今季のチャンピオンズリーグ(CL)16強の中で唯一、シャフタール・ドネツクだけが自らの本拠地でホームゲームを戦うことができていない。CLラウンド16第1戦のローマ戦を2-1で勝利したシャフタール 彼らのホームタウン、ウクライナのドネツ…

 今季のチャンピオンズリーグ(CL)16強の中で唯一、シャフタール・ドネツクだけが自らの本拠地でホームゲームを戦うことができていない。



CLラウンド16第1戦のローマ戦を2-1で勝利したシャフタール

 彼らのホームタウン、ウクライナのドネツクにあるドンバス・アリーナは、総工費400億円以上をかけて建設され、2009年8月にオープン。EURO2012で5試合を開催したUEFA公認の5スタースタジアムは、ガラス張りの壮麗な外観を誇り、歴史的な公園に鎮座する”宝石”と呼ばれていた。

 しかし3年ほど前から、そこには違う景色が広がっている。

 2014年に親ロシア派が起こした内戦の影響により、数度の砲撃を受けたスタジアムは閉鎖を余儀なくされた。ドネツクを含むウクライナ東部は分離主義者たちに支配され、チームは拠点をキエフに移し、ホームゲームはリビウで行なわれるようになった(2016-17シーズンの途中からハリコフへ)。

 2003年からシャフタールに所属し、主将を務める元クロアチア代表のダリヨ・スルナは、「その日のことはよく覚えているよ」と2016年に英『ガーディアン』紙に語っている。

「あれは2014年5月16日だった。僕らはすぐにそこを離れるように言われたんだ。自宅から荷物を持ち帰る時間もなく」

 クラブと選手たちは、家、練習場、ホームスタジアム、そしてファンを失い、それまで5連覇していたリーグ王者の地位からも陥落。翌シーズンもライバルのディナモ・キエフに連覇を許した。

 その後、ミルチェア・ルチェスク監督の12年にわたる長期政権に終止符が打たれ、後任のパウロ・フォンセカ監督のもとで復権を果たす。昨季、3年ぶりに玉座に返り咲くと、今季はCLに本戦から出場することになったのだが……。

 昨年9月にスルナに禁止薬物の使用が発覚。本人は意図的ではなかったことを主張したが、後に今年8月までの出場停止が決定した。流浪を強いられているクラブはキャプテンまで失う苦境に陥った。

 それでも、タフなウクライナ人選手で後方を固め、南米産のひらめきに溢れるアタッカーをそろえるチームは、CLでマンチェスター・シティ、ナポリ、フェイエノールトと同居する厳しいグループを、シティに次ぐ2位で突破した。

 ローマとのラウンド16第1戦では、売り出し中の20歳のトルコ代表アタッカー、ジェンギズ・ウンデルに先制されたものの、アルゼンチン人FWファクンド・フェレイラとブラジル人MFフレッジのゴールで逆転勝利。ドネツクから約300km、キエフからおよそ500km離れた、ハリコフの代替本拠地に詰めかけたサポーターを喜ばせた。

『キャプテン翼』のドライブシュートのような圧巻の直接FKで逆転ゴールを決めたフレッジは、この冬の移籍市場でマンチェスター・シティ行きが噂されていた。左利きの小兵ボランチは、ペップ・グアルディオラ監督が5000万ポンド(約73億9300万円)でも欲しがっているとされている。

 フレッジは、母国の同じポジションのレジェンドであるドゥンガと同様にブラジル南部のインテルナシオナルでキャリアを歩み始め、2013年に20歳でシャフタールへ移籍。それまで長きにわたって中盤の要を務めていたフェルナンジーニョが約3400万ポンド(約50憶2700万円)でシティに買われ、その後釜と期待されて白羽の矢が立った。そして現在はシティで、ベテランの域に入ったフェルナンジーニョの跡を継ぐ者と目されている。

 ウクライナでメキメキと力をつけていったフレッジは2014年11月に21歳でセレソンにデビューし、翌年にチリで開催されたコパ・アメリカに出場。ここでドーピング検査に陽性反応が出て、一昨季と昨季に合計9カ月の出場停止処分を受けた。それでも昨年7月下旬に復帰すると、再びチームの主軸となり、先のローマ戦でCL初得点を記録したのだった。

 日本時間の3月14日早朝に行なわれる第2戦は、ローマの本拠地スタディオ・オリンピコで勝ち抜けをかけて戦う。

 第1戦のあと、シャフタールは国内リーグを無失点で3連勝。一方のローマは、直後のセリエAでACミランに敗れたものの、その後は首位ナポリを敵地で破り、直近のトリノ戦にも快勝した。第1戦はシャフタールが勝ったとはいえ、ローマはアウェーゴールをひとつ奪っているため、勝負の行方はまったくわからない。

 もしシャフタールが準々決勝に進めば、2010-11シーズン以来のベスト8となり、欧州におけるクラブ史上最高地点に到達する。奇しくも7年前に初めて8強入りを決めた時も、ラウンド16の相手はローマだった。

 その時は負傷離脱中のフェルナンジーニョこそ出場しなかったが、ウィリアン(現チェルシー)、ドウグラス・コスタ(現ユベントス)、ヘンリク・ムヒタリアン(現マンチェスター・ユナイテッド)らを擁したチームは、フランチェスコ・トッティがまだまだ健在だったローマに2連勝している。

 不思議な巡り合わせはもうひとつある。今季のCL決勝は、現在のシャフタールが仮の活動拠点を置くキエフで行なわれるのだ(会場はディナモ・キエフの本拠地NSKオリンピスキー。かつてはトロツキーの赤のスタジアムと呼ばれた)。

 さすがに、シャフタールがそこまでたどり着くのは”至難の業”かもしれない。しかし、ブラジルが生んだ気鋭のボランチが、ベルナール、タイゾン、マルロスといった同胞のアタッカーを巧みに操舵すれば、風穴は空くかもしれない。宝石と呼ばれた彼らのホームスタジアムに撃ち込まれた、砲弾が空けたような大きな穴が。