浦和レッズの沖縄キャンプで、クラブ関係者からこんな”お達し”があった。「去年、うちのフォー…
浦和レッズの沖縄キャンプで、クラブ関係者からこんな”お達し”があった。
「去年、うちのフォーメーションは4-1-4-1と表記されることが多かったんですが、今シーズンは4-1-2-3にしてもらえますか」
4バックの前にアンカーを置く4-1-4-1と4-1-2-3。違いはサイドアタッカーをサイドハーフと捉えるか、ウイングと捉えるか。4-1-4-1であっても相手を押し込めば4-1-2-3のようになり、4-1-2-3であっても守備ブロックを敷けば4-1-4-1のようになる。
だから、単なる数字の問題だと思えるかもしれないが、そこには、今シーズンの浦和が掲げる大きなテーマが潜んでいた。
前線のコンビネーションと攻撃のバリエーションを取り戻す――。
4-1-4-1ではなく4-1-2-3なのは、その意志の表れであり、宣言なのだ。
昨シーズン、浦和は10年ぶりにアジア王者に輝いた。その原動力が、7月に途中就任した堀孝史監督によって整備された堅守だったのは間違いない。だが一方で、ミハイロ・ペトロヴィッチ前監督時代に築かれた攻撃力が薄れてしまったのも否めない。
「引き続きしっかり守備をしながら、ミシャ(ペトロヴィッチ監督の愛称)時代の素晴らしい攻撃を取り戻す。それが理想だと思う」
そう語るのは、攻撃力が薄れた影響を最も被(こうむ)った1トップの興梠慎三である。
守備力を維持したまま、いかにして攻撃力を高めるのか――。そのためのトライが、沖縄キャンプで行なわれていた。
ミーティングでは練習や練習試合でのプレー映像が流され、堀監督から「これはいいプレー」「ここはもっとこうしてほしい」と、今シーズンのプレーモデルが提示されたが、用意された映像は、自分たちのものだけではなかった。
そこには欧州サッカーの映像も含まれていて、なかでも最も多かったのが、ペップ・グアルディオラ監督率いるマンチェスター・シティだったというのだ。
例えば、マンチェスター・シティの攻撃のビルドアップに、左サイドバックのファビアン・デルフがボランチのように中盤のインサイドに入ってサポートする形がある。
2月3日に行なわれた川崎フロンターレとのトレーニングマッチでは、似たようなシーンが見られた。左サイドバックの宇賀神友弥がこれまでのように大外を駆け上がるのではなく、インサイドにポジションを取ることがあったのだ。
特徴的だったのは、それだけではない。両ウイングの武富孝介(柏レイソル→)と武藤雄樹は、タッチライン際に張っている時間が長い。一方、両インサイドハーフの柏木陽介と長澤和輝はかなり高い位置でプレーすることが多かった。
「後ろのポジションの選手が工夫して、ああいうポジションを取ってくれたら、後ろだけで組み立てられるので、僕たちは前に残って攻撃に人数をかけられる」
そう明かしたのは、この試合で1得点1アシストをマークした長澤である。サイドバックがアンカーの近くでプレーすることで、インサイドハーフを高い位置に押し出す狙いがあるようだ。
2月7日に行なわれた名古屋グランパスとのトレーニングマッチでは、さらに興味深い変化があった。センターバックの岩波拓也(ヴィッセル神戸→)が右サイドバックで起用されたのだ。
宇賀神がインサイドに入ることで、ディフェンスラインは左から槙野智章、マウリシオ、岩波の3人が並ぶことになり、岩波から繰り出されるくさびの縦パスが攻撃の起点になっていた。その岩波が自身の役割について語る。
「ボールを動かすときは3バックのような形でビルドアップしてほしい、と監督から言われていて、(センターフォワードの)慎三さんを見ながらプレーしました。慎三さんは動き出しがいいので、タイミングよく出せればGKと1対1の場面が簡単に作れる」
ちなみに、ガンバ大阪との2月11日のトレーニングマッチでは右サイドバックに阿部勇樹が、大原グラウンドに戻ってからの練習では遠藤航が入った。いずれも攻撃のビルドアップが得意なセンターバックタイプのDFである。遠藤が語る。
「自分も中でゲームを作ったり、縦に入れたりできるし、ワイドの高い位置を取っても攻撃の起点になれると思っているので、その使い分けは意識しています」
3バック気味のビルドアップ、左サイドバックのインサイドでのプレー、開かせたウイングのポジショニング、インサイドハーフの高い位置取り……。攻撃時におけるこうしたトライから感じ取れるのが、ミシャ式前線5枚のコンビネーションの復活だ。
敵陣で攻撃を進めている時間帯では3-2-5のようなフォーメーションとなり、前線には右ウイング、右インサイドハーフ、センターフォワード、左インサイドハーフ、左ウイングの5人が角度を付けながら並んでいた。
それは、ペトロヴィッチ監督時代に構築された5トップを彷彿させた。
「ウイングはまず相手を広げることが重要。相手が中を固めれば僕のところが空くし、相手が外に気を取られれば、今度は中が空く。前線に5枚が並んだ時のコンビネーションは、もともと持っているものがあるので、中と外の崩しをうまく出せれば、数的優位を作って攻められると思います」
そう語ったのは、左ウイングの武藤である。ペトロヴィッチ監督時代はウイングバックがワイドに張っていたが、今の浦和はウイングがワイドに張って相手サイドバックを引きつける役目を担っている。こうして相手サイドバックとセンターバックの間に生じたスペースを、インサイドハーフが狙うというわけだ。
このマンチェスター・シティ型のビルドアップで重責を担うのは、左サイドバックだろう。いかにスムーズに中盤に移って攻撃のビルドアップに携わり、インサイドハーフやウイングをサポートできるか。
「サイドバックの最初のポジション取りはインサイドから、と言われている。基本的に僕はサイドの選手なので、360度から敵がくる状況でプレーすることがこれまでなかったので、今はすごく新鮮です。怖さ半分、楽しさ半分という感じ」
宇賀神がそう語れば、ポジションを争う菊池大介もやり甲斐を隠さない。
「中でのプレーも増えそうだし、前向きでボールをもらって周りと関わりながらアクションを起こせるので、自分のよさを出せると思っています」

今季も力のある選手が加わり、選手層の厚みは一段と増した浦和レッズ
熾烈なポジション争いは、左サイドバックだけではない。センターフォワードには興梠、ズラタン、李忠成。ウイングにはマルティノス、武藤、武富、李。インサイドハーフには柏木、長澤、山田直輝、武富。アンカーには青木拓矢、遠藤、阿部。右サイドバックに遠藤、阿部、岩波、森脇良太、平川忠亮。センターバックには槙野、マウリシオ、阿部、岩波と、各ポジションの選手層も充実している。
隙のない守備と、コンビネーションによる魅惑の崩し――。その両輪がそろって浦和は真の強豪になる。この困難なミッションを成し遂げたとき、12年ぶりとなるリーグタイトルをつかみ取れるはずだ。
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