◇国内女子メジャー第3戦◇日本女子オープン 最終日(5日)◇チェリーヒルズGC(兵庫)◇6616yd(パー72)◇雨(…
◇国内女子メジャー第3戦◇日本女子オープン 最終日(5日)◇チェリーヒルズGC(兵庫)◇6616yd(パー72)◇雨(観衆7439人)
タップインのウィニングパットを沈めると、堀琴音が一瞬、両手で顔を覆った後、両手を突き上げた。「急に悪いことばかりがフラッシュバックしたんです。ほんと一瞬でしたけど、顔を上げて周りを見て“あ、優勝したんだ”って」という。
優勝インタビューで「忘れ物を取りに来ました」と言った。2016年の「日本女子オープン」。首位で迎えた最終日の17番でボギーをたたき、18番でバーディを取れず、1打差2位に終わった。当時アマチュアの畑岡奈紗に負けた。当時プロ3年目の20歳がナショナルオープンで華々しい初優勝を飾るはずが、逆に “アマチュアにビッグタイトルをさらわれたプロ”になった。
「良くも悪くも、あれで世の中に“堀琴音”という名前を覚えていただけたのは、すごくうれしかったんです。でも、本当に苦しくて…」
業界関係者、一般人…。会う人がみんな「惜しかったね」と言ってくる。今もプロアマ戦で当時の話がゲストから出たりする。相手が気を使って話題を振ってくれると、頭では分かっても気持ちがついていかない。
2018年2月、米女子ツアー「ホンダLPGAタイランド」で初日から82、85をたたいて棄権した。ドライバーにイップスの症状が出始めた。ひどい時は「右45度に飛び出すこともあった」という。兵庫・滝川二高時代にナショナルチームを経験、プロ2年目の15年にシードを獲得し、16年には賞金ランク11位へ。そんな期待の若手が、18年に出場34試合で予選通過わずか5試合、ランク114位に急降下。21年「ニッポンハムレディス」で初優勝し、スランプを脱したが、あの時の“汚名”はずっとついて回ってきた。
日本女子オープンの悪夢は、日本女子オープンでしか晴らせない。「落ち着いて、地に足をつけるんだ。4日間やり切るんだ」。首位で迎えた最終日。アラームより1時間早く目が覚めた。空腹感が全くなくても、いつもと同じ量の朝食を無理やり食べた。
2サムで最終組の相手はアマチュアの廣吉優梨菜。因縁を意識せずにいられない状況で5バーディ、1ボギーの68をマークした。池越えの17番(パー3)は1番手大きな6番アイアンで打った。当たりは薄かったが、グリーンをとらえてパーセーブ。グリーン左サイドに池が絡む18番(パー5)も、ティショットで安全策の3番ウッドが右に飛び出し、ギャラリーをかすめるハプニングはあったが、パーに収めて逃げ切った。
「9年前は“まだまだ勝っちゃダメだ”と神様が言ったんだと思います。まだ20歳だったし、勢いだけで、本当に一喜一憂だけのプレーでした。でも、きょうは違いました。ずっと落ち着いていましたから」。29歳になって、日本女子オープンで、やっと呪縛から解き放たれる時が訪れた。(兵庫県三木市/加藤裕一)