9回表に起死回生の同点ソロ本塁打を放ったドジャース・ロハス photo by Getty Images後編:2025年ワ…



9回表に起死回生の同点ソロ本塁打を放ったドジャース・ロハス photo by Getty Images

後編:2025年ワールドシリーズ「ドジャースvs.ブルージェイズ」の分水嶺

ワールドシリーズ第7戦。ロサンゼルス・ドジャースが最終的に勝利を掴むポイントはいくつもあったが、ドジャース1点ビハインドで始まった9回にキーマンとなったのはミゲル・ロハスだろう。

このワールドシリーズで2安打目となる同点ソロ本塁打を放ち、その裏にはサヨナラ負けを防ぐ捕球と送球を見せた。

そんな大きな仕事をやってのけたロハスだが、実は満身創痍で最後の戦いに挑んでいたのだった。

前編〉〉〉明暗を分けた「ワールドシリーズ第7戦9回裏1死満塁」の裏側

【本塁打は、まさに夢に見るような瞬間だった】

 緊迫したワールドシリーズ第7戦の9回表裏の攻防において、ロサンゼルス・ドジャースのチームリーダー、ミゲル・ロハスは強烈な輝きを放った。

 3対4と1点ビハインドで迎えた9回表1死、走者なし。ロハスはトロント・ブルージェイズのクローザー、ジェフ・ホフマンのスライダーを捉えて左翼に起死回生の同点弾を左翼スタンドへ放つ。

 2025年、ロハスがレギュラーシーズン中に右投手から打った本塁打は1本だけ。しかもそれは大差がついた6月14日のサンフランシコ・ジャイアンツ戦で、野手から打ったものだった。

 経験豊富で長打が打てる選手を数多く抱えるドジャースが8回(マックス・マンシー)、9回、延長11回(ウィル・スミス)と1本ずつのソロ本塁打で勝利を手繰り寄せたのは決して不思議なことではない。それでも1年で最も貴重な一発を放ったのが、どちらかといえば"守備の人"であるユーティリティ野手のロハスだったことは、「サプライズ」と言えるだろう。

「9回の本塁打は、まさに夢に見るような瞬間だった。ワールドシリーズ第7戦を土壇場で同点にして、チームに勝つチャンスを与えることができたんだから。

 あそこはまず出塁して得点につなげようと考え、センター方向を意識して速球を狙っていた。相手投手が甘いスライダーを投げてきたから、いいスイングができた。自分の得意なゾーンだったし、完璧にハマったよ」

 その裏、36歳のロハスは守備でも重要な貢献を果たすことになる。

 最大の鍵を握る場面となった9回裏1死満塁。ダルトン・バーショの二塁ゴロを冷静に処理し、サヨナラ負け寸前で三塁走者のアイザイア・カイナー=ファレファを本塁で刺したプレーは計り知れないほど大きな意味を持った。ただ、少々信じがたいことに、生涯最高の貢献を果たしたこの第7戦でのロハスは、優れたコンディションではなかったという。

 実は第6戦に勝利を収めた瞬間のセレブレーションの途中、キケ・ヘルナンデス、ムーキー・ベッツとハグを交わした際に肋骨を負傷していたというのだ。おかげでロハスの第7戦への出場は、試合開始寸前まで約束されたものではなかった。

「第6戦が終わったあと、実は肋骨の1本がズレたような感覚があった。薬をかなり飲んで寝たけど、朝起きても痛かった。チームの助けになれない状態なら出たくなかったんだけど、トレーナーたちがしっかりケアしてくれ、試合前に一度注射を打って何とか出られるようにした。ワールドシリーズの第7戦だし、誰だってその場に立ちたいからね」

【ドラマが凝縮された最高級の戦い】



優勝後にグラウンドで9回のプレーについて振り返るロハス photo by Sugiura Daisuke

「あの最後のプレーの時も痛みはあった。あれをギリギリのプレーにしてしまったのも、痛みのせいが少しあったかもしれない」

 実際にロハスは延長11回、スミスの本塁打でドジャースが勝ち越した直後の守備から交代している。「自分の役目は果たせたと思った。あとは山本が抑えてくれるから」と振り返ったが、その身体はもう限界に達していたのだろう。

 もし9回表の打席に立てないほどに痛みがひどかったら? あるいは9回裏の守備にさらに支障があるほどに肋骨が悪化していたら?

 このエピソードは、ベースボールの魅力が詰まったようなワールドシリーズ第7戦の勝敗が本当に紙一重だったことをあらためて示している。9回表裏という1イニングでは語り尽くせぬ、凝縮されたドラマがあった。特に9回裏1死満塁、あのワンプレーを制したドジャースが最終的には世界一を手繰り寄せることになる。

 加えて言えば、その直後のプレーもドラマチックだった。2死満塁からアーニー・クレメントの大飛球をアンディ・パヘス中堅手がキケ・ヘルナンデス左翼手と衝突しながらフェンス際で好捕し、試合は延長へ。絶体絶命のピンチを脱したドジャースは、山本由伸の力投を糧に、延長11回についに死闘を終わらせることになったのである。

「今日、ドジャースがワールドチャンピオンで締めくくることができて、すごくやりきったという達成感、喜びを感じます。全員が出しきった。僕は今日、2日連続で投げましたけど、ほかの選手もギリギリのコンディションでもできることを全部やってプレーしたので、本当に気持ちがひとつになった結果だと思います」

 3試合で合計17回2/3、235球を投げきった山本の言葉はシンプルではあったが、何よりも実感がこもっていた。

 百戦錬磨の選手たちが傷つき、疲労し、追い詰められた状態でも力を発揮したのだから、ドジャースは"王者"と称えられるに相応しい。

 最後はもう、勝者も、敗者もなく。しばらくは忘れられないような場面が数えきれないほどあったのだから、ドジャースとブルージェイズが織りなした2025年のワールドシリーズは、やはり最高級の名勝負だったのである。