東海大・駅伝戦記  第28回関東インカレ(後編)5000mでポイントを獲得した鬼塚翔也(写真は昨年の日本選手権)――関東インカレ。 東海大は1万m、1500m、3000mSC(障害)、ハーフマラソンを終え、長距離部門5種目で36ポイント…

東海大・駅伝戦記  第28回
関東インカレ(後編)



5000mでポイントを獲得した鬼塚翔也(写真は昨年の日本選手権)

――関東インカレ。

 東海大は1万m、1500m、3000mSC(障害)、ハーフマラソンを終え、長距離部門5種目で36ポイントを挙げ、トップに立っていた。最後の5000mで確実にポイントを取れば、今シーズンの目標である「学生長距離5冠」のひとつである関東インカレを制し、まずは1冠となる。

 待機場所では、5000mに出場する選手たちがリラックスしていた。

 西出仁明(のりあき)コーチが健闘したハーフ組の結果を踏まえて、彼らにハッパをかける。

「ハーフでリーチ(1位)まできたからね。西田がハーフでがんばったんだから、最後はお前らがポイント取らないとシャレにならんだろー(笑)」

 周囲の選手たちから笑いが起こる。

 しかし、鬼塚翔太(3年)は真剣な表情でいた。先陣を任され、初日の1万mに出走したが9位に終わった。7位内に入れずにポイントを落とし、主力選手として悔しい思いをしていたのだ。

 男子1部5000mには、チームのエースである鬼塚、關颯人(せき・はやと/3年)、阪口竜平(3年)の3人がエントリーしていた。5000mは、非常にレベルが高く、他大学ではパトリック・ワンブィ(日大)、塩尻和也(順天堂大)、西山和弥、相澤晃(ともに東洋大)たちが優勝を狙っていた。

 スタート後、鬼塚は先頭集団についていく。

「最初は先頭についていって、どこまで粘れるかっていうところだったんですが、2000mぐらいで疲労がきてしまって……」

 塩尻、ワンブィ、阿部弘輝(明治大)の3人がトップ集団となり、鬼塚は次の集団で我慢の走りを見せていた。その後、鬼塚は一時、9位まで落ち込んだ。ラスト1周の鐘が鳴る。鬼塚は落ちてきた選手を抜き去り、さらにスピードを上げる。ホームストレートで持ち味のスピードを見せて、5人を抜き去った。そして、最終的に4位でフィニッシュしたのである。

 ゴール後、腰を折り、苦しそうに背中で息をする。10位でゴールした阪口はトラックに両手、両膝をつき、なかなか立ち上がれない。故障明けで万全ではなかった關は、一礼してトラックから待機場所に戻った。

 鬼塚は疲労困憊(こんぱい)という表情だった。

「いやー、悔しいですね」

 表情が歪む。

「自分が思い描いたレースは先頭で勝負して、昨年(2位)以上の形で終わりたかったんですけど、なかなかうまくいかなくて……悔しかった」

 それでもラスト1周では鬼塚らしいスピードを見せた。あのまま9番で終わるのと4番に入るのとではポイントが異なるだけでなく、これからのレースを考えても意味のあることだ。

「最後は正直いくしかなかった。前に集団がある以上は、スパートして負けても最低限ポイントを取りたかったんで、力を出し切って終わろうと思っていました。中だるみしたけど、最後はしっかりと上げることができたので、そこはいいんですが、もう少し中間を粘れていれば……」

 鬼塚の調子は悪くなかった。1週間前のセイコーグランプリでは3000mに出場し、7分57秒56で自己ベストを更新した。「その勢いでいきたかったんですが」と言うが、5000m、1万mと距離が長くなると「スタミナがもたない」と感じたという。

「これからジョグを増やして、走る距離を増やしていかないと後半厳しくなる。もっとレベルの高い試合だと、結構後ろだと思うんで満足はしていません」

 個人的に求めているものが高く、両角速(もろずみ・はやし)監督や西出コーチ、周囲から求められているものも高い。それだけに順位に踊らされることはないのだが、今回は団体戦でもある。「学生長距離5冠」を達成するための最初の関門がこの関東インカレで、鬼塚が最後に粘って獲得した5ポイントで1位を確実にした。

「ポイントを取れてホッとしました。自分たち主力が1万mと5000mを走らせてもらっているなか、1万mはポイントを取れずに終わっていたので、5000mは何がなんでもチームに貢献する走りをしたいと思っていました。ただ、自分が4番に入って最低限のポイントが取れたんですが、主力としては全然ですからね。3人がしっかり走れなかったのはプレッシャーに負けてしまったからだと思うし、それが東海の弱さでもある。これから主力の自覚を持って、3人でがんばっていきたいです」

 鬼塚はそう言って、また悔しそうな表情を見せた。

 この日、ハーフマラソンで14点、5000mで5点を獲得し、長距離5種目の合計が41点。2位の山梨学院大(22点)に大差をつけて東海大は1位で大会を終了した。

「まぁ、最初はどうなることかと思いましたが、とりあえずひとつ取れてホッとしましたね」

 両角監督は少し表情を緩めた。

 まずは1冠となったが、チーム状態を見ていると、喜んでばかりはいられない状況だ。關は故障明けのレースで本調子にはほど遠く、阪口も「まだ足が……」ともう少し時間がかかりそうだ。鬼塚、そしてキャプテンの湊谷春紀(4年)も今ひとつ乗り切れない。

「現状は、昨年比の50%ぐらいの出来ですね」

 西出コーチは厳しい表情で、そう言った。

「昨年の今ごろは選手の足並みがだいぶ揃ってきたんですが、今年はそのレベルにはいっていないです。箱根で負けた悔しさがあり、今年は箱根でしっかりと戦おうとトレーニングをやっていくなかで故障者が出て、ようやく回復してきた感じですね。

 關、阪口、鬼塚らのアメリカ合宿組も現地と同じことはできないので、こっちでもう1回練習を積まないといけない。關もだましだましやっている感じですからね。まぁ、春先は失敗ができる時期なので、チャレンジしていきたいんですが、いい方向に転ぶ選手もいれば、まだまだの選手もいる。まだ、チームとしてしっくりきていないというのが現状です」

 1年生は故障を抱えたまま入学してきた選手が多かったが、ようやく練習を消化できるようになってきた。2年生は西田が引っ張っているが、ほかの選手がまだまだだ。下級生の突き上げも大事だが、やはり3年生の主力選手が調子を上げていかないことにはチームは盛り上がらない。

「今回の大会に限っていえば、4年生や2年生の西田が頑張ってくれたんですが、やはり鬼塚たちがエースなので、エースらしい走りをしてほしかった。今できることはできたと思いますが、もっと力があるはず。塩尻くんはコンスタントに力を発揮しているので、そういう強さをもっと身につけてほしいなって思いますね」(西出コーチ)

 東海大のエースに対する見方は厳しいが、それも期待が大きいからこそ。鬼塚もそのことを十分自覚しているし、關も悔しい想いを噛みしめていた。阪口も西出コーチと10分以上もふたりで話をしていた。それぞれ現状に向き合いつつ、エースの自覚は持っている。

 出場した選手がお互いをフォローし合いながら、まずは1冠を勝ち取った。

 チーム状態はまだまだが、最初のヤマをひとつ越えた。

 これからは出遅れた選手、故障明けの選手が自分の走りを取り戻していくことになる。チームの足並みがそろうのは、もう少し先になりそうだ。

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