広大なエーグル調教場を覆いつくす朝モヤの中から蹄音が徐々に近づいてくる。霧を切り裂くように、芝コースの上で2頭が馬体を徐々に併せ、国内外から集まった報道陣の前をあっという間に駆け抜けていく。 サトノダイヤモンド(手前)の最終追い切り。…

 広大なエーグル調教場を覆いつくす朝モヤの中から蹄音が徐々に近づいてくる。霧を切り裂くように、芝コースの上で2頭が馬体を徐々に併せ、国内外から集まった報道陣の前をあっという間に駆け抜けていく。



サトノダイヤモンド(手前)の最終追い切り。状態は完調一歩手前か

 凱旋門賞に日本から出走する、サトノダイヤモンド(牡4歳、父ディープインパクト)とサトノノブレス(牡6歳、父ディープインパト)が本番に向けての最終追い切りを行なった。サトノブレスを先行させての7F(ハロン)追い切り。残り300m付近から差を詰めて、最後に抜き去るという動きは調教プラン通りではあった。が、仕上がりそのものはイメージと乖離(かいり)があったようだ。

「80~90%。息づかいが前走と比較して、ものすごくよくなっている。だけど、最後の加速が物足りない」

 追い切りでも手綱を取ったクリストフ・ルメール騎手は、調教後に設けられた公式会見の場で、慎重に言葉を選びながら、率直な感想を口にした。

 フォワ賞での敗戦のあと、息づかいの悪さと、日本ではあり得ないような重馬場を敗因であると分析した。馬場への適性は先天的な要因も大きいため、ここからどうにかできるものではない。ならば、自身の状態だけでも100%に近づけることを最優先としたのは、当然の選択だろう。休み明けをひと叩きしたことで、あとは自然と上昇カーブを描くはずだった。

 ところが、息づかいの悪さは、単に休み明けの調整不足によるものではなかった。むしろ調整自体は十分足りていたにもかかわらず、息づかいがよくならない点を、池江泰寿調教師は疑問に思った。

「喘鳴症(ぜんめいしょう)か喉頭蓋(こうとうがい)か炎症かわからず、内視鏡も入れて検査をしたが、重篤ではなかったし、病気とかではなく、喉頭蓋のちょっとした動きによるものでした。これをコントロールすることができそうなので、いろいろ試行錯誤して息づかいに関しては改善できました」

 最終的には、口が開くのと喉頭蓋を抑える働きがある特殊馬具のフィギュアエイト鼻革を採用。この日の調教でも使用し、実際のレースでも着用するという。

 息づかいについては前向きに語られたが、動きそのものについて納得いかないのか、ルメール騎手の表情は最後まですっきりとは晴れなかった。本来ならば伸びるべき部分で「頭を下げてしまい、肩が上がらなかった」(ルメール騎手)と言う。言い換えれば、のめって力が入っていかず、それが物足りないという感想に繋がったのだろう。

 昨年の有馬記念、完全に負けたと思った位置から一瞬の脚を繰り出し、グランプリのゴールに真っ先に飛び込んだ。その乗り味を知っているからこそ、今の状態を手放しで歓迎できない。

「今朝は朝つゆが芝に多く付着していたので、この馬には走りづらかったのかもしれない。実際のレースは朝つゆも乾いている頃。それだけに、当日まで雨は降ってほしくない」

 池江調教師にとってはオルフェーヴルの2度目の敗戦から4年。過去の、調整が完璧に進み、晴れやかに週末を迎えていた時とは、まったくといっていいほど異なる表情からは、まだ何かが足りないというような印象を受けた。

 また、克服すべき課題は馬場や体調面だけではない。僚馬サトノノブレスとの連係である。GIこそ勝っていないものの菊花賞2着のほか重賞を4勝している馬だけに、単なる帯同馬ではない。当然、サトノダイヤモンドをアシストする目的を持って本番でも出走する。では、フォワ賞でそれが試されていたかというと、正直なところ2頭の動きはチグハグで、そこに共通した目的に向けての連係めいたものは感じられなかった。本番では頭数が倍増する中で、どういった戦術で臨むのか。サトノダイヤモンドに足りない最後のピースを補うのは、もしかするとサトノノブレスなのかもしれない。