6月30日、ソチのフィシュトオリンピックスタジアム。試合終盤、クリスティアーノ・ロナウドが審判に向かって抗議で詰め寄り、イエローカードをもらっていた。憤懣(ふんまん)やる方ない表情を見せるC・ロナウド。リカルド・クアレスマが見せたドリ…
6月30日、ソチのフィシュトオリンピックスタジアム。試合終盤、クリスティアーノ・ロナウドが審判に向かって抗議で詰め寄り、イエローカードをもらっていた。憤懣(ふんまん)やる方ない表情を見せるC・ロナウド。リカルド・クアレスマが見せたドリブル突破はファウルを受けたかのようにも見えたが、笛は鳴っていない。それがほとんどラストプレーとなった。
ロシアW杯ラウンド16。ポルトガルはウルグアイに1-2と敗れている。C・ロナウドにとって、W杯最後の夜となった。
ウルグアイに敗れ、下を向くクリスティアーノ・ロナウド
試合開始からペースを握ったのは、ウルグアイだった。C・ロナウドに対しても、体当たりで思い切りぶつかっていった。例えばルーカス・トレイラは身長168cmと小柄なMFで、国際的にはまだ無名だが、献身、犠牲、闘争心で敢然と対抗した。
そして前半7分、ウルグアイは勢いのままに先制する。FWエディンソン・カバーニがボールを中央からやや右へ持ち上がり、左サイドのFWルイス・スアレスに展開。スアレスはディフェンダーと対峙しながら、右足でクロスを打ち込むコースを巧みにつくり、ファーポストにボールを流した。これに走り込んでいたのがカバーニで、高いジャンプから豪快なヘディングで叩き込んだ。
ツートップによる”壮大なワンツーゴール”だった。
その後もウルグアイは、強力なツートップが激しくポルトガルのバックラインを攻撃する。それに励まされるように、全員が奮闘した。
「ロナウドのナルシズムと傲岸さが嫌い!」
ウルグアイ人にとって、C・ロナウドは不人気の選手のひとりだという。集団としての規律と闘志を重んじる国民性だけに、受け入れられないのかもしれない。クラシコでは犬猿の仲である隣国アルゼンチンのリオネル・メッシのほうを応援するほどだ。
後半は欧州王者のポルトガルも、意地を見せるように反撃に出た。マンチェスター・シティで活躍するベルナルド・シウバが高い位置でボールを持つようになると、攻撃が活性化。ウルグアイの勢いを封じ、押し込めるようになる。
後半10分だった。左CKのショートコーナーから、ラファエル・ゲレイロが左足で巻いて落とすようなキックでクロスを入れると、ファーポストにいたペペが頭で合わせ、同点とした。
ポルトガルは、一気に勝負を決めにいくべきところだった。ところが、エースのC・ロナウドの動きが冴えない。
C・ロナウドは前半、ベルナルド・シウバとのワンツーでミドルシュートを打っているが、ほとんどのシュートはディフェンスにブロックされるか、その前に奪われている。サイドで得意のシザースフェイントを試みても、相手の集中したマーキングを外せない。得点シーンはDFのマークを集め、ペペをフリーにしていたものの、強引さが目立ち、コンビネーションもほとんど使えなかった。
そして後半17分、ウルグアイはマークを集めたロドリゴ・ベンタンクールからの滑るようなパスを、カバーニが左サイドから右足で巻き込んだ。今大会のベストゴールのひとつに数えられるような美しい軌道のシュートを決め、逆転に成功した。カバーニはこの後、負傷交代を余儀なくされたが、この日、主役の座をC・ロナウドから奪っている。
まだ試合の残り時間はたっぷりとあったが、C・ロナウドの表情は曇ったままだった。相手を見下し、ひれ伏させる。尊大な”王”の顔が消えた。自らを焚きつけ、王たる道を極めてきた男が、まるで物思いにでもふけっているようだった。シュートはずっとブロックされ続けた。
「我々はいい試合をしたと思うし、これ以上の結果に値した。しかし、試合に勝つのはいつも、より多くのゴールを入れたチームだ」
試合後、C・ロナウドは淡々と感想を語っている。大会前、謙虚にも「決勝トーナメント進出」を目標に掲げていただけに、それは成し遂げたというところか。大会を通じ、どこか達観したところがあった。
「キャプテンとしてこのチームのことを誇りに思っている。胸を張って帰りたいと思う。これからも多くのことを勝ち取るチームだろう。今後の進退? それについて語るべきタイミングではない」
34歳のC・ロナウドは代表引退も囁かれている。これだけのタイトルを手に入れながらも、W杯だけは手が届かない。これからどうなるにせよ、ひとつの時代が終わったということだろうか。
もっとも、そのサッカー人生はこれからもしばらくは続く。
「ロナウドはユベントス移籍で決まりか?」
試合の翌日、イタリアのスポーツ有力紙「トゥットスポルト」がすっぱ抜いている。C・ロナウドは所属するレアル・マドリードとの契約更新を「評価されていない」と感じて拒否している。それは周知の事実だけに、「移籍に向けた動きは加速する」とも言われる。もちろん、レアル・マドリードがそう簡単に手放すはずもないだろうが……。
スーパースターは敗れても一面を賑わすものだ。
>
>