その日、背番号5はボスであり、リーダーで、ひとりのラグビーを愛する大学生だった。 青木蘭が笑顔で秩父宮ラグビー場を駆けた。 6月24日のことだ。 同日、関東大学オールスターゲームのうちの1試合として、リーグ戦・対抗戦選抜女子チーム×日本体…

 その日、背番号5はボスであり、リーダーで、ひとりのラグビーを愛する大学生だった。
 青木蘭が笑顔で秩父宮ラグビー場を駆けた。
 6月24日のことだ。
 同日、関東大学オールスターゲームのうちの1試合として、リーグ戦・対抗戦選抜女子チーム×日本体育大学ラグビー部女子・Bがおこなわれた。青木は選抜チーム唯一の4年生としてキャプテンを務めた。

 28-17と快勝した後、キャプテンは言った。
「すごく楽しめました。みんな、ここにいてほしいところにいて、(パスを)投げてほしいところに投げてくれました」
 メンバーが決まってから平日に2回集まり、前日にも練習した。
 西村一帆コーチが言った。
「平日の2回は、みんな東海大まで来てくれて、練習しました。チームの方針を書いた紙を渡したのですが、全員、それをくしゃくしゃになるまで読んでいました」
 その成果が出た。

 普段はそれぞれのチームでプレーしているメンバーをつないだのが青木主将だった。
 幼い頃から楕円球に親しみ、石見智翠館高校、慶應義塾大学に学び、東京フェニックスに所属した後、現在は横河武蔵野アルテミスターズでプレーしている。その幅広い経歴の中で、今回の選抜メンバーのほとんど全員とプレーしたことがある。
「楽しもう。それをキーワードに、アグレッシブに自分の持ち味を出していこうと言いました。ガチガチになっていたらいいプレーができないので、リラックスできるような雰囲気も意識して作りました」
 のびのびとしたプレーが勝利を呼ぶ。楽しいに決まっている。

 スタンドには、関東大学対抗戦A・B、関東大学リーグ戦1部~6部のチームに所属する選手たちの多くが集まり、いい空気が流れていた。
 目の前に次々に登場するコンバインドチームが短い時間でひとつにまとまる姿を見て拍手をおくる。自分たちのチームを代表してピッチに立つ仲間の活躍に沸く。そして、そんな声援は、女子チームの試合時にも届き、想像していた以上のプレーが繰り広げられたからだろう、ときには驚きの声も漏れていた。

 そんな中でプレーした青木主将は、「きょうは、個人的には慶應を背負って試合に出ました」と話した。
「慶應に女子(ラグビー選手)もいると知っている人も少ないと思うので、(大学選抜の一員として)プレーできたのは大きいし、嬉しかった」
 今年、初めて結成されたリーグ戦・対抗戦選抜女子チーム。女子ラグビーの人口が増えている背景を考えれば、これから毎年同様のチームを組むことは可能だろう。
 青木蘭は、その歴史的チームの主将として仲間とともに名を残し、笑顔を印象付けた。