6月17日に行なわれた全九州高校体育大会のバスケットボール男子準決勝、延岡学園vs.福岡大大濠(おおほり)。今年2月にコンゴ民主共和国から来日した延岡学園の15歳の留学生が、敗色濃厚な試合の残り40秒にファウルを吹かれると、副審に近づき顔面を殴打。副審は後頭部から倒れ、会場は騒然となった――。



岡山学芸館の留学生だったモーリス・ンドゥール(左)はその後NBAの世界へ

 当然、この留学生の暴力行為が許されないことであることを前提に話を進めたい。

 この試合、不穏な空気は、その前からあった。

 問題の選手は、技術的にもまだ未熟な控え選手で、普段なら大きなリードを奪った状況、もしくは敗戦が濃厚な状況でしかコートに立つことはなかった。しかしこの試合、スターターの先輩留学生がファウルトラブルに陥る。先輩留学生は吹かれた笛に不服で、リングの支柱部分を蹴るなどの行為もしていた。交代で入った問題の留学生がコートに立った時点で、すでにエキサイトしていたであろうことが想像できる。

 映像を見た方も多いだろう。問題の留学生がスクリーンプレーの際に、ムービングピックで笛を吹かれたことを端に暴力行為に発展した。

 このファウルを吹かれたプレーだけを見れば、スクリーンの際に留学生はわずかに動いているようにも見えるが、相手ディフェンス側が身体をぶつけにいっているようにも見え、微妙な判定に思える。しかし、このプレーの直前に、この留学生は接触を伴う危険なファウルで笛を吹かれている。つまり、副審がこれ以上試合が荒れないようにと吹いたであろう笛の直後に事件は起こった。

 衝撃的な映像、事件であったことは間違いなく、学生スポーツのあり方が問題視されているタイミングでもある。ただ、これをもって留学生の存在そのものを否定するような意見も耳にする。当たり前すぎることだが、問題のある留学生もいれば、真面目にバスケだけでなく、学校生活や異国での生活に馴染もうと日々がんばっている留学生もいる。少しでも、留学生選手の置かれた状況と、その歴史が理解されればと願ってやまない。

 そこで、まずは高校バスケの留学生の歴史を簡単に紐解きたい。

 1990年代から、長身の中国人留学生は全国の強豪チームに散見された。

 2000年代になると、まずはセネガル人留学生の台頭が目立つようになる。今回問題となっている延岡学園は、2003年に207cmのママドゥ・ジェイ(※2013年に日本国籍取得)を擁し、全国大会に出場。アフリカ人留学生受け入れの先駆け的存在でもあった。

 その後、九州の高校などを中心に、徐々にアフリカ出身の留学生の受け入れが進み、その流れが全国にも広がっていく。

 名門・能代(のしろ)工業がウインターカップで最後に優勝したのが2004年、インターハイで最後に優勝したのが2007年であることからも、200cmを超す長身かつ身体能力も高い留学生の出現が勢力図を塗り替え、能代が勝てなくなった一因であるとも推測できる。

 留学生の受け入れにより飛躍的にチーム力を向上させた高校が現れる一方で、さまざまな問題もあった。2004年のインターハイで優勝した福岡第一のセネガル人留学生の年齢詐称が発覚し、優勝が取り消されたことも、そのひとつだろう。

 セネガル人留学生が急増したころ、「ブローカーに払う金額で留学生のランクが決まる」と揶揄(やゆ)されたこともある。日本語がまったくできない状態で来日し、身長こそ高いがバスケ未経験、うまくコミュニケーションがとれず友達もできず、日本文化にも馴染めず、なかには問題を起こしてすぐに帰国する留学生もいたとも言われている。

 時代は流れ、今ではセネガルだけでなく、マリやコンゴなど、より多くの国から留学生が来日している。留学生を受け入れる高校も増え続け、特に強豪県以外の新設校などは、優秀な留学生がひとりいれば、いきなり全国大会に進出することも夢ではないため、留学生の受け入れにより積極的な傾向があるように思える。ある県では、昨年初めて留学生を受け入れたチームが県で上位に進出。慌てたライバル校も留学生の受け入れを始めたということも起こっている。

 よほど全国から優秀な日本人中学生を多数スカウトできる高校以外は、留学生に対抗するには留学生というのが現実だろう。

 一方、日本人選手が高校時代から200cmを超すビッグマンと対戦できることが、技術の向上には著しく貢献していることも紛れもない事実だ。

 ただ、留学生の待遇は高校により、かなり差があることも否めない。高校バスケ関係者によれば、学校生活のみならず、私生活から厳しく管理する高校もあれば、日本語がわからないため、授業にほとんど出席しない状態を黙認する高校もあるという。

 また、チームの大黒柱でもある留学生に気分よくプレーさせようと、厳しく指導しない指導者や、そもそも留学生の育成ノウハウを持たない指導者もいる。報道されないだけで、過去には暴力事件や対戦相手に唾を吐くなどの行為もあった。

 留学生の存在は、当然、メリットとデメリットが存在する。まずは、長年目を背け続けてきた、学校ごとに差のある外国人留学生の待遇改善が急務だろう。

 ちなみに、延岡学園は2011年に高校3冠を達成しているが、2012年に監督が交代している。2013年以降は全国大会に出場することはあっても、成績は下降していた。

 ある高校の指導者に話を聞くと、こんな話をしてくれた。

「今はアフリカ人の選手だからといって、貧しい家庭出身とは限りません。裕福な家庭な子で、アメリカやヨーロッパへ留学する感覚で日本に留学している生徒も多い。母国語、フランス語だけでなく、英語も話せ、すぐに日本語も覚える留学生もいれば、最後まで覚えられない留学生もいる。当然、真面目な選手も、不真面目な選手もいる。アフリカ出身だからといって、ステレオタイプにひと括(くく)りにすることはできません」

 実際、「日本の文化に憧れていた」という理由で2008年、岡山学芸館に留学したセネガル出身のモーリス・ンドゥールのように6ヵ国語を操り、卒業後、アメリカの大学を経てNBAまでたどり着くような留学生もいる。
 
 最後に、口内を10針縫うこととなった副審は留学生から謝罪を受け、「今回のことで日本を、バスケを嫌いになってほしくない」と被害届を出さないとのこと。

 今後、今回のような暴力事件が繰り返されないことを願う。同時に、犯した罪は償(つぐな)うことを前提に、遠く離れた異国から来日して4ヵ月、文化にも言語にも戸惑う15歳の少年が再起できる社会であってほしい。