監督が代わると、こうまで状況が変わるものか。この冬、ハネス・ヴォルフに代わって、タイフン・コルクトが指揮を執るよう…

 監督が代わると、こうまで状況が変わるものか。この冬、ハネス・ヴォルフに代わって、タイフン・コルクトが指揮を執るようになったシュツットガルトで、浅野拓磨にまったく出番が回ってこなくなってしまった。

 たしかに、シーズン前半戦も先発の座をつかみ切ったとは言い難かった。それでも17戦中15試合に出場し、そのうち7試合で先発。開幕戦を含めて3試合でフル出場し、1得点を挙げていた。ところが、負傷により出遅れたこともあるが、コルクト新監督が就任してからはベンチ外が続いてしまう。4試合目の第21節フランクフルト戦(2月24日)でようやくベンチ入りを果たしたものの、出番はなしに終わった。

 浅野が淡々と状況を説明してくれた。

「僕としては(調子は)そんな変わらないですけどね。いつも同じような感じでやっています。特に練習でも自分が調子悪いなとは感じてなかったので、早くメンバーに入れてくれという気持ちでしたけど、今回は入れてよかったです」



今年に入ってから出場機会を失っている浅野拓磨(シュツットガルト)

 ベンチに入れるかどうかの瀬戸際のラインにいることは自覚している。

「実際そうなっているので。監督がどう見ているかは、はっきりとはわからないですけど、自分の立ち位置としては危険なところにいるなと思っています」

 では、監督は何を求めているのか。監督からどう言われているのかを浅野に尋ねてみると、ちょっと不思議な答えが返ってきた。

「それ(求めていること)が知りたくて、監督にも話しにいったりしたんですけど、監督には『特に練習を見てメンバーを決めてはいない』と言われて。じゃあ僕は何をすればいいのか?とは聞きましたけど、この2、3週間は、これまでの経歴やどういう選手かというのを見て判断して、試合を考えてメンバーを決める、と。でも、僕は練習でアピールするしかないので……」

「練習の出来でメンバーを判断しない」と監督に言われたという話を選手から聞いたのは、これが初めてかもしれない。

 実際のところや内心がどうであれ、監督というのは「いつも君を見ているよ」というメッセージを発することで選手のモチベーションを高めていくのが仕事のひとつなのではないか。たとえ試合でのパフォーマンスこそがすべてだと考えていても(練習ではからっきしダメでも、試合になると実力を発揮する選手はドイツには結構いる)、それを公言することは少ない。そんなことを言われたら、選手は何を支えに練習に取り組めばいいのだろうか。

「監督もそうは言っていますけど、練習は毎日やっていますし、それを覆すのは自分自身だと思っているので、そうは言われましたけど練習でやっていくしかないなという感じですね」

 浅野は淡々と続けた。

「今、自分が監督に何かを求められているとか、練習で全然できていないというなら、何かを変えないといけないと思いますけど、今は自分の感覚として、やり続けるしかないなって感じなので……。

 チャンスはいつかやってくる。そのチャンスがきたときに無駄にしないように、常にいい準備をし続けるしかないな、と。自分の中ではいい準備はできていると思っているので、どうすればいいのかなと思ったりもしますけど、常に準備態勢を整えておくしかない。答えはいつも一緒ですね」

 実はこの日の対戦相手、フランクフルトの長谷部誠にも、そんな苦しい時期があった。ヴォルフスブルク時代の2012~13シーズン。何がフェリックス・マガト監督の逆鱗に触れたのか、開幕から8試合連続で出場がなかった。だがその後、チームの成績不振によりマガトが解任されると、後任のローレンツ・ギュンター・ケストナー監督のもとで一気に主力に復帰。チームの精神的な支柱のような立場を任されるようになった。

 その長谷部が、言葉を選びながらも丁寧に、後輩へ間接的なエールを送る。

「彼の状況について、そんなに(直接は)話してないので詳しくはわからないですけど、とにかくこういうレベルの高いところでやっていれば、そういう苦しい状況、厳しい状況に立たされることもある。でも、そういうときにこそ、選手としても人間としても真価を問われる。

 いいときはみんないいと思いますけど、苦しいときにどれだけ踏ん張れるか、その状況を打開できるかということが、また彼をより成長させると思う。そういう意味では、こういう状況はよくはないのかもしれないですけど、彼にとって将来的には、この時間がいい時間だった、すごく意味のあるものだったと思えるようになると思います」

 ドイツでさまざまな経験を重ねてきた長谷部の言葉は重い。
 
 とはいえ、この苦境を意味のあるものにするためにも、まずは切り抜ける必要がある。浅野は「ワールドカップという目標ばかりを考えれば焦ってしまうが、サッカー人生はまだある」と言うが、現実的には代表メンバーの切符を手にできるかどうかもかかっているのだ。シビれるような戦いの日々を浅野は送っている。