サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような、「超マニアックコラム」。今回は、ゴール裏のアツ~い奴ら。■インチャが暴力化「バラ・ブラバ」に「トルシーダがうんちゃらこうちゃら…
サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような、「超マニアックコラム」。今回は、ゴール裏のアツ~い奴ら。
■インチャが暴力化「バラ・ブラバ」に
「トルシーダがうんちゃらこうちゃら…」と、隣にいたブラジル人の記者があきれたようにつぶやいた。私は「トルシーダって何?」と聞いた。「あいつらのことだよ」。ブラジルではサポーターのことを「トルシーダ」と呼ぶことを初めて知った。
欧州では、多くの国では、サポーターの集団は「ウルトラス」か、「supporters」という英語を翻訳した名称で呼ばれている。しかし、ブラジルでは、ポルトガル語で本来「歓声」を意味する「torcida」と呼ばれているのだ。
アルゼンチンでは「インチャ hincha」である。この言葉は「仲間」を意味するらしい。「インチャ hincha」は、ウルグアイで使われ始めた言葉だという。だが「インチャ」が暴力化すると「バラ・ブラバ」と呼ばれ、これは「フーリガン」に相当する。
■「サポーターは暴れるもの」あきらめを…
1980年代には、トルシーダもインチャもさまざまな問題を起こした。しかし、欧州で厳格な「フーリガン防止策」が取られ、南米でもセキュリティー対策が実施されて、今世紀にはサッカースタジアムは危険な場所ではなくなった。「仲間」たちが「歓声」を上げる場になったのだ。
その変化には、Jリーグも寄与している。1993年に誕生した日本のプロサッカーリーグ。そこではカラフルでにぎやかで、そして情熱にあふれたサポーターの活動が試合を盛り上げているが、けっして過度になることはなく、互いに攻撃的になることもない。サポーターの応援をファンも楽しみ、プロサッカーの試合が新しい文化として日本の社会に受け入れられ、愛されている…。
欧州や南米のサッカー界では、「サポーターは暴れるもの」と、なかばあきらめムードがあったのだが、Jリーグを見て希望を見いだし、スタジアムを改修したり、サポーター組織とコミュニケーションを取ることで「安全なスタジアム」にしていったのだ。
■新シーズン開幕を前に「スタート」の時期
「サポーター集団」や「ウルトラス」という呼称は、かつては「フーリガン」や「暴力」と同義だった。「ネオナチ」などの極右集団と結びついた時期もあった。しかし、それは過去のものとなった。サッカーは、存続の最大の危機であった「危険なスタジアム」の時代を乗り越えたのである。Jリーグがそこに多少なりとも寄与できたのなら、日本のサッカーファンにとって、とてもうれしいことだ。
しかし、日本のサポーターたちには、この1か月で、自分の服がちょっと小さくなったと思っている人がたくさんいるのではないか―。毎週あるいは2週に1度、スタジアムに行き、3時間近く立ったままで歌い、声を合わせて叫び、ジャンプし、アドレナリンを出しまくって、選手たちとともに戦っているサポーターたち。そんな「激務」から2か月も解放されてしまったら…。サポーターたちも、新シーズンに備えてトレーニングを開始する時期かもしれない。