4連覇を狙う青学大と、スピードランナーを揃えた東海大の2強による戦いと見られていた2018年の箱根駅伝。その争いに割り込んできたのが、エース・鈴木健吾(4年)を擁して11月の全日本大学駅伝を20年ぶりに制した神奈川大だ。今回の箱根は、初め…

 4連覇を狙う青学大と、スピードランナーを揃えた東海大の2強による戦いと見られていた2018年の箱根駅伝。その争いに割り込んできたのが、エース・鈴木健吾(4年)を擁して11月の全日本大学駅伝を20年ぶりに制した神奈川大だ。今回の箱根は、初めて4年生8名全員をエントリーメンバーに連ねる充実ぶりを見せている。



2017年の箱根駅伝では、2区で区間賞の走りをしたエースの鈴木健吾

 とはいえ総合力を考えると、青学大と東海大が圧倒的に上回る状況は変わらない。神奈川大の大後栄治監督は「うちの勝ちパターンとして固かったのは全日本なんです。あの駅伝は最終区間が最長距離のエース区間なので、そこに絶対的なエースがいれば勝つ形を作れる。でも箱根は本当にトータルの総合力が求められるので別ものです」と言う。

 特に東海大については、「1万m28分30秒台の選手をふたりも16名のエントリーメンバーから外しただけでなく、ハーフマラソンで1時間2分台が6人いる上に、1時間3分台中盤までを入れると13名になるレベルの高さ。順当にいけば東海大が優勝候補の筆頭だと思います」と予想する。

「(東海大は)いい選手が揃っているから、16名のエントリーメンバーを選ぶのも大変だったと思いますが、実際に走る10名を選ぶのもメチャクチャ大変になってくる。死角があるとすれば、そんなメンバー争いで指導者も疲れてしまい、選手たちも試合ではなく、選ばれるためにエネルギーを吐き出してしまう可能性があることです。それもうらやましい悩みではありますが……」

 そう言って苦笑する大後監督は、自分のチームは早々と1区には11月の全日本でも1区でいい流れを作る走りをした山藤篤司(3年)を使い、2区にエースの鈴木健吾を起用することを公言している。

「うちが12年間シード権を取れなかったのは、そこ(1区、2区)に位置する存在がいないからでした。そこで戦えるまでになったことと、今回は混戦も予想されているので、僕としては早い段階でエース格を出して、勝負の切符を切るようにしたいこともあり、『行きます』と言ったんです。東海大は来年、再来年になれば手に負えなくなるほどの戦力ですが、そういうチームと戦えるのは幸福なこと。うちは総合3位以内を目標にしているので、前半を意識したオーダーで行く予定です」

 戦力的に見ても、復路で逆転できる力を持っているのは東海大と青学大だと見る。全日本で5区までトップを走った東洋大も4年生が3人ほど出てくれば手強く、東海大と並ぶ優勝候補になるだろうと警戒していたが、4年生のエントリーが1名だけになったことで安定性は少し落ちるだろうとみている。

「1区の山藤と2区の健吾でうまく乗せて、あわよくば2区でトップに立てれば。前回の3区と4区の戦力では2区をトップで持ってきたのに、その順位をキープできなかった。今年は前回に比べてふた回りくらい力はついてきている」

 前回3区で後半失速して区間15位に沈み、神奈川大の順位を3位に落とした越川堅太(2年)も今年は5000mと1万mで自己記録を更新し、全日本の5区では青学大の下田裕太などを相手に区間賞を獲得して自信もつけている。

 大後監督は「3区はプレッシャーがかかる区間なので、もう少し楽なところを走らせてあげようかなとも思ったんですが、彼はまだ発展途上だし、これからさらに強くなっていくと思う。現在の1万mの持ちタイムは29分台ですが、28分40秒くらいの力は持っている。箱根後は、もう一度1500mからやらせて、4年の時には1万m27分台を狙えるようにして、トラックでユニバーシアードに出場させたいと考えています」と期待するほどの選手だ。

 さらに、距離が伸びて主要区間になった4区には、全日本の前半のエース区間である2区を走って区間7位ながらも、順位をひとつ上げた大塚倭(やまと/4年)を起用する予定だ。大塚は前回8区で区間2位のあと、世界クロカンに日本代表として出場し、1万mも今年は28分台に入っている。スピードタイプではないために全日本の2区は少し手こずったが、スタミナ面では不安もなく、終盤に長い上りが続く4区には最適な選手。前回のように鈴木健吾が2区で40秒近い差をつけてトップに立っていれば、そのまま逃げ切れる可能性も出てくる。

 5区と6区については、前回は大野日暉(はるき/4年)と鈴木祐希(4年)が走ったが、大野はずっと上るのが得意ではないタイプ。また鈴木も下りは苦手と言っていることもあり、ここは2年生を起用する予定だ。

「荻野太成(2年)は、こだわってやっている3000m障害で五輪標準記録を突破するために、5000mや1万mの記録も上げなければダメだと取り組んでいて、その一環として上りと下りの練習もしている。本人は上りを希望していて『区間6~7位になれる73分台を目指そう』とも話しています。下りは安田共貴(2年)ということになるかもしれないですが、60分くらいをメドに走ってもらえばいいと思っています」

 もし往路優勝ができても、そのまま逃げ切る展開ではなく、どこかで3~4校の混戦になると大後監督は読んでいる。

「できれば6区が終わった時点では先頭と並んでいる位置でいたい」

 6区には、前回58分48秒で走り、今回は57分台に入りそうな青学大の小野田勇次(4年)と、前回は59分56秒ながら今年は力をつけて小野田並みの走りをする可能性がある東海大の中島怜利(れいり/2年)がいる。この2校には、往路で2分くらいの差をつけておきたいという。

「復路には9区と10区を経験している大川一成(4年)や、2年時は9区、前回は5区を走った大野、前回6区を走った鈴木(祐希)、上尾ハーフを1時間04分08秒で走った宗直輝(2年)、ハーフで1時間03分35秒を持っていて安定している秋澤啓尚(4年)をどこかに配置する感じですね。ただ、最後の10区で順位争いとなった時には、1万m28分台のスピードも必要になりますが、それに該当するのはその中で鈴木祐希ひとりだけなので、現実的にはまだ1枚足りないというところです」

 神奈川大の”勝機”を考えれば、1区の山藤と2区の鈴木で得たリードをどこまで守りきれるかということになるだろう。だが、アンカーに絶対的エースの鈴木健吾がいるという安心感を持って走れた全日本とは違い、リードしていても後ろから追いかけてくる相手を意識して走らなくてはならない。復路の4年生たちがいかに、そのプレッシャーを跳ね返すような走りができるか。目標にする総合3位はそこにかかっている。