サッカーU-20日本代表が、南米チリで開催中のU-20ワールドカップで決勝トーナメントへ進んだ。3戦全勝、しかも無失点…

 サッカーU-20日本代表が、南米チリで開催中のU-20ワールドカップで決勝トーナメントへ進んだ。3戦全勝、しかも無失点でのベスト16進出には、今年2月のU-20アジアカップのときよりも格段の成長がうかがえるというのは、サッカージャーナリストの後藤健生。約半年で、チームを劇的に進化させたものは何か? 強豪フランスとベスト8入りをかけて戦う若きサムライブルーの「快進撃」の理由、そして、今後の「伸びしろ」も含めて徹底解析する!

■大きな成長をもたらした「実戦経験」

 この半年間での大きな成長をもたらしたものとは何か?

 もちろん、何よりも選手たち個々の努力の賜物である。そして、少ない活動期間をうまく使ってチームとしての一体感をつくり上げた船越勇蔵監督以下スタッフの力でもある。

 ただ、最も大きかったのは、この半年間で選手たちが所属の各クラブで積んだ実戦経験だったのではないだろうか。

 選手たちの境遇はさまざまだ。

 すでにヨーロッパのクラブに所属している選手もいれば、J1リーグの強豪クラブで出場機会を得ている選手もいる。J2を活躍の舞台にしている選手もいれば、これは日本独特だが、大学チームに所属している選手も4人もいる。中盤での守備の要、小倉幸成が所属する法政大学は関東大学2部リーグで戦っている(もっとも、2部リーグといえども、早稲田大学もおり、必ずしもレベルが低いわけではない)。

 そうした各所属クラブで、選手たちは実戦経験を積んできたのだ。

■空洞化の心配を超える「若手」の成長

 J1リーグの強豪、川崎フロンターレ所属の大関友翔や神田奏真なども、交代選手として出場機会を増やしてきたし、ポジション柄、出場機会を得ることが難しいGKでもピサノ・アレクサンドレ幸冬堀尾は正GKの負傷などでトップチームでの出場機会を得た。

 日本では若手選手の出場機会が少ないことが問題になっているが、さすがにU-20代表クラスともなれば、出場機会を得られている選手が多いようだ。現在、日本からは数多くの選手が欧州を中心に世界中のクラブに巣立っていくが、その分ポジションが空いて、さらに若い選手たちに出場機会が与えられるのだ。

 若い選手のレベルが上がっていれば、選手の海外流出による国内リーグの空洞化は防げるし、若手の出場機会が増えるとすれば、これはある意味での“好循環”と言えるのかもしれない。

■J1昇格を目指す大宮の「中心的存在」

「経験の大切さ」を示す典型例が、キャプテンとして守備を統率するだけでなく、攻撃の起点となり、さらに落ち着いてPKを決めて流れをつかむ働きをしている市原吏音だ。

 市原はJ1昇格を目指して戦っているRB大宮アルディージャの不動のセンターバックである。そればかりか、最終ラインから攻撃の起点をつくるという意味で、まさに大宮の中心的存在になっている(日本が快進撃を続ければ続けるほど、市原の帰国が遅くなるのだから大宮の関係者やサポーターは複雑な心境であろう)。

 市原の競り合いの強さ、とくに空中戦は素晴らしい。187センチというから、CBとしてはとくに長身というわけではないが、ジャンプ力が素晴らしいのだ。

 市原より1歳年長の高井幸大(川崎フロンターレ→トットナム・ホットスパー)も強力なCBだ。高井は身長が190センチと市原より大きく、ほとんど助走をつけずに跳躍することができる。

 一方、市原のほうは2歩、3歩と助走をつけてジャンプをするのがうまい。助走をつける分、高く飛べるし、前への推進力を持って空中で競り合えるという利点もある。

 ただし、助走をつけて正確なタイミングで跳躍するには、ボールの軌道や相手選手との距離などを正確に把握しなければいけないという難しさがある。それを完璧にこなせるのが、市原という選手なのだ。

 そして、大宮というクラブの中心選手として難しいJ2リーグを戦うことを通じて、市原は試合の流れを読みながらプレーすることを身につけ、まさにキャプテンにふさわしい選手に成長したのだ。ああいう、キャプテンを持つチームが強くなるのは当然である。

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