「春の高校バレー」JVA第78回全日本バレーボール高等学校選手権大会(サンケイスポーツなど主催)は1月5日、東京体育館で…

「春の高校バレー」JVA第78回全日本バレーボール高等学校選手権大会(サンケイスポーツなど主催)は1月5日、東京体育館で開幕する。参加する男女計104校のうち、少なくとも2校は急逝した指導者への思いを胸にコートに立つ。

一つは男子の強豪・鎮西(熊本)だ。同校で51年間指導し、パリ五輪代表の宮浦健人(名古屋)ら名選手を育ててきた畑野久雄監督が11月24日、急逝した。80歳だった。今年度の高校総体と国民スポーツ大会(国スポ)を制し、春高で同校初の3冠を目指す途上での死去が衝撃的でもあり、多くの方がニュースを目にされたのではないか。

亡くなる前日の23日も福岡大との練習試合を指揮していたそうで、別れ際に「『じゃあ、明日も10時に』と話したのが最後の会話になりました。今でも夢か現実かわからない」とは、死去を受けて急きょコーチから就任した宮迫竜司新監督だ。

事前に出場が決まっていた天皇杯全日本選手権に出場、12月12日の初戦・2回戦では格上のVリーグ・三重に勝利した。この試合は畑野氏の死去後、最初の公式戦。だが一般的な例と違って選手は喪章を着けず、ベンチに遺影はなかった。

ミスやポカをなくすよう、常に選手を厳しく指導してきた畑野氏が、長く教えてきたことのエッセンスは「当たり前のことを当たり前に」。特別なことはせず、常に「いつも通り」を徹底する。だから「(遺影や喪章といった)いつもと違うことはしない」とは主将の福田空(3年)だ。

試合でも、堅いブロックからの切り返しと、2年生エース一ノ瀬漣を中心とした高い攻撃力という、いつも通りのプレーで格上に勝利した。同校OBの宮迫監督は「畑野先生なら何ていうかを感じながら指示を出していた。先生なら(勝利にも)『まだまだだめだ』と絶対言われる」。

監督が亡くなったから「弔い合戦だ」という考え方は、畑野氏の教えに反するだろう。それでも「以前は自分たちが勝ちたいから(3冠を)という気持ちだったが、今は先生のためにという気持ちが出てきている」と福田。春高本大会では大きな注目を集め、選手への取材も殺到するだろう。組み合わせでは厳しいゾーンに入ったが「優勝するなら(強豪とは)どうせ当たる」と一ノ瀬。若い選手たちが師の教えを胸に「いつも通り」のプレーを見せられるか。

この1年間では、もう一人、全国に名を知られた高校指導者が鬼籍に入った。長崎・九州文化学園で15度の日本一を達成した井上博明さんだ。4月26日、下咽頭がんのため67歳で亡くなった。

昨季のSVリーグで初代女王に輝いた大阪Mの田中瑞稀主将や、2021年の東京五輪でプレーした小幡真子さん、元日本代表の満永ひとみさんらを育てた。同校で定年を迎えた23年、求められて西海市の西彼杵(そのぎ)高へ。5年間休部状態だった女子バレー部の外部指導員として指導を始めた。九州文化学園での教え子の大半が「井上先生の下でバレーをしたい」と転校。発足から2年目の今年1月、西彼杵は初めて春高のコートに立った。だが24年4月にがんが見つかっていた井上氏が、春高で指導することはかなわなかった。

井上氏が子供たちに教えてきたのは「真実(こころ)のバレー」。おのおのが役割を全うし、責任を果たし、仲間を思いやるという意味が込められているという。

井上氏の死去直後はショックに加え、エースの負傷もあって県大会で優勝を逃し、九州大会では予選リーグ敗退と苦しんだが、夏の高校総体、秋の国スポに出場して、ともに16強。春高初戦の相手は国スポ8強の八王子実践(東京)だ。簡単な相手ではないが、田中心主将(3年)は地元テレビの取材に「井上先生は常にいる。見てくれていると思ってやってる」と語っている。

両校の選手たちは春高の舞台で、師への思いがこもったプレーを見せてくれることだろう。(只木信昭)