陸上の女子100メートル障害元日本記録保持者で、21年東京五輪代表の寺田明日香(35)=ジャパンクリエイト=が15日、都内で行われた記者会見で今季限りで「第一線を退く」意向を表明した。23歳での1度目の引退から結婚、出産を経てラグビーに転…

 陸上の女子100メートル障害元日本記録保持者で、21年東京五輪代表の寺田明日香(35)=ジャパンクリエイト=が15日、都内で行われた記者会見で今季限りで「第一線を退く」意向を表明した。23歳での1度目の引退から結婚、出産を経てラグビーに転向し、その後、再び陸上競技に復帰した“ママさんハードラー”。集大成とする9月の世界陸上東京大会出場へ、最後まで全力疾走で駆け抜ける。

***********

 寺田の顔は泣き笑いでくしゃくしゃだった。会見の席で、「引退」の2文字は使わずに第一線を退く意向を伝え「日本選手権などの代表選考に出場するのは今年が最後。世界陸上に向けて頑張っていく」と競技人生集大成の目標を掲げた。

 会見の冒頭から現役生活を振り返る映像が流され、登場から目は真っ赤。親交のあるプロ野球・日本ハムの清宮幸太郎内野手(25)からのビデオメッセージが流され、その父・克幸氏(57)は「お疲れさまでした」と書かれたプレゼントの息子のバットを持参して来場すると大興奮。気持ちを聞かれると「情緒不安定です」と爆笑をさらった。

 「新庄劇場」ならぬ「寺田劇場」だ。シーズンイン前の表明になった理由を「新庄戦法が良かったんです」と明かす。故郷・北海道のヒーロー、現日本ハムの新庄剛志監督(53)が現役時代、06年4月の試合後のインタビューで突然、引退発表したことを引き合いに出し「今年で辞めると言ったら、皆すごく見に行ったじゃないですか。私も先に言って皆さんに見にきてくださいと言いたかった」とちゃめっ気たっぷりに話した。

 激動の競技生活だ。将来を嘱望されたが、ケガと摂食障害などで13年に引退。その後、結婚して出産。7人制ラグビーを経て19年に“ママさんハードラー”としてトラックに戻った。支えたのはマネジャーでもある夫とまな娘の果緒さん(10)だった。一時は「練習に行くのも嫌だった」と話した競技だったが、最近、長女が陸上を始めたことを明かし「『やりたい』と言ってくれた。楽しそうに競技をやっている、と思ってもらえたことは競技人生の成功」と涙声で花束を受け取った。

 今季初戦は29日の織田記念国際(広島)になる予定で、世界陸上の代表選考となる7月の日本選手権では「勝ち逃げしたい」と決意。女子ハードル界をけん引した第一人者は有終の美を誓った。(松末 守司)

 〇…寺田は今後のビジョンも明確だ。秋以降は全国の競技場で走る「Baton Run Tour(バトン・ラン・ツアー)」を企画している。「私の経験とか、挑戦の楽しさを次世代へバトンをつなぎたいということで全国を回りたい。子どもから大人までいろんな世代の競技者と一緒にガチンコで勝負したい。そのために練習もする」。引退の2文字を封印したのもこのイベントのため。新たなムーブメントを起こしていく。

 ◆寺田に聞く

 ―決断はいつした。

 「東京五輪ぐらいからずっと辞め方を探してきた。競技の良さを、自信を持って伝えられるようにもなった。今年は思い切り走って、来年地方を回って終わるのが一番私らしいかなと思い、本当に最近決めた」

 ―家族には説明した。

 「辞めることに関しては、東京五輪前からずっと言っていた。パリ五輪を目指して行けなくて、じゃあどうしようとなった。『辞める辞める詐欺』をずっと家族にしていたので、ついにきたかと思っていると思う」

 ―12秒台に突入したことで福部らも後に続いた。

 「世界を見るとまだ日本の女子は力が及んでいない。引き上げるためには一人の力では難しい。皆で困って、皆で頑張った方が引き上がる。そこに明日香さんがいて良かった、と思ってくれるのであれば本望」

 ◆寺田の世界選手権への道 派遣標準記録(100メートル障害12秒73)を日本選手権(7月)までに突破し、なおかつ同選手権で3位以内に入ることが条件。

 ◆寺田 明日香

 ▽生まれ 1990年1月14日。北海道札幌市出身。

 ▽経歴 私立柏丘中―恵庭北高―北海道ハイテクノロジー専門学校―早大。

 ▽競技 小4から。高1で本格的にハードルを始める。13年に現役を引退。結婚、出産を経て16年に7人制ラグビーに競技転向し、復帰。18年にラグビーを引退し、陸上に復帰した。

 ▽日本代表 09、19、23年と世界陸上は3大会に出場。10年アジア大会、アジア選手権は09、23年に出場し、ともに銀メダル。五輪初出場だった21年東京五輪では女子100メートル障害で日本人では21年ぶりとなる準決勝進出。

 ▽日本記録 19年9月に日本人初の12秒台となる12秒97の日本記録を樹立。21年4月にも自身の記録を更新する12秒96、同6月にも12秒87をマークし、1年で2度日本記録を更新した。自己最高は12秒86。

 ▽家族 両親はともに元陸上選手。夫はマネジャーを務める佐藤峻一氏、長女・果緒さん(10)。

 ▽サイズ 168センチ、57キロ。