全国高校サッカー選手権3回戦。前回大会準優勝の前橋育英(群馬県)が、富山第一(富山県)を1-0で下し、ベスト8に進…

 全国高校サッカー選手権3回戦。前回大会準優勝の前橋育英(群馬県)が、富山第一(富山県)を1-0で下し、ベスト8に進出した。

 昨年度大会の決勝で、青森山田(青森県)に0-5の屈辱的大敗を喫してから1年。キャプテンのMF田部井涼(たべい・りょう/3年)が、「1年間、そこを目標にやってきた」と語るように、日本一だけを目指して試合やトレーニングを重ねてきた前橋育英は、目指す頂へ一歩ずつ近づいている。



富山第一を振り切って8強入りを決めた前橋育英

 初戦となった2回戦では、初芝橋本(和歌山県)を相手に圧倒的な攻撃力を見せつけ、FW飯島陸(いいじま・りく/3年)の4ゴールなどで5-0と快勝。続く3回戦は、4年前の大会で全国制覇を成し遂げた富山第一の強固な守備に手を焼きながらも、試合終了間際の決勝ゴールで難敵から勝利をもぎ取った。

「攻めるのが好きな選手が多いが、3試合目で疲れがあったので、(自陣に)閉じこもって守備をしながら得点チャンスをうかがう作戦でやった」(富山第一・大塚一朗監督)という富山第一にとっては、狙いどおりに進められた試合だった。5人のDFと3人のMFでスペースを埋められては、さすがの前橋育英も苦しんだ。

 だが、前橋育英の山田耕介監督が「PK戦の準備をしていた。蹴る順番も決めていた」という後半ロスタイムの83分(40分ハーフ)、飯島が値千金のゴールを決め、前橋育英が粘る富山第一を振り切った。田部井涼が安堵の表情で語る。

「シュートを外しても、次、次と切り替えて、焦(じ)れずにやり続けられた。その意識が結果につながった。(得点が入らなくても)焦れないことは、全員で共有できていた」

 まったく異なる展開の2試合を勝利した前橋育英だったが、いずれの試合にも共通して目立つのは、攻守の切り替えの速さである。

 富山第一戦では、堅守速攻を狙う相手に対し、ボールを失ったあとの守備への切り替えが少しでも遅れれば、強力2トップを擁する富山第一のカウンターの餌食になりかねなかった。しかし、前橋育英は集中力を切らすことなく、すぐさま守備へと切り替え、相手ボールへ激しく襲いかかった。

 山田監督が「今年はそればかりやってきた」と語る素早い攻守の切り替えは、前橋育英の強力な武器となっているのは間違いない。

 前橋育英は今年度のチームを立ち上げるにあたり、徹底すべき「5つの原則」を掲げ、全員で常に共有してきたという。

 5つの原則とは、(1)攻守の切り替え(2)球際(3)ハードワーク(4)声(5)ファーストとセカンド(ファーストボールを競り合い、セカンドボールを拾うこと)。

 どれも当たり前のことではあるが、こうして改めて掲げることで、選手全員の意識に浸透していったのだろう。

 なかでも、攻守の切り替えの速さと球際の争いでの強さは、今大会で際立っている。技術に優れた選手がそろっていながら、前橋育英からは脇の甘さが感じられず、「戦えるチーム」という印象を受けるのは、そこに大きな要因がある。

 ともすれば、ボールを保持したときの高い攻撃力に目が奪われがちだが、一度失っても、すぐに奪い返すことができているからこそ、高い攻撃力は威力を増す。田部井涼は、5原則徹底の出発点を「(前回大会決勝の)青森山田戦がすべて」と語り、こう続ける。

「そこで痛いほど学んだ。切り替えや球際の差がデカいと痛感した。同じ過ちを繰り返したくなかったので、練習から最大の出力、強度で、切り替えや球際をやってきた」

 優勝候補の前評判にふさわしい勝ち上がりでベスト8に進出した前橋育英が、1月5日の準々決勝で対戦するのは、米子北(鳥取県)。小柄な選手が多く、決して技術や身体能力に抜きん出ているチームではないが、「本当によく走れるし、ガッツがある。疲れを知らない運動量がある」と、山田監督も警戒を強める相手だ。ユース年代の最高峰、プレミアリーグWESTで今季7位となった強敵は、初の選手権ベスト8進出に意気上がっている。

 田部井涼の双子の兄、MF田部井悠(たべい・ゆう/3年)は、「ここまで守備を固めてくるとは思わなかった」という富山第一戦を乗り越えたことについては、「監督からも、この試合が今大会のキーポイントになると言われていたので、勝ててよかった」。それでも笑顔を見せることなく、「これで満足していたら、次の試合で足をすくわれる。次も勝てるように最高の準備をするだけ」と気を引き締める。

 今大会は、ディフェンディングチャンピオンの青森山田をはじめ、東福岡(福岡県)、大阪桐蔭(大阪府)、京都橘(京都府)、滝川第二(兵庫県)など、有力校がすでに姿を消す波乱模様の展開となっている。風は前橋育英に吹き始めているようにも見えるが、はたして昨年度のリベンジはなるのだろうか。

 4年連続21回目の出場にして、悲願の選手権初制覇を目指す前橋育英に注目である。

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