写真提供=共同通信 ■広まりつつあるフライ革命 柳田悠岐(ソフトバンク)のフライ革命は、成功したといっても良いだろう。例年よりフライの多い傾向はシーズン終了まで続き、右脇腹の負傷による離脱があった中で2年ぶりに30本塁打をクリアした。メジャ…

写真提供=共同通信

 

■広まりつつあるフライ革命

 柳田悠岐(ソフトバンク)のフライ革命は、成功したといっても良いだろう。例年よりフライの多い傾向はシーズン終了まで続き、右脇腹の負傷による離脱があった中で2年ぶりに30本塁打をクリアした。メジャーリーグで“フライ革命”を体感している前田健太(ドジャース)も、そのスタイルに太鼓判を押しており、フライ狙いの継続を勧めている。そんな中、柳田のチームメート・吉村裕基も来季に向けて「ゴロを打たない。確率良く外野に打てるようにしたい」とコメントするなど、成績向上のためにフライを狙うという発想は日本のプロ野球でも浸透しつつあるようだ。

 ここで、実際にフライが増えた打者は長打も増えていたのかを探ってみる。上の散布図は、前年と比較したFB%(全打球に占めるフライの割合)の変化分を横軸に、同じく前年と比較したISO(打者の長打力を示す)の変化分を縦軸に取ったものだ。右側に位置するほどフライが増えており、上に位置するほど長打が増えた打者ということを意味する。図からも分かるように柳田の15.3%というFB%上昇は突出しているが、金子侑司や秋山翔吾(ともに西武)もFB%が上がり、ISOが顕著に高くなっていた。逆に筒香嘉智(DeNA)や山田哲人(ヤクルト)、坂本勇人(巨人)といった打者はフライが減少し、長打も減っている。

 特に金子侑は、過去4年間1137打数で6本塁打だったが、今季は283打数で5本塁打を放った。西武では他にも2016年の二軍で突如ホームランを打ち始めた外崎修汰が、今年に一軍で入ってブレーク。17年の二軍で永江恭平にも似たような傾向があり、チーム方針としてボールの下側をたたく意識を促しているのかもしれない。

 だが、フライの20%以上が本塁打になるペゲーロ(楽天)のような選手もいれば、ほとんど長打にならない中島卓也(日本ハム)のような打者もいる。おそらくではあるが、フライを増やしたからといって、長打が増える打者ばかりではない。

柳田悠岐の“フライボールレボリューション”

■「フライ増加後」を推定する

 では、どのような選手がフライを狙うべきなのか。それを明らかにするため、ゴロの20%分をフライに置き換えた場合の打撃成績変化を検証する。前提は以下のとおりだ。

・2017年に300打席以上に立ち、かつFB%がNPB平均を下回った選手を対象
・打球傾向の変化は三振や四球などに影響しない

 FB%をNPB平均未満の選手を対象としたのは、例えば、今季のFB%が65%の中谷将大(阪神)のような、すでにフライの多い打者が“フライ革命”を起こすとは考えづらいためである。つまり、昨季までの柳田のように現在フライの少ない選手がフライを増やすとどうなるかをこれからシミュレーションしていく、という試みだ。手法は、田中広輔(広島)を例に順を追って説明していく。

1) 打球性質(フライ、ゴロ、ライナー)ごとに分別し、ゴロの20%をフライに置き換える

2)17年の実績をもとに、打球性質別の結果内訳をそれぞれ求める

3)1と2をかけて、フライが増えた場合の結果を推定する

4)推定された結果を実際の成績と比較し、差を求める

5) この差に結果ごとの得点価値をかけ、変化した得点貢献の量を求める

 田中の場合、単打が1本減る代わりに長打は軒並み増え、アウトも減少。結果として、11.5点分の貢献度増加が見込めるということになる。ただし、田中は679打席に立っているため、全打者を公平に扱うために500打席あたりの貢献度の差に変換する。

■貢献度の下がる打者はひと握り

 ここからは、得点貢献の増減をランキングにして取り上げる。まず、上位10選手がこちらの表6となる。1、2位はペゲーロと茂木栄五郎(楽天)の楽天勢が占めた。怪力のペゲーロと、今季17本塁打の茂木にフライが増えれば、それにつれて得点貢献度が上昇する可能性は高い。一方で、銀次(楽天)のようなシーズン5本塁打を記録したことのない打者もランクインしているのは興味深い。

 次に、順位の低かった選手を見ていく(表7)。フライが増えることで得点貢献がマイナスになってしまう打者は、対象の41選手中2名のみ。今回の検証では、「ほとんどの打者にとって、フライの増加は得点貢献を増やす方向に作用する」という結果になった。

 さて、下位のランキングに西川遥輝(日本ハム)の名があるのは意外ではないだろうか。2ケタ本塁打の経験こそないが、今季9本塁打と決して非力な打者ではない。そこで西川の打球性質別結果内訳を見てみると、アウトになる割合がゴロよりもフライの方がわずかに高かった(表8)。つまり、フライ増に長打の利得が見込めるものの、アウト増による損失もあるということだ。とはいえ、得点貢献度が増すことには変わりがなく、ゴロの安打が多い西川でもフライ狙いは有効と考えても良いだろう。

 今回の検証では、打者の打球性質別の安打傾向を変えない前提で話を進めてきた。しかし、前年よりも打球速度の成長があれば長打の確率が増し、フライ増加がより効果的になる可能性が高い。ちなみに、冒頭のグラフで長打の増えていた金子侑はスイッチヒッターだが、今季の5本塁打はすべて左打席で放ったものだった。そこで左打席で打ったフライ打球の強さをデータスタジアム独自の基準で3段階に分けてみると、2013年から15年にかけて弱い打球が減少しており、規定打席に到達した16年よりも今季の方が強い打球は増えていた(表9)。

 このように、打球速度が上がることで今回の検証では上位にならなかった打者からも、大幅な得点貢献度上昇を期待できる選手が出てくるかもしれない。来季から大半の球団でトラッキングシステムが導入され、このような変化を具体的な打球速度として検知できるケースも増えてくるだろう。これを機に、フライ打球増加を狙う打者、そして個人単位ではなくチーム戦略としてフライ革命を推し進めるチームが出てきても不思議ではない。

【出典】
スポーツ報知
http://www.hochi.co.jp/baseball/npb/20171206-OHT1T50071.html

※データは2017年シーズン終了時点

文:データスタジアム株式会社 小林 展久