4月に就任した龍谷大平安・川口知哉監督(45)の初めての夏は、京都大会のベスト16で幕を閉じた。20日の4回戦で京都外…
4月に就任した龍谷大平安・川口知哉監督(45)の初めての夏は、京都大会のベスト16で幕を閉じた。20日の4回戦で京都外大西に6―7で敗れたが、チームの内面には確かな変化が芽生えていた。
「選手自身が考えて行動するチームにしたかった」。そう語る川口監督が掲げたのは、「自立した選手」の育成だ。
川口監督は、同校の卒業生。1997年夏の甲子園ではエース左腕として準優勝に導き、同年のドラフト会議では4球団から1位指名され、オリックスに入団。2004年に現役を引退し、22年に母校のコーチに就任した。
今年2月、春夏通算で甲子園に19回出場した原田英彦前監督の選手に対する暴力行為が発覚し、3月に退任。4月から急きょ指揮を執ることになった。
「準備期間が無かったので、最初は大変だった。野球部員の進路指導や関係者へのあいさつ回りも多くて、グラウンド以外の方が忙しかった」と当時を振り返る。
指導の柱に据えたのは、監督主導ではなく、選手主体のチームづくりだ。
「うまくいかなかった原因を指導者が全部言ってしまうと、考えなくなる。だからノックでエラーが出ても、選手同士で話し合わせるようにしている」と川口監督は語る。
エースの臼井夏稀さん(3年)は、その象徴だ。「臼井は自分でプランを立てて、仕上げの日まで逆算して行動できる」と川口監督は信頼を寄せる。春季大会では、前年夏に全国優勝した京都国際を1―0で破った。臼井さんの完封劇は、選手たちに大きな自信をもたらした。
主将の鏡悠斗さん(3年)も「臼井が抑えてくれたおかげで勝てた。苦手意識がなくなり、夏をフラットな気持ちで迎えられた」と語る。「今までは監督に言われた通りにやる形だったけど、今はどうやったら抑えられるか、打てるかを自分たちで考える。考えることが自立につながっている」と鏡さんは話す。
川口監督は「やらせるのではなく、必要性を伝えて気づかせる。スイッチが入らない限り、人は動かない」と繰り返す。「指導する側が我慢する時間もあるけど、成長のきっかけは本人にしか作れない。だから信じて待つ」。一人ひとりの成長を信じ、見守る姿勢が、チームの空気を変えていった。
「精神的に強い選手を育てたい。一発勝負の怖さを知った今年の夏を、次につなげてほしい」。
目標の甲子園には届かなかったが、確かな手応えを胸に、川口監督は初めての夏を見つめ直していた。(木子慎太郎)