入団1年目から3年連続2ケタ勝利を挙げ、阪神タイガースの若きエースとして順調に歩みを進めていた藤浪晋太郎だったが、…

 入団1年目から3年連続2ケタ勝利を挙げ、阪神タイガースの若きエースとして順調に歩みを進めていた藤浪晋太郎だったが、一昨年は7勝、そして昨年は3勝と突如、勝てなくなってしまった。乱調続きのピッチングに”イップス説”も流れるなど、袋小路に迷い込んでしまった。完全復活に向け、藤浪はいま何を考え、何に取り組んでいるのか。苦悩する若きエースが心境を吐露した。



昨シーズンはわずか3勝と苦しんだ阪神・藤浪晋太郎

── プロに入って、当たり前のように勝ち星を積み重ねてきた藤浪投手ですが、思うように勝てなくなって、勝つことの難しさを感じたことはありますか。

藤浪 勝つことより、まず一軍で投げることの難しさ、一軍で抑えることの難しさを改めて痛感しています。考えれば考えるほど難しくなるというか、いろんなことがありすぎて迷ったり、悩んだりしてしまう。3年目、4年目、5年目、6年目と、年数を重ねるごとにどんどん難しくなってきますね。

── ずっとフォームに関して試行錯誤してきた藤浪投手ですが、今はどういうところを理想にしているのでしょう。

藤浪 そうですね。いいボールを投げられているときって、右腕が軸に絡んでいるイメージがあります。あくまでも自分なりの表現なんですけど、腕が軸から離れてしまうと、どうしてもブレてしまうので、そうならないように気をつけています。

── その理想のフォームというのは、イメージの中では、形として明確にできあがっているのですか。

藤浪 いいときの感覚はあります。バチッというリリースの瞬間の感覚、こういう力の使い方をして、それがうまく伝わったときに、「あっ、これは絶対にいい球がいく」という感覚は自分の中にあるんです。それを安定して出せるフォームを考えて、そこに向けてやっているつもりです。

── インステップについてはどう位置づけていますか。

藤浪 インステップそのものが悪いわけではないんです。1年目のインステップに関してはあまりにも左足が三塁側に入り過ぎていたので、これだとさすがに身体に負担がかかるということで修正しました。でも、むしろバッターはそのほうが見にくいと思いますし、自分のパフォーマンスを考えても、インステップ気味に投げた方が、力が出やすいポジションだと思っています。

── となると、理想のフォームに向けて、あとはどこを修正していこうと考えていますか。

藤浪 いろいろありますけど、トップをつくるタイミング、右足の溜め、体重移動していくときのグーっといく割れのタイミング、左足をついてからの間、リリースでの力の集約……そのあたりが基本的なポイントになってきます。

── コントロールというところはピッチャーにとっては永遠のテーマだと思いますが、藤浪投手は以前、高校2年の夏が終わってからフォームがバラバラになって、ストライクがまったく取れなくなったと話していたことがありました。そこから立ち直って、甲子園での春夏連覇を成し遂げるわけですが、そのときに取り組んだ練習を覚えていますか。

藤浪 あのときはもう、ガムシャラでしたね。高校生ですから考えも浅いし、とにかく投げるということしかできませんでした。その時期の自分なりに、いろんなフォームを考えては投げて、また考えては投げて、ここを直した、あっちを直したと、あれこれ取り組んでいるうちに何かがハマったんだと思います。

── あのとき、コントロールを取り戻したことが、今の藤浪投手の支えになっているということはありますか。

藤浪 それはありますね。あのときは本当にフォームが崩れて、バッターと勝負できるような状態じゃなかったんです。高校2年の夏に大阪大会の決勝で負けて、1週間ぐらい、ボーっと過ごして、いざ投げ始めてみたら、まったくコントロールが利かない状態。もうどうしたらいいんやろうと絶望的な気持ちになったのを覚えています。

「このまま終わっていくのかな」みたいな状態から、パッと戻ってこられて、秋にはなんとか投げられるようになった。で、センバツに選ばれて、勝てた。夏も大阪で勝って、甲子園でも勝てた。あの1年は、挫折から戻ってこられたという意味で、今も僕の自信になっています。

── では、今の藤浪投手が自信を取り戻すために必要なことは何なのでしょう。

藤浪 もちろん、今もいろいろ考えて、高校生のときにはできなかった体幹トレーニングをしたり、いろんな研究している人に話を聞きに行ったり、次元の高いアプローチはできているはずなんですけどね。高校のときはガムシャラに数をこなして戻したイメージですけど、今は質を上げて戻そうとしている感覚ですね。



今シーズン、2015年以来の2ケタ勝利を目指す藤浪晋太郎

── そういう試みを楽しめている感じはありますか。

藤浪 楽しい……どうでしょうね。やっぱり苦しいものではありますね。よくないところから戻すときって、戻るとわかってるわけじゃないですし、去年は思い通りに投げられず、「自分のフォームじゃない」「自分のボールじゃない」という状態で勝負しなければならなかったので、登板するたびに、ブルペンへ入るたびに、ものすごくストレスがたまりました。夢の中で試合が出てきたり、投球フォームのことが出てきたり、家でボーっとしているときも、「こうかな……」「ああかな……」と、ずっと野球のことを考えていました。

── そういうふうに物事がうまくいかないとき、自分自身を励ましたり、前へ進めるために大事にしている言葉とか考え方を持っていますか。

藤浪 言葉になっているわけではありませんけど、高校時代、それだけやってできたんだから、というものは自分の中にはありますね。去年、勝てなくなったとき、初めての挫折みたいな感じで言われましたけど、自分の中では高校時代、もっと苦しいところをくぐってきたし、もっと心折れるようなこともあったので、そこから這い上がったという自負はありました。その気持ちがあるからこそ、「あれだけ苦しいところから這い上がってきたんだから、今のオレにもできるはずだ」と、自分を励ますことができているんだと思います。

── プロ1年目に、プロで戦うための武器は何かとうかがったとき、藤浪投手は「軸がブレないこと」「自分の感性を信じること」だと話していました。それは今でも貫き通せていますか。

藤浪 技術的には迷ったところはありました。でも、基本はブレていないと思っています。腕を軸に巻きつける話もそうですけど、自分はストレートで押すピッチャーですし、変化球はスライダーで押すピッチャーだというところはブレていません。自分のスタイルやピッチングのあり方、野球に対する考え方……そういう幹の部分は今でもブレていないと思っています。

── では、今シーズンを戦うための今の藤浪投手の武器は何ですか。

藤浪 そうですね……酸いも甘いも知って、ここに戻ってきているというところが違うのかなとは思います。もう一回、野球をピュアに考えたい。もっと野球がうまくなりたいというふうに、あらためて思えているところが武器なのかなと思います。

── このオフには初めての海外自主トレを行なったと聞きました。アメリカに行ってダルビッシュ有投手とか、クレイトン・カーショウ投手と一緒にトレーニングをしたとか……この体験は、藤浪投手のどういうところを刺激してくれたと思いますか。

藤浪 もちろん技術の話もしてもらいましたし、コンディショニングとか栄養学とか、精神面から考え方に至るまで、いろんなことを話してもらいました。そういうことはすごく勉強になったんですけど、それ以上に、パッと環境を変えて、アメリカという異国の地に身を置いたことがすごく大きかったと思います。

 2週間だけでしたけど、ストレスのない毎日を過ごして、帰りの飛行機の中で、「よし、頑張ろう」と素直に思えたんです。純粋に野球が好きだった頃、野球が楽しかった頃の、もっとうまくなりたいというピュアな気持ちを取り戻せたというか、なぜあんな小さいことで悩んでいたのかなと……仕事に行き詰まった人が自分探しの旅に行って、「帰ってきました」みたいな、そんな感じです(笑)。

── 藤浪投手は今年、24歳になります。24歳という年齢にはどんなイメージを持っていますか。

藤浪 子どもの頃に見ていた24歳ってすごく大人びた、できた人間だと思っていたんです。でも、いざその歳になってみると、子どもですよね。ホント、くだらない話ばっかりしていますしね(笑)。だから、もっと落ち着いて、俯瞰(ふかん)で物事を見られるようになりたいという気持ちはあります。

 でも、だからといって大人のイヤな部分に染まりたくないという気持ちもあります。どこの社会でもそうだと思いますけど、媚(こび)を売ったり、ゴマをすって自分のポジションを得ようとしたりする大人にはなりたくない。子どもの頃から憧れていた、自分の力で純粋に、ピュアに勝負のできる、そういうプロでありたいと思っています。