろうか……。

 この日、ロナウドは笑顔でピッチを後にした。ゴールにはならなかったものの、多くのシュートを放ち、チームも勝利した。CFとしてよく動き、変化に富んだプレーでチームをアシストした。決して悪いデビュー戦ではなかった。ただし、皆が期待していたエイリアン級の活躍とは程遠かった。彼が本領を発揮するにはもう少し時間が必要だろう。

 ユベンティーノは、次節のホーム戦こそはロナウドのスーパープレーを見ることができると待ち構えている。

「ロナウドはセリエAの初ゴールをアリアンツ・スタジアムで決めるためにとっているのさ」

 そんな声があちこちから聞こえてきた。