攻撃の指標で見る各チームの打撃の“質“の違いは? 今では珍しくなった商業高校同士の対決や、夏の高校野球選手権優勝経験校同士の対決など、気になる対戦が見られた第3日目。ただ、試合中に足がつるなど高温での試合という影響も少なからず出てきています…

攻撃の指標で見る各チームの打撃の“質“の違いは?

 今では珍しくなった商業高校同士の対決や、夏の高校野球選手権優勝経験校同士の対決など、気になる対戦が見られた第3日目。ただ、試合中に足がつるなど高温での試合という影響も少なからず出てきています。

 では第3日目の試合をセイバー目線で分析してみましょう。

◯攻撃指標
(OPSは出塁率+長打率。wOBAは1打席あたりにどれだけチームの得点に貢献したかを表す指標。O-swing%はボールゾーンのスイング率、Z-swing%はストライクゾーンのスイング率、Z-contact%はストライクゾーンのコンタクト率)

【佐賀商業】
得点1 打率.152 出塁率.222 長打率.152 盗塁1/2
OPS.374  wOBA0.275
O-swing% 26.9% Z-swing% 73.9% Z-contact% 78.4% 

【高岡商業】
得点4 打率 .200  出塁率 .250 長打率 .333  盗塁4/4
OPS.583  wOBA.295 
O-swing% 35.1% Z-swing% 75.8% Z-contact% 80.9%   

 安打数は佐賀商5、高岡商6でしたが、塁打数は佐賀商5、高岡商10と倍。本塁打を含む長打の差が得点の差となりました。

 両チームのO-swing%の多さは各チームの投手のゾーンギリギリをつく絶妙な投球によるもの。ただ7回裏、佐賀商投手のコントロールが甘くなったところを高岡商の打者がしとめ、長打を稼ぎ勝利を決定づけました。両チームのZ-contact%の低さは、両エースのストレートの威力があり、ゾーンに来てもバットに当てられないことを示しています。

【近江】
得点7 打率.281  出塁率.343 長打率.568 盗塁2/2
OPS.905 wOBA.390
O-swing% 33.3% Z-swing% 55.6% Z-contact% 82.5%   

【智弁和歌山】
得点3 打率.333 出塁率.462 長打率.333 盗塁0/2
OPS .795 wOBA .369
O-swing% 21.3% Z-swing% 58.0% Z-contact% 87.2%   

 打率では智弁和歌山が上回っていますが、智弁和歌山のヒット10本はすべて単打。本塁打3本を効果的に放った近江がOPSやwOBAで上回っています。
 
 近江のO-swing% 33.3%は高めの部類ですが、本塁打とした球は、ストレート、スライダーが甘く入ったものであったり、フォークが落ちきらずにストライクゾーンに来た球だったりで、その失投を見逃さず仕留めホームランにした打者を褒めるべきでしょう。

【前橋育英】
得点2 打率.161 出塁率.212 長打率.194 盗塁1/1
OPS.406 wOBA.188
O-swing% 27.3% Z-swing% 76.9% Z-contact% 80.0% 

【近大付】
得点0 打率.214 出塁率.267 長打率.214 盗塁 0/1
OPS.481 wOBA.260
O-swing% 13.6% Z-swing% 77.6% Z-contact% 88.9%  

 打者指標だけみれば近大付の方が上回っているようにみえます。ただ近大付属のヒット6本のうち5本はランナーなしから。残り1本は8回1死二塁という状況で生まれたヒットですが、前橋育英レフトの好返球により本塁生還を阻止されたのでした。なお近大付のO-swing%の数値は低い部類であり、選球眼が鍛えられていることがわかります。

【益田東】
得点7 打率.361 出塁率.410 長打率.472 盗塁0/0
OPS.882 wOBA.391 
O-swing% 28.8% Z-swing% 66.7% Z-contact% 91.7% 

【常葉大菊川】
得点8 打率.273 出塁率.368 長打率.485 盗塁 4/4
OPS.853 wOBA.405 
O-swing% 6.8% Z-swing% 66.7% Z-contact% 91.7% 

 益田東と常葉大菊川の打撃指標はほぼ互角。ただ盗塁が益田東0に対し常葉大菊川4と走塁を含めた機動力で差が出たようです。

 そして何よりも特筆すべきは、常葉大菊川のO-swing%が6.8%と驚異的なこと。これまで出場したチームの中で最小です。普段の練習でかなり選球眼が鍛錬されていることを示す指標となっています。しかし、4回裏に飛び出した1番・奈良間選手のホームランは、低めのボールゾーンにきた球をうまくすくい上げてバックスクリーンまで運んだもの。これが常葉大菊川の「考える野球」の体言ではないでしょうか。

全体的にゴロアウトが多かった各チームの投手

◯投手指標
(P/IPは1イニングあたりの投球数、WHIPは1イニングあたりで安打、四球でどれだけ走者を出したかの指標、GO/AOはゴロアウトの総数をフライアウトの総数で割って算出)

【佐賀商業】 
木村颯太(右)
8回 投球数119 P/IP 14.88 WHIP 1.00 GO/AO 1.28

【高岡商業】
山田龍聖(左)
7回 投球数110 P/IP 15.71 WHIP 1.00 GO/AO 1.67
大島嵩輝(右)
2回 投球数26 P/IP 13.00 WHIP 0.50 GO/AO 0.67

【近江】
松岡裕樹(右)
2回 投球数40 P/IP 20.00 WHIP 2.00 GO/AO ∞  
林優樹 (左) 
3回1/3 投球数62 P/IP 18.60 WHIP 2.40 GO/AO 2.00  
佐合大輔 (右) 
2回2/3 投球数38 P/IP 14.25 WHIP 1.13 GO/AO ∞  
金城登耶 (左) 
1回 投球数30 P/IP 30.00 WHIP 3.00 GO/AO 0.50  

【智弁和歌山】
平田龍輝(右)
7回2/3 投球数119 P/IP 15.52 WHIP 1.17 GO/AO 3.33  
小堀 颯 (右) 
1回 投球数26 P/IP 26.00 WHIP 3.00 GO/AO ∞  
池田陽佑 (右)
 0回1/3 投球数5 P/IP 15.00 WHIP 0.00    

【前橋育英】
恩田慧吾(右)
9回 投球数103 P/IP 11.44 WHIP 0.89 GO/AO 5.00  

【近大付】
大石晨慈(左)
9回 投球数120 P/IP 13.33 WHIP 0.78 GO/AO 2.80  

【益田東】
和田晃成(右)
8回 投球数131 P/IP 16.38 WHIP 1.75 GO/AO 4.00  

【常葉大菊川】
漢人友也(右)
6回1/3 投球数122 P/IP 16.74 WHIP 2.05 GO/AO 2.50  
榛村大吾 (左) 
2回2/3 投球数84 P/IP 18.75 WHIP 1.13 GO/AO 1.00

 佐賀商業と高岡商業の先発投手はストレートに威力があり、どちらもストレートで10%以上の空振りをとっています。またスライダーでのキレも鋭く多くの空振りをとっていることがわかります。

 第3日目に登板した先発投手はゴロでのアウトが多く、GO/AOも軒並み高い数値となっています。特に、前橋育英の恩田投手のGO/AOは9回を投げて、なんと5.0。低めにうまくコントロールし、味方の守備陣に託す投球を披露しました。(鳥越規央 / Norio Torigoe)

鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、統計学をベースに、テレビ番組の監修や、「AKB48選抜じゃんけん大会」の組み合わせ(2012年、2013年)などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。一般社団法人日本セイバーメトリクス協会会長。
文化放送「ライオンズナイター(Lプロ)」出演
千葉ロッテマリーンズ「データで楽しむ野球観戦」イベント開催中
トークイベント「セイバー語リクスナイト」7月19日開催