ブラジルを破る決勝点を挙げた上田。表情には自信がみなぎる(C)Getty Images 2006年ドイツW杯は1-4で敗…

ブラジルを破る決勝点を挙げた上田。表情には自信がみなぎる(C)Getty Images

 2006年ドイツW杯は1-4で敗れ、2012年のポーランドで行われた親善試合も0-4で敗れた。2013年のコンフェデレーションズカップは1-3で敗れ、2014年にシンガポールで行った親善試合も0-4で大敗。2017年のフランスでの親善試合も1-3で敗れ、2022年に日本で行った親善試合も0-1で惜敗した。

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 この20年で6連敗しているブラジル戦。ほとんどが大敗で、歴史上一度も勝ったことがない。日本はドイツにもスペインにも、アルゼンチンにもフランスにも勝ったことがあるのに、ブラジルだけは何度やっても勝てなかった。0勝2分け11敗。

 ところが、この夜。ぼろ負けの歴史に終止符を打った。前半に2失点しながらも、後半に3得点して大逆転。親善試合だろうと何だろうと、今までずっと越えられなかった壁を今夜、越えた。その事実は大きい。

 もしかすると、我々は病にかかっていたのかもしれない。そう思ったのは、取材を終えて東京スタジアムから帰宅し、録画したブラジル戦を画面で見始めたときだ。

 前半9分、中村敬斗が左サイドで19番ルイス・エンヒキと対峙し、ドリブル突破を仕掛けた。フェイントでタイミング外しに成功し、一歩抜け出てクロスを入れようとする。ところが、中村は最後にわずかにバランスを崩し、クロスを蹴り損なってしまった。すると、実況はこのように説明している。

「最後に肩を当てられて、バランスを崩すような。あの辺りもちょっとしたところですけどね、松木さん」

松木さん「そうですね……今の手じゃないでしょ?」

「肩か、手か」

松木さん「手が出た感じに見えましたけどね」

(ここでリプレイ)

「あー。手が出てるんですねぇ」

松木さん「今のはファウルでもいいなぁ」

 中村のフェイントに引っかかり、出足で遅れていたルイス・エンヒキが、肩なんて当てられるわけがない。実際は手を伸ばして、中村の肩を引き込み、不正な方法でバランスを崩させていた。松木さんには自信を持って、「ファウル!ファウル!」と大声で叫んでもらいたい。

 でも、そう思ってしまうわけだ。相手はブラジルなんだから、簡単には抜けないに違いない。相手はあのブラジルなんだから、強者としてフェアに対応する余裕があったに違いない。そうやってブラジルだから、ブラジルだからと、見えていないものまで印象で補完してしまう。さすがブラジル、きっと肩でチャージしたんだと。

 もうブラジル病だ。苦手意識とリスペクトが強すぎて、実物以上の強者だと畏怖してしまう。このメンタルでは一生勝てない。勝った後に見た映像だからこそ、そう感じた。

後半に投入された伊東の働きは別格だった(C)Getty Images

 また、この何でも無い普通のやり取りが妙に気になったのは、当の日本代表も、序盤はブラジル病にかかりながら試合に入ったと感じたからだ。引いてブロックを作ることは戦術的な意図を含むとしても、序盤のデュエルで先手を取られたせいか、保持したボールを余裕なくリリースして失うなど、まるで爆弾を持っているかのように焦ってプレーする様子が目についた。もう一歩深く切り込めば、そこで逆へターンすれば、そこで縦ズレしてプレスに行けば、開ける未来もあるのに。

 ブラジル代表だって人間だから、焦ったらミスをするし、一つのミスでチームが崩壊して3失点することもある。後半は一転して日本がプレッシャーをかけ、ほとんどの局面で優位に立った。その中で最も目立ったのは鈴木淳之介だが、渡辺剛も素晴らしかったし、鈴木彩艶と伊東純也は圧巻だった。

 この初勝利で、日本はブラジルに免疫ができた。ブラジルだって人間だから―。すごく当たり前なことだが、少なくともこの20年間は全く気づくことのなかった事実に、今夜たどり着いている。どんな強豪も人間の集まりだ。必ず脆さを内包するし、日本のプレッシングはそれを露わにする破壊力がある。それをドイツ、スペイン、ブラジルと少なくとも3度は示してきた。

 そして、この人間ならではの脆さを、さらにあぶり出すプレッシャーは、後半の逆境に促されなくても、前半から仕掛けられるはず。たとえば、引いて構える中で時に縦ズレしてプレッシャーを浴びせ、焦りを誘発したり。

 森保監督も本当はそうやってプレーさせたかったそうだが、前半はうまく機能せず、今回も2点差の逆転という状況に促され、アグレッシブさを発揮した。カタールW杯と同じように。

 次に強豪と戦うときは、その破壊力を出すタイミングの調整によって、違う勝ち方ができるのではないか。それは次のステップ。即ち、森保監督が目指す「先行勝ち切り」だ。強豪に対しても。当然、言うほど簡単ではないが、それができれば、いよいよ……いよいよだ。

[文:清水英斗]

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