クリスティアーノ・ロナウドが加入を発表して以来、ユベントス周辺で、いやイタリア中で、お祭り騒ぎが続いている。7月の上旬にこの一報がもたらせると、W杯などそっちのけで(イタリア代表が不参加だったことも大きいが)、イタリアはロナウド一色と…

 クリスティアーノ・ロナウドが加入を発表して以来、ユベントス周辺で、いやイタリア中で、お祭り騒ぎが続いている。7月の上旬にこの一報がもたらせると、W杯などそっちのけで(イタリア代表が不参加だったことも大きいが)、イタリアはロナウド一色となった。



8月8日から本格的なトレーニングに入ったクリスティアーノ・ロナウド

 新聞ではロナウドの動向とともに、ロナウドマニアのエピソードが連日紹介されている。

 たとえばバレーゼに住む、あるユベンティーノ(ユベントスファン)は、ロナウドのユベントス入りが噂されていたころ、「もし(アンドレア・)アニエリ(ユベントス会長)がロナウドを買ってくれたら、歩いてトリノまで行く」と自身のSNSで宣言。本当に38度の酷暑のなか3日間、約140kmの距離を歩いて、ロナウドのお披露目を見に出かけた。

 また、欧州議会のアントニオ・タヤーニ議長は自他ともに認めるユベンティーノだが、ただロナウドに会いたい、ユニホームにサインをもらいたいがために、わざわざユベントスの練習場コンティナッサまで赴いた。ヨーロッパで一番権威ある職にある男の、まるで少年ファンのような行動には賛否が割れたが、これが今のトリノの現状だ。

 マスコミの報道も過熱気味だ。他のメンバーがアメリカツアーに行っている間の、数人での練習試合でゴールしただけで、新聞のタイトルは「ロナウド、ユベントスでの初ゴールをマーク」。トリノで初めて外食したのはレオナルド・ボヌッチお勧めのレストランで、食べたメニューは「パルメザンチーズのニョッキにチキンのシーザーサラダ、赤ワインのバルバレスコを一杯」と、何でもニュースになってしまう。

 こんなブームにユベントスは笑いが止まらない。ロナウドの加入が決まってからチームの株価は一気に40%上昇した。背番号7と彼の名前入りのユニホームは初回分5万5000着を販売したが、すぐに完売。その売上げは630万ユーロ(約8億2000万円)となり、9月末まで入荷を待たなければいけない状態だ。ユベントスを敵視するナポリで5000枚のロナウドのユニホームが売れたことも、驚きとともに報道されている。

 チケットの売り上げも好調だ。ユベントスは強気で、年間シートの金額を去年より30%値上げした。一時期はウルトラスからの抗議にあったが、それでも2週間ですべて売り切れてしまった。

 一方、ロナウドに高い報酬を払うなら、系列会社の労働者である自分たちの給料を上げろとフィアットの一部社員がストを計画していたが、それはロナウドブームの中で立ち消えになってしまった。結局、彼らもロナウドの加入がうれしかったのだ。

 恩恵を受けるのはユベントスだけではない。セリエAの試合日程が決まると、ロナウドを迎える各チームもブームが派生した。

 とくにロナウドがセリエAデビューを果たす開幕戦、キエーボ・ベローナのチケットの値段は急上昇。メインスタンドは100ユーロ(約1万3000円)から150ユーロ(約1万9500円)に、ゴール裏は30ユーロ(約3900円)から50ユーロ(約6500円)に急遽値上げした。実に66%の値上げ率だ。しかしそれでも発売とともに売り切れ、ネットではさらに高値で転売されている。

 また、第5節にユベントスを迎えることになったフロジノーネは、セリエAに昇格したばかり。過去に1シーズンだけセリエAでプレーしたことがあるだけの小さなチームだ。人口は4万6000人でスタジアムの収容人数は1万6000人。ユベントスがやって来るだけでもすごいのに、ロナウドまでやってくることになり、チケット販売はパニックに。一説によると一番高い席は600ユーロ(約7万8000円)になるといわれている。

 涙を呑んだ者もいる。マッティア・カルダラは24歳の有望なDFで、すでに今年の1月に、新シーズンはユベントスでプレーすることが決まっていた。無事入団会見も済ませ、「ロナウドとともにプレーするなど夢のようだ」と言っていたのに、突如ミランへ売られることになってしまった。より強力になったユベントスにボヌッチが帰ることを望み、ユベントスもボヌッチの帰還を願ったことから、カルダラはゴンサロ・イグアインとともにトレードの対象となってしまったのだ。

 パリ・サンジェルマンに移籍したジョンルイジ・ブッフォンからキャプテンマークを受け継いだジョルジョ・キエッリーニは「カルダラはロナウド移籍の最大の犠牲者だ」と同情する。さらにキエッリーニは過熱気味のロナウドブームにも一石を投じた。

「ロナウドの加入はチームに新たな興奮をもたらしている。しかし、試合は皆で勝つものだということを忘れてはいけない」
 
 周囲の熱狂とは一線を画し、ロナウド自身は落ち着いてプレーする準備ができているようだ。トリノ郊外の丘の上に立つ豪邸は5000平米の森に囲まれ、建物の広さは800平米。トレーニングマニアの彼のために屋内プールやジムも完備されている。

 アメリカ遠征を行なっていたユベントスはトリノに戻り、8月8日からは新シーズンに向けてのトレーニングが本格的にスタートした。ロナウドもチームに溶け込んでいるようで、その周囲では笑いが絶えない。練習でパスをミスしたロナウドを、パウロ・ディバラとドウグラス・コスタがからかって踊り、ミニゲームではロナウドにゴールさせまいと、ダニエレ・ルガーニがゴールを動かしてしまうシーンが見られた。

 このロナウドブームが空騒ぎにならないことを祈るばかりだ。ユベントスがロナウドを獲得した狙いは、ずばりチャンピオンズリーグの奪還にある。ユベントスが最後にこのタイトルを制してからすでに22年が経つ。ロナウドはすでにチャンピオンズリーグを5回制しており、悲願に向けたプロジェクトには最適の男だ。

 ロナウドの脇を固める選手たちもそろっている。ただし、時間はあまりないのも事実。最強といわれたユベントスのDF陣も軒並み30歳を超えているし、ロナウド自身も33歳だ。これに関しては、ライバル・ナポリのアウレリオ・ラウレンティス会長が、こんな皮肉なコメントをしている。

「33歳の終わりかけの選手にこんな大金をはたくなんて、ユベントスは太っ腹だ」

 セリエAの開幕は8月18日。近年になく盛り上がるシーズンになりそうだ。