<潜入>プロ野球界では選手による慈善活動が積極的に行われている。与える側と、受け取る側。方向性は一方通行に感じるが、実際…

<潜入>

プロ野球界では選手による慈善活動が積極的に行われている。与える側と、受け取る側。方向性は一方通行に感じるが、実際の交流を間近にすると、その価値の大きさに気づかされる。巨人丸佳浩外野手(36)は、経済的困難を抱える家庭の子どもたちを支援する認定NPO法人カタリバ(東京)への支援を始めて5年。その意義を両者に聞いた。【取材・構成=阿部健吾】

   ◇   ◇   ◇

その場所は月に1回、オレンジに染まる。そして、普段よりちょっと豪華な食事、子どもたちの弾む声が満ちる。その名も「丸選手ディナーデイ」。

都内にあるカタリバ運営の施設。経済的困難を抱える家庭の子どもたちのための居場所作り、学習支援などを行う場所だ。「ビーフシチューがいいな」「煮込みハンバーグは?」「よし、私はケーキを振る舞っちゃおうかな」。特別な夕食の企画が、子どもたちの胸を躍らせる。例えば、普段の鶏肉、豚肉を牛肉にできたり、出す機会が限られるデザートを付けられる。通常の食事の2倍の予算をかけて、準備が進む。

食事担当の宇佐美和奏さんに聞いた。「『丸選手が活躍して、今日みたいに豪華な食事を出せるように、みんなの事を応援しているんだよ』と話しながら、ご飯を囲んでいます」。スタッフは巨人のオレンジのユニホームを着て、普段はあまり顔を出さない子も参加してくれる。「孤食の問題もある中で、この日だからこそ人数が集まって盛り上がり、コミュニケーションが生まれます」と感謝する。

子どもたちを勇気づけているのは、「憧れの丸選手」がずっと応援してくれているという事実だ。もう5年目になる。きっかけは丸の希望だった。「1軍でレギュラーとして出続けるようになってからは、何かできることないかなと、漠然とした思いはあったんです」。19年に巨人に移籍すると、菅野智之の慈善活動を間近にした。球団に意思を伝えると、職員がアポなしで連絡してくれ、複数の候補団体を提案してくれた。「僕が一番楽しみだった事は食べること。食事を通じて、日々の生活に少しでも輝き、楽しさを持ってもらえたら」とカタリバへの寄付を決めた。

「丸メシプロジェクト」として、毎シーズンの安打数+四死球数に1万円をかけた金額を支援する。その上で、現場を訪れたいと強く希望した。コロナ禍だった21年に始めて、昨年11月30日の訪問が4回目になった。オフには必ず子どもたちに会える時間を大切にしてきた。月日の年輪は、施設の至る所に刻まれる。手作りの「丸選手活躍メーター」が飾られ、シーズン中は数字を更新していく。

人のつながりも太い。「僕が始めた年にね、確か試験でギリギリに来た子がいて。もう大学3年生で今日も来てたんですけど」。この日、丸の近くに座ったのは施設のOBでいまはボランティアとして活動する男性。一過性で終わらない継続の価値があふれていた。 

昨年11月の訪問後、カタリバにうれしい知らせが届いた。「丸選手の記事を見て寄付しました」。連鎖が起きていた。もともと、丸の活動を知り職員となったスタッフもいるという。この施設へのプロスポーツ選手による寄付は丸が初のケースだった。

寄付関連の部署で丸メシプロジェクトを担当する渡辺文子さんは「私たちにはリーチできない方々に子どもを取り巻く問題を届けられる」と影響力の大きさを実感している。特にコロナ禍では「『日本には貧困なんてない』というお声が届くことがありました。実際は9人に1人(※22年国民生活基礎調査より)が相対的な貧困状態にあります」と説明。その実態を知ってもらう理由としてだけでも、「巨人の丸」の存在は大きい。

※日本の貧困線(等価可処分所得の中央値の50%)以下の所得で暮らしている17歳以下の子どもたちの割合を指す。22年の調査では21年の貧困線は127万円。親子2人世帯(ひとり親世帯)の場合、月約15万円以下で暮らしている子どもたちを指す。

「みんながみんなできることじゃない。限られた人にしかできない」。丸自身は、その立場に自覚的だ。寄付というと金額面が取り上げられるが、むしろアスリートが貢献できるのは認知力向上だろう。昨年まで4年間、野球振興普及を目的とする一般社団法人・日本プロ野球選手会の理事長も務めた。「自分たちの影響力はすごいと自覚してほしい」と後輩たちに望む。

同時に、「僕としても非常に良い経験をさせてもらっています。交流することで、視野が広くなる。糧の1つになります」と感謝する。そして「まだまだ続けていきたい」と選手生活の力にもしてきた。

2000本安打まであと71本に迫る今季。外野手のスタメン争いが激化するが「まだ1度も日本一を経験したことがない。年齢を重ねれば重ねるほど、思いは増していく」と勝利貢献を誓う。次のオフは「日本一の丸」として子どもたちと再会するため、バットを振る。

◆丸佳浩(まる・よしひろ)1989年(平元)4月11日、千葉県生まれ。千葉経大付では06年夏、07年春に甲子園出場。07年高校生ドラフト3巡目で広島入り。13年盗塁王、17年最多安打、18年最高出塁率。16~18年のリーグ3連覇に貢献し、17、18年MVP。18年オフにFAで巨人移籍。ベストナイン6度、ゴールデングラブ賞7度。19年プレミア12日本代表。177センチ、94キロ。右投げ左打ち。今季推定年俸2億円。