学生野球のラストイヤーに懸ける男たちがいる。北東北大学野球リーグで通算37度の優勝を誇る青森大学は昨年、春4位、夏5位と辛酸をなめた。中でも苦しかったのが投手運用。三浦忠吉監督は「投手陣の軸には3、4年生を据えつつ、下級生も早い段階から計画…
学生野球のラストイヤーに懸ける男たちがいる。北東北大学野球リーグで通算37度の優勝を誇る青森大学は昨年、春4位、夏5位と辛酸をなめた。中でも苦しかったのが投手運用。三浦忠吉監督は「投手陣の軸には3、4年生を据えつつ、下級生も早い段階から計画的に投げさせる」運用を基本方針としているが、昨年は上級生のケガや不調が相次ぎ、いずれも2年生の金森壮大投手(2年=盛岡誠桜)と斉藤主眞投手(2年=北星学園大付)が先発ローテの中心を担わざるを得ない状況に陥った。後輩たちの奮闘の裏で悔しさを噛みしめた新4年生投手二人に話を聞いた。
ケガから復帰も「完全復活」果たせなかった3年目
先発候補の一角だった藤澤主樹投手(3年=黒沢尻工)は、「先発で投げた後輩二人に負担をかけてしまった。情けないです」と唇を噛む。身長190cm、体重96kgの恵まれた体格を持つ右腕は、昨年は秋の1試合のみの登板に終わった。
大学1年時、投球時の下半身の使い方を工夫すると、球速が大幅にアップした。入学から数か月で高校時代の最速を6キロ上回る144キロを計測。速球を武器に1年春からリーグ戦のマウンドを経験した。「大げさに言えば、『何でもできるんじゃないか』とさえ思いました」。好発進を切った1年目を藤澤はそう回顧する。
しかし、2年目は度重なるケガの影響で登板機会が減少。肘、腰、背中とあらゆる箇所を痛め、思うように投げられない日々が続いた。3年目の昨年は完治したものの感覚のズレを修正するのに時間を要し、完全復活とはならず。藤澤は「好感触だった1年生の頃の感覚に戻そうとしていたけど難しかった」と話す。
冬の実戦で手応え…「やっぱりプロにいきたい」
ただ、藤澤にはもう1年チャンスがある。そして完全復活の兆しは見えてきている。昨秋のリーグ戦終了後、社会人チームの練習会に参加したのを機に調子が上向き、11、12月のオープン戦で結果を残したのだ。
「球速が1年生の頃から伸びていなくて、正直最近までめちゃくちゃ悩んでいました。球速が伸びないと上(のカテゴリー)ではやっていけないと思うので。でも、社会人の練習会で『球速にこだわらずに今ある球でいかに抑えるかが大切』ということを教わってから、速い球ではなく強い球を投げようと考えられるようになりました」
高身長ゆえ「上からたたく意識」は1年時と変えずに、「速さ」ではなく当たっても打たれない「強さ」を追い求める。並行して制球力や変化球の質にも磨きをかけ、試合中の投球テンポの変え方や緩急のつけ方といった投球術も学んだ。青森大は一昨年から11月以降のオープン戦を増やしたが、その「冬の実戦」の期間で確かな手応えをつかんだ。
「今年は自分が投手陣を引っ張っていく」。主戦投手としての期待が高まる一方、今年はドラフトイヤーでもある。高校時代はプロ志望届を提出するも指名漏れ。進路希望は定まっていないものの、自身2度目のドラフトに向けては「やっぱりプロにいきたい」と本音を漏らす。藤澤は「チームの勝利が最優先。チームの勝利につながるような投球ができれば、自分のアピールにもつながるはず」と勝負の1年を見据えた。
「何もできずすみません」抑え候補の右腕が流した涙
抑えを務める予定だった坪田幸三投手(3年=東奥義塾)も、昨年は春の1試合のみの登板に終わった。ケガに悩まされたシーズンを坪田は「治っては投げてまた痛めての繰り返しで、しんどかったです」と振り返る。
2年秋のリーグ戦で8試合に救援登板して頭角を現わすと、昨春のオープン戦ではスリークォーター気味の投球フォームから150キロ近くを連発しさらなる飛躍を予感させた。そんな最中、3月下旬に肩の肉離れを発症。この時期はキャッチボールさえできない状態で、開幕に間に合わないことが確定した。
一時的に痛みが引いていた3週目の八戸学院大学戦はピンチで登板するも、逆転満塁本塁打を被弾。その後はマウンドに上がれなかった。リーグ戦終了後、監督室で三浦監督と面談。坪田は「4、5週目も自分が投げていたら抑えられる自信はありましたが、投げられず迷惑をかけてしまった。チームのために何もできずすみません」と涙を流した。
指揮官からは「秋に懸けよう」と励まされ治療に専念したが、秋も復帰はかなわず。「少しでも早く治さないといけないと思い、焦ってしまった部分がありました」と坪田。チームも5位に低迷し、悔しさばかりが募った。
成長証明するラストイヤーは「全国にいきたい」
もう1年残されているのは坪田も同じ。ケガというアクシデントこそありながらも、大学では着実に成長を続けてきた。
1年時、ヘルニアを患って投げられない期間に腐ることなく野球と向き合った。ユーチューブで勉強したり、2学年上の庄司陽斗投手(現・横浜DeNAベイスターズ)ら先輩投手に聞いたりして球速アップの方法を研究。軸足の使い方やリリースの位置を見直すと、入学当初は140キロに満たなかった球速が3年時には140キロ台後半まで伸びた。
現在は今春の先発登板も視野に入れながら調整中。「全国にいきたい。迷惑をかけた今年の4年生のためというわけではないですけど、そういう思いも少しはある。同期や後輩たちにとっても、リーグ戦で優勝して全国にいくことが一番嬉しいことだと思います」。三浦監督が「責任感のある選手」と評する右腕は、静かに闘志を燃やしている。
また「個人の目標はプロ。そのためには150キロを出したいし、ケガの影響で落ちた球の質も上げたい」と話すように、坪田も今秋ドラフトでのプロ入りを目指す。チームのため、自分のため--。青森大再浮上の鍵を握る二人のラストイヤーはまだ始まったばかりだ。
(取材・文・一部写真 川浪康太郎/写真 青森大硬式野球部提供)