日本シリーズ進出の歓喜の中で1人涙を流した上林 10月22日、「2017 ローソンチケット クライマックスシリーズ パ」…

日本シリーズ進出の歓喜の中で1人涙を流した上林

 10月22日、「2017 ローソンチケット クライマックスシリーズ パ」ファイナルステージで楽天を下し、2年ぶりの日本シリーズ進出を決めた福岡ソフトバンク。試合後、歓喜に沸く若鷹軍団の中、たった1人悔し涙を流す選手がいた。高卒4年目、22歳の上林誠知外野手である。

 名門・仙台育英高校出身。高校時代はキャプテンとしても4番としてもチームをけん引し、3度甲子園に出場した。10月26日のドラフト会議で、阪神から1位指名を受けた馬場皐輔投手(仙台大学)と、同じく阪神から3位指名を受けた熊谷敬宥選手(立教大学)は、ともに高校時代のチームメイトである。

 上林は今季、プロ初となる開幕スタメンの座を勝ち取り、勝負強い打撃と強肩でブレイクを果たす。4月終了時点で23試合に出場し、打率.262、2本塁打と結果を残すと、勢い止まらず5月は打率.355、6本塁打と大暴れ。「マイナビオールスターゲーム2017」にもファン投票で初選出され、選手登録を抹消されることなく自身初の規定打席に到達するなど、飛躍のきっかけをつかむシーズンとなった。

 184センチの長身で、すらりとした体格。地面すれすれのボールをすくい上げて内野手の間を抜く驚異的なバットコントロールに加え、力感のないコンパクトなスイングからは想像もつかない打球を飛ばす。10月7日のオリックス戦で同点打を放って、千賀の勝率第1位のタイトル獲得をアシストしたことは記憶に新しい。

 外野から矢のように送球する「レーザービーム」も上林の大きな武器で、今季の補殺は12球団トップタイの「10」を記録した。今季の打撃成績は134試合108安打13本塁打51打点、打率.260。それでも、終盤で極度の打撃不振に陥ったこともあって、上林は自身の成績に納得できず。シーズン終了後も、ポストシーズンに向けて調整を重ねた。

「自分は何もしていない」―1人流した涙は誇り高く

 しかし、楽天を迎え撃ったクライマックスシリーズファイナルステージでは、初戦と第2戦に先発出場するも、5打数無安打。以降は出場機会はなく、第5戦の前に出場選手登録も抹消された。その試合でチームは見事楽天に完勝し、2年ぶりの日本シリーズ進出を決めたものの、試合後はただ1人、膝を抱えて悔し涙を堪えた。

 日本シリーズでも、上林の出番は第4戦の代打のみ。そこでも横浜DeNAの濱口の前に見逃し三振に倒れた。チームはその後さすがの強さで日本一に輝き、惜しみない賞賛を浴びたが、だからこそその歓喜の裏で、悔しさが身に染みるのか。若武者は「(日本一のために)自分は何もしていない」と、あくまでも冷徹に自分自身を見つめていた。

 2017年シーズンの全日程が終了し、各球団が秋季キャンプを張っている。若手は英気を養う暇もなく、来季に向けた取り組みが注目される時期。しかしまだ、上林の戦いは続く。11月16日に開幕する「アジアプロ野球チャンピオンシップ2017」に、侍ジャパンの一員として出場するからだ。奇しくも稲葉監督とは、「打撃フォームが似ている」と言われる。日の丸を背負って戦うこと、同じく代表に選ばれた同世代の選手と交流できることは、苦しみながら今シーズンを終えた上林にとって、得難い経験となるだろう。

 今季のゴールデンウィークで大暴れし、ついたあだ名は「モンスター」。高卒4年目の年、歓喜に沸くチームで1人流した涙は誇り高かった。いつかは同じ舞台で、若かったと笑って振り返る日が来ることを信じて。悔しさをバネに成長し続ける「モンスター」のこれからが、今から楽しみでならない。(「パ・リーグ インサイト」編集部)

(記事提供:パ・リーグ インサイト)