豪雪地帯の「ハンデ」を覆すことはできるか--。青森大学硬式野球部は北東北大学野球リーグで37度の優勝を誇る。しかし三浦忠吉監督が就任した2017年以降の2度の優勝はいずれも秋で、春の優勝は2008年まで遡る。「春の神宮から遠ざかっているのに…

豪雪地帯の「ハンデ」を覆すことはできるか--。青森大学硬式野球部は北東北大学野球リーグで37度の優勝を誇る。しかし三浦忠吉監督が就任した2017年以降の2度の優勝はいずれも秋で、春の優勝は2008年まで遡る。「春の神宮から遠ざかっているのには理由がある」と考えた指揮官は、一昨年から“方針転換”に踏み切った。

「移動する価値はある」春勝つための“実戦増”

「今の北東北はレベルが高く、リーグ戦の1週目から気を抜くことができない。冬の期間にいかにボールの感覚を失わず、開幕に合わせられるかが鍵になる。東北で最も初雪が早く、雪解けの遅いチームがどうすれば合わせられるか考えた結果、『遅くまで実戦をして早くから始める』という結論に至りました」

毎年11月中旬以降はグラウンドが雪に覆われて使えなくなるため、元々冬の期間は室内練習場でトレーニングや反復練習に取り組み、春を見据えた「土台作り」に徹していた。そのため実戦に充てる時間はほとんどなく、秋のリーグ戦終了後の実戦は10月中旬まで(明治神宮野球大会・東北地区代表決定戦に進めなかった場合)としていた。

冬は室内練習場で練習する

春の開幕に合わせるため一昨年からは実戦を増やし、12月中旬まで練習試合を行うようになった。試合はすべて「ビジター」。例えば仙台大学と対戦する際は午前4時頃に青森を出発し、バスで約5時間かけて向かう。2試合戦って帰路につくと、青森に戻る頃には午前0時を回ることもあるという。

「本州の端っこにいるので南に下るしかないし、5時間かけてでも移動する価値はある。コーチ陣も賛同して選手とともに前向きにやってくれています」と三浦監督。年始もロケットスタートを切り、昨年は例年よりも早い2月下旬から沖縄・渡嘉敷島に入って実戦に備えた。

悪夢の12連敗…“焦り”が長いトンネルの入り口に

実戦から離れる期間が短くなった上、キャンプの始動を早めたことで、春のオープン戦での選手たちの動きは例年と比べて明らかによくなった。三浦監督は「ボールに対する感覚、身のこなし、コンタクト率…選手の姿を見て今までと違うと感じました」と振り返る。勢いそのままに、4月中旬から始まった春のリーグ戦も第1週、第2週は全勝で開幕4連勝と好発進。“実戦増”の効果は顕著に現れた。

しかし、シーズン通して順風満帆とはいかなかった。転機は第3週の八戸学院大学との初戦。2点リードの8回、満塁本塁打を浴びて逆転負けを喫した。継投が裏目に出たかたちでの敗戦。ここから6連敗で閉幕を迎え、春は4位に終わった。

一昨年から冬の実戦を増やした三浦監督

負の連鎖からはなかなか抜け出せず、秋は開幕6連敗。シーズンをまたいで12連敗と苦しい戦いが続いた。終盤は本来の力を発揮し、勝率で並んだノースアジア大学にプレーオフで勝利して1部・2部入れ替え戦は免れたものの、5位は三浦監督いわく「歴史上、記憶にない」順位だった。

「オープン戦もリーグ戦のスタートもよかった中で、八戸学院大戦を落としてガクっときてしまった。冬から取り組んできた成果が出ていたからこそ『あれ?』『どうしよう』と私が焦って、やること全部が噛み合わなくなった。それが選手たちの迷いを生み、開き直るまでに時間がかかって秋までぬぐいきれなかったんだと思います」。三浦監督はそう自責の念を口にする。

指揮官が“実戦経験”大切にするもう一つの理由

それでも、現時点では一度決めた方針を再び変えるつもりはない。昨春、確かな手応えをつかんだからだ。昨年は11月に3週連続で仙台大と練習試合を組み、12月には2年連続となる関東遠征を行って慶應義塾大学、駿河台大学と対戦した。関東遠征は埼玉にある駿河台大学野球場で実施。この時は授業後の午後11時に出発し、バスで約10時間半かけて移動した。

また実戦は「ハンデ」を覆すためだけにあるのではない。三浦監督は「冬の時期に実戦をやることには賛否両論あって、『意味がない』と言われることもありますけど…」と言いつつ、「うちは高校までの実戦経験に乏しく自信を持てていない子が多いので、大学では成功も失敗もできる限りさせてあげたいんです。12月の2週目まで野球をやらせてあげることが、彼らにとってのプラスになると信じています」と力説する。

昨年12月、埼玉へ向かうバスに乗り込む選手たち(青森大硬式野球部提供)

北は北海道から南は沖縄まで、全国各地から選手が集まる青森大。その多くは三浦監督が他大学との競合を避けるため「発掘」してきた選手で、大舞台を経験していないどころか自チームでレギュラーを奪えなかった選手もいる。だからこそ、リーグ戦にとどまらない実戦経験を積ませたい思いがある。平日は室内練習場で週末の試合に勝つための方法を考えながら練習し、週末は遠方に赴く。そんな冬の日々が成長につながる。

5位からの逆襲へ「長井中心のチームにしたい」

浮上するためには、方針は変えずとも意識は変える必要がある。三浦監督は「新チームになってからは『三浦の指示待ち』を作らないようにしています。選手としての幅を持たせて、彼らの良さをつぶさないようにしたいんです」と話す。

その上で頼りにしているのが、新主将の長井俊輔内野手(4年=横浜創学館)だ。長井は高校時代に主将を務め、横浜創学館を夏の神奈川大会準優勝に導いた強いリーダーシップの持ち主。三浦監督が「全面的に引っ張ってくれている。長井中心のチームにしたいです」と期待を寄せれば、長井も「どんな雰囲気の時でも、中心にいる自分が元気を出して明るくやれるよう心がけています」と力を込める。

新主将に就任した長井(青森大硬式野球部提供)

監督は成長のための出場機会を選手たちに与え、選手たちは実戦経験を積むとともに主将を中心に勝つための方法を考える。5位からの逆襲へ--青森大の春がまたやってくる。

(取材・文・写真 川浪康太郎/一部写真 青森大硬式野球部提供)