2016年の選抜で初優勝、春夏通算14勝をマーク

 球春到来。3月23日から甲子園球場で第90回記念センバツ高校野球大会がスタートする。ドラフト候補が多数在籍する大阪桐蔭高は史上3校目の春連覇に注目が集まり、16年の優勝校・智弁学園高も虎視眈々と上位を狙っている。今回、フルカウントでは高校野球を取材して約20年のベテラン・沢井史記者が、実力校の集まる近畿地区6校を独自の目線で紹介する。第4回は一昨年の優勝校、奈良・智弁学園の小坂将商監督。

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 9回。就任してこの春で丸12年になる小坂監督の甲子園出場回数だ。そのうち一昨年の選抜では初優勝を果たすなど春夏計14勝をマークしている。

 高校時代は主将として母校を夏の甲子園で初のベスト4まで押し上げた経歴を持ち、法大を卒業後、パナソニックでもプレーするなどアマチュア野球の畑を歩んできた。社会人野球を経験したことで「相手を敬う気持ち、社会で大切なことを学んだので、それが指導に生きている部分はある」と振り返る。

 監督に就任した直後は、とにかく“全力”だった。一生懸命に練習をしない選手や物を粗末に扱う選手、四球で歩く際の態度が目につく選手には常に厳しい言葉を浴びせた。時には怒鳴り散らすこともあったが、時を重ねるにつれ怒り方にも細心の注意を払うようになった。

「最近は独特の世界を持っている子が多い。でも、チームの徹底ごとは守ってもらわないといけないので言うことはいいますよ。今は怒りすぎると賛否が出たりしますけれど、やっぱりアカンことはアカンと分かるように指導しないとダメだと思うんです。それはバリバリのレギュラーだろうが控えだろうが関係ないです。練習や試合での態度。許せないことってありますよね。でも、怒りっぱなしはダメ。怒った後にもどうフォローするか、どう話しかけるかは考えますね」

 怒るか指示するかだけではコミュニケーションにならない。関西特有のノリで時には選手をいじる時もある。でも、いじられることが苦手な子もいるため上手く使い分け、ずっといじるだけではなく時と場合も選ぶ。ただ、指導をしていくたびに選手とは年が離れていく。それでも小坂監督と選手との対話には笑顔が絶えない。ずっと適度な距離感を保てる“小坂流”の根底にあるものは何なのか。

「何か特別なことをしている訳ではないんですけれど…(笑)。ただ、時代は常に動いていますよね。だからその時その時に見合ったコミュニケーションを取るようにはしています。1日に1度は全員に直接声は掛けるようにはしていますし、(無料通話アプリの)LINEで、コミュニケーションを取ることもあります。顔を見て話しにくいこともLINEなら話せることもありますから」

選手の誕生日を携帯電話に登録「親身になってあげられることはやってあげたい」

 毎年入学するのはだいたい20人前後だが、名前と顔を入学前に覚えるのは当然のこと。そして選手の誕生日を携帯電話のカレンダー機能に登録し、誕生日当日は必ずおめでとうと声を掛ける。練習でうまくいかなかった子や、その日怒ったまま終わった子がいれば、小学生の息子と共に食事や銭湯に出かけることもある。「寮生活の子は親元を離れているし、親身になってあげられることはやってあげたい」と父親のような温かい気風も見せる。

 主将の小口仁太郎は言う。

「僕たち1人1人を気に掛けてくれるし、怒る時は感情的になるのではなく、怒る理由を自分たちにしっかり伝えてくれます。だからなぜ怒られているのか自分たちで理解しやすくて、翌日からは良い意味で力を入れすぎずに取り組もうと思えます。そもそも、悪いことをしなければ怒られないんですけれど、自分たちと正面から向き合ってくれる。誰かに偏ることもなく全員に話してくれるし、とてもやりやすい環境を作っていただいています」

 3年連続のセンバツ出場。「選んでいただける大会で、こうやって出ることができるのは光栄なこと。就任最初の頃は苦しい時期もありましたけれど、部長やコーチにも助けられましたし、自分ひとりではできないこと」と周囲への感謝しかないと言う。

 甲子園常連校ながら、なかなか全国上位に勝ち上がれない時期もあった。

「何とか優勝しないと、というはやる気持ちもあったけれど(16年センバツで)優勝してからは違うプレッシャーはありました。去年のチームの選手は優勝した前チームからの経験者も多くて、気持ちが強すぎて空回りしてしまっていましたね。でも、求められるものが大きい分、成長はしていける。今年のチームは物静かなチームですけれど、だからこそやれることをしっかりやって本番に臨みたいです」

 今や、高校野球界の若い指導者を代表する監督の1人となった小坂監督。指導者として区切りとなる10度目の大舞台となる今春のセンバツではどんな采配を見せてくれるのか注目したい。(沢井史 / Fumi Sawai)