昨年末に開催されたスポーツを言葉で語る『ALE14(エイル・フォーティーン)』のライブ・イベントにて、第4回WBC…
昨年末に開催されたスポーツを言葉で語る『ALE14(エイル・フォーティーン)』のライブ・イベントにて、第4回WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で侍ジャパンのスコアラーを務め、今シーズンから読売ジャイアンツのスコアラーに就任した志田宗大(しだ・むねひろ)氏がゲストとして登場。国際大会での情報戦やデータの生かし方など、”スコアラーの極意”について語ってくれた。

今シーズンから巨人のスコアラーに就任した志田宗大氏
スコアラーの仕事について志田氏は、「データの予習→ゲーム視察→分析→チームへの報告→ゲーム(試合)→フィードバック」の繰り返しであると語る。
「まずデータの予習を徹底的にし、頭の中に整理していきます。次に(分析対象の)ゲームを自分の目で見て、ゲーム中にデータを入力します。そこで予習してきたこととどのくらいズレがあるのかをチェックし、持ち帰って分析作業に入ります。こうしてできた資料をもとに試合前のミーティングでプレゼンし、ゲームに備えます。
試合中はベンチに入ってチャート表を開きながら、選手だけなく監督やコーチといった首脳陣たちにもアドバイスを送ります。そしてゲームが終わったら、勝敗に関係なく、データが合っていたのかどうかを客観的に分析し、フィードバックしていく。そしてまた予習に入る。その繰り返しです」
ミーティングや試合中、ほとんどの選手から質問されるのが「何を打てばいいのですか?」ということだという。
そこで志田氏は、「このピッチャーは何を打ったらいいのですか?」と聞かれたら、たとえば「ストレート」というようにシンプルに答えるようにしている。その理由はこうだ。
「しっかり予習をして、(対戦相手の)ゲームを見て、夜な夜な分析をして、これだという確信がある。ゲーム中の戦況を見ながら、この場面ではこの確率が一番高いということを頭の中ではじき出して、選手には”ひと言”で済ませる。これがスコアラーにとって一番大切なことだと思っています」
そしてこう続ける。
「データというのは選手にとって精神安定剤だと思っています。つまり我々スコアラーは、データを包み込んで選手に飲ませてあげるオブラートの役割なんです」
志田氏は2001年のドラフト8巡目指名で青学大からヤクルトに入団。現役時代は外野手として9年間プレーした。現在の仕事につながる経験として古田敦也氏の存在を挙げる。
「当時、古田さんはスーパースターで、僕は控え選手。野球についていろいろと話を聞きたかったのですが、話しかける勇気がなかった。それでもベンチや遠征のバスでは近くに座ったりして、どんなことを話しているのか盗み聞きして、そのたびにメモを取っていました。あのとき、いろんな話を聞いておいてよかったと、今になって強く思います」
日本のプロ野球とは違い、WBCやプレミア12などの国際大会で最も重要なことは「どこまで(相手に)バレているかを知っておくこと」だと語る。
「一生懸命、相手のことばかり分析していると足元をすくわれます。それよりも相手が日本のことをどのくらい分析しているのかを知ることが大事。そこがしっかりしていなければ本番で勝つことは難しいと思っています」
たとえば昨年のWBCでのキューバ戦、「相手は日本を分析していないだろう」という想定で臨み、実際その通りだったという。
一方、オーストラリアとの対戦では、日本のことを分析されているのかいないのか、最後までわからず2つのプランで挑んだ。そして試合が始まってすぐ「これは日本をよく研究している」とわかったため、分析されている前提の戦略でいこうと決断が下された。国際試合ひとつとっても、そのような舞台裏の攻防があったのだ。
最後に、「大谷翔平のボールを打つにはどうすればいいか?」という問いについて、スコアラー目線から志田氏はこのように答えた。
「大谷投手はデータを超越したテクニック、フィジカル、メンタル……正直、データでは届かないところにいってしまっている。普通なら、大谷投手の弱点を見つけてどうすれば打ち崩せるかを探るのですが、それよりも相手打線をどうすれば抑えられるかということに時間を割きます。
大谷投手の登板の試合はロースコアで乗り切って、大谷投手が降板した後に出てくるピッチャーを打ち込むというゲームプランを立てます。つまり、”大谷を打ち込む”ことを目的とせず、”試合に勝つこと”を最優先する。スコアラーにとって大切なことは、臨機応変に戦略のフォーカスを変えていくことなんです」
“データを超越した”大谷に限らず、国際大会などでは限られた情報しかない場合が多い。そうしたなかでも、チームが負けないようにするためにすべきことは何なのかを考える。志田氏は、どんな状況に陥っても冷静にチームの勝利へと導くのがスコアラーの仕事だと説く。
稲葉篤紀監督率いる”侍ジャパン”はいかにしてオーストラリア代表を攻略していくのか。侍ジャパンの戦術に注目しながら試合を見るのもまた一興だ。
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