サッカー日本女子代表が勝てなくなっている。2011年にはワールドカップを制し、世界一に輝いたなでしこジャパンだが、今年…

 サッカー日本女子代表が勝てなくなっている。2011年にはワールドカップを制し、世界一に輝いたなでしこジャパンだが、今年4月以降、1回しか勝利がない。終わったばかりの欧州遠征でも1分1敗。なぜ勝利から遠ざかっているのか。現在のチームに、何か足りないものがあるのか。サッカージャーナリスト後藤健生が問題点をあぶり出す!

■ヨーロッパでの2戦で「勝利なし」

 日本女子代表(なでしこジャパン)は10月28日(日本時間29日)にスペインのラ・リネアでノルウェー代表と対戦して0対2で敗れた。25日にイタリア・コモで行われたイタリア戦(1対1の引き分け)と合わせて、10月のヨーロッパでの戦いでも勝利を挙げることができなかった。

 ノルウェーはFIFAランキングで13位。8位の日本にとっては格下の相手だった。2023年の女子ワールドカップではラウンド16で対戦して、日本が3対1で勝利している。

 そして、実際に今回の対戦でもボール・ポゼッションでは日本のほうがはるかに上回っていた。しかし、日本は最後までゴールを決めることができず、逆にカウンターから2点を失って完敗を喫したのである。

 前半から日本はポゼッションで上回った。だが、割り切ってミドルブロック、ローブロックを敷いて中央を固めてきたノルウェーを攻めあぐむ。ノルウェーのブロックの外でパスを回すだけで、なかなかペナルティーエリア内の危険な位置にボールを送り込むことができない。

 前半の決定機はわずか3回だけだった。

 その中で最大の決定機といえば、開始直後の2分にパリ・オリンピックのスペイン戦で重傷(前十字靱帯断裂)を負って以来の代表復帰となった清水梨紗からのスルーパスに合わせてトップで起用された清家貴子が抜け出してシュートした場面だった。

 その後は、27分に長谷川唯が縦に付けた鋭いパスを受けた浜野まいかがターンして放ったシュート。そして、40分に宮澤ひなたのパスに合わせてDFラインの裏を取った藤野あおばのシュートが決まったものの、オフサイドを取られた場面くらいのものだった。

 いずれも、パスの出し手、受け手ともに縦への意識が高かったことで生まれたシュートだった。

 こうした縦への意識によるチャンスはあったが、パスを回して生まれたチャンスは、8分に右サイドで浜野から長谷川、田中美南、浜野と回って、浜野が入れたクロスに逆サイドの藤野が詰めた場面くらいしかなかった。

■世界最高峰のリーグで「13人」がプレー

 かつて、2011年の女子ワールドカップで優勝し、12年のロンドン・オリンピックで銀メダルを獲得した頃のなでしこジャパンは、そのパス能力が世界から賞賛され、「女子のバルセロナ」とも称された。

 フィジカル面での劣勢を、組織の力で打開しようというコンセプトだった。そして、それまでフィジカル面での競争の側面が強かった世界の女子サッカー界が日本の活躍を見て、より技術、戦術を重視する方向に変わっていったと言われている。

 しかし、今のなでしこジャパンには、そんなパス・サッカーの側面が薄れつつあるようだ。

 女子も「選手の大半が海外組」という時代である。

 今回招集された23人のうち、国内組のWEリーグからの選出はわずかに3人だけだ。そして、海外組のうち、なんと13人が女子サッカーの世界最高峰リーグのひとつイングランドの女子スーパーリーグ所属なのだ。

 2番目に多いのが、女子サッカーの世界最強国、アメリカ合衆国のナショナル・ウィメンズ・サッカーリーグ(NWSL)所属で5人を数える(その他、ドイツ所属とスペイン所属が1人ずつ)。

■高まっている「個人の能力」、一方で…

 こうした環境で日常的に戦うことによって、当然、彼女たちの個人の能力は高まっている。

 かつてのようにフィジカル的にヨーロッパ勢に見劣りするということはなくなっている。あるいは、フィジカル的に劣勢でも、そうした中で戦う術を身につけているはずだ。

 そのせいか、日本代表でも今は昔のようにパスをつないで集団で戦う以外の選択ができるようになった。

 トップの選手が相手DFを背負って耐えることもできるし、サイドの選手がドリブル突破で崩していくこともできる。

 しかし、「その分、パスワークという日本の武器を手放してしまってよいのだろうか?」という疑問は残る。

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