広尾晃のBaseball Deversity 野球の実力を測る指標は、野球の統計学であるセイバーメトリクス以降、多岐にわたるが、計算式としては極めてシンプルながら、非常に重要視されているものがある。 OPSだ。 OPSの計算式 OPSと…
広尾晃のBaseball Deversity
野球の実力を測る指標は、野球の統計学であるセイバーメトリクス以降、多岐にわたるが、計算式としては極めてシンプルながら、非常に重要視されているものがある。
OPSだ。
OPSの計算式
OPSとは、On-base plus sluggingの略。「出塁率+長打率」のことだ。
セイバーメトリクスの始祖であるビル・ジェームスらが、1984年に発表した指標だ。
出塁率(OBP)とは、打者が安打、四死球で出塁した率のこと。
数式は
(安打数+四死球数)÷(打数+四死球数+犠飛)だ。
長打率(SLG)は、打者が長打を打った率のこと。
数式は
塁打数÷打数だ。
OPSは、この出塁率と長打率を足したものだ。
非常に単純な数字ではあるが、打者の貢献度を表す指標として現在も重視されていて、MLBの公式サイトでも各選手のこの数字が表示されている。
出塁率にも長打率にも「打率(安打数÷打数)」の数字が含まれているから、OPSでは打率が2回算入されている。そして四死球による出塁、さらに長打で選手が奪った塁についても加算される。要するに「打者の出塁に関するプラスの要素」がすべて含まれていることになる。
OPSでは、強打者は.800前後あれば合格点とされ、.900でリーグ屈指の強打者、1.000を超えればMVP級ということになっている。
反対に、.600を割り込むようではレギュラーとして打線に加わるのは難しいレベルとなる。
RC、そしてマネーボール
セイバーメトリクスでは、その後、安打、長打、盗塁、盗塁死、四死球、犠打、犠飛、三振とほぼすべての打撃の指標を組み合わせて、トップクラスの選手が100前後になるように調整したRC(Run Create)という指標を考案した。
RCは、様々な計算式が加えられたが、今は以下の非常に複雑な計算が一般的になっている。
A = 安打 + 四球 + 死球 – 盗塁死 – 併殺打
B = 塁打 + 0.26 ×(四球 + 死球) + 0.53 ×(犠飛 + 犠打) + 0.64 × 盗塁 – 0.03 × 三振
C = 打数 + 四球 + 死球 + 犠飛 + 犠打
さらに、これを
RC=(A+2.4C)(B+3C)/9C)-0.9C
と複雑に組み合わせることで算出される。
OPSが安打、長打と四死球以外を考慮していないのに対し、RCは走塁や送りバント犠牲フライなども算入し、三振や盗塁死というマイナス要因も加味しているのが特徴だ。
RCもビル・ジェームスらが考案し、一時期までは「打者の究極の総合指標」とされた。
しかし「マネーボール」というドキュメントで紹介されているように、オークランド・アスレチックスが、セイバーメトリクスの考え方を取り入れて選手を起用して、成功して以降、各球団は、セイバーメトリクス系のアナリストを採用するようになり、データ野球は飛躍的に進化する。
セイバーメトリクスの進化系WAR
従来は、MLBが発表する安打、本塁打などの「数字」に基づいて選手を評価したが、セイバーメトリクスの進化形では、選手を「リーグの平均的な同じポジションの選手に比べてどれだけ勝利に貢献しているか」を数値化した。
さらに従来は比較できなかった「投手」と「野手」を、同じ指標で比較しようと試みられた。
また、守備能力も数値化して加味することが可能になった。
こうして選手評価の最終的な指標と言われるWAR(Wins Above Replacement)が生まれた。
WARはRCなどよりもはるかに複雑な計算によって求められる。
今、WARはBaseball ReferenceとFanGraphsという二つのサイトが発表している。
それぞれをrWAR、fWARと略称している。
二つのサイトのWARは、投手の評価や守備成績の算出基準などが異なっているので両者の数字は微妙に異なっている。
今、MLBのMVP投票では、有権者である記者たちは一般的な打撃成績や投手成績ではなく、rWAR、fWARを重視している。
このように選手評価に関する指標はこの20年ほどの間に劇的に進化したが、実はそれでもOPSは、信用するに足る打撃指標として、大いに重要視されているのだ。
それは、OPSがRCやWARの評価とほぼ同じ傾向を示すことが多いからだ。
OPS、RC、WARとMLB
昨年のアメリカン・リーグのMVP投票で1位、2位の選手の、OPSとRC、rWAR、fWARの数字を並べると以下のようになる。
■アメリカン・リーグ
1.大谷翔平(エンゼルス)420.0ポイント
打撃)151安打44本塁打95打点20盗塁 打率.304(5位)
投手)10勝5敗 防御率3.14
OPS1.066(1位)
RC 138(1位)
rWAR 9.9(1位)
fWAR 8.9(1位)
2.コーリー・シーガー(レンジャーズ)264.0ポイント
打撃)156安打33本塁打96打点2盗塁 打率.327(2位)
OPS1.013(2位)
RC 116(3位)
rWAR 6.9(3位)
fWAR 6.3(2位)
大谷翔平は他の選手ではありえない「二刀流」だったために投手としてのWARが加算されている。投票でも1位票満票の420ポイントを獲得した。
しかし指名打者の大谷は守備のWAR評価はマイナスになる。また、最近の傾向では投手はWARが高くてもサイ・ヤング賞に回ることが多い。アメリカン・リーグで投手として最もWARの数値が高かったヤンキースのゲリット・コールは、投打含めて3位に相当するrWAR7.4、fWAR5.4を記録したが、MVP投票では11位の30.0ポイントに終わった。しかしアメリカン・リーグのサイ・ヤング賞に選ばれている。
■ナショナル・リーグ
1.ロナルド・アクーニャJr.(ブレーブス)420.0ポイント
打撃)217安打41本塁打106打点73盗塁 打率.337(2位)
OPS1.012(1位)
RC 168(1位)
rWAR 8.2(2位)
fWAR 9.0(1位)
2.ムーキー・ベッツ(ドジャース)270.0ポイント
打撃)179安打39本塁打107打点14盗塁 打率.307(3位)
OPS.987(3位)
RC 148(3位)
rWAR 8.3(1位)
fWAR 7.7(3位)
アクーニャJr.がア・リーグの大谷翔平同様、満票を獲得したのは史上5人目の40‐40(40本塁打40盗塁)をクリアしたと言うインパクトが、多くの記者の心理に影響したためだ。
記者投票の場合、こういうデータ以外の要素が影響することもあるのだ。
NPBとOPS、RC
ちなみに、昨年のNPBのセ・パ両リーグのOPS3傑は以下のようになっている。
■セントラル・リーグ
岡本和真(巨)140安打41本塁打93打点0盗塁 打率.278(12位)
OPS.886(1位)RC108(1位)
宮﨑敏郎(デ)133安打20本塁打71打点1盗塁 打率.326(1位)
OPS.846(2位)RC82(7位)
坂本勇人(巨)116安打22本塁打60打点2盗塁 打率.288(7位)
OPS.811(3位)RC76(9位)
■パシフィック・リーグ
近藤健介(ソ)149安打26本塁打87打点3盗塁 打率.303(2位)
OPS.875(1位)RC114(1位)
森友哉(オ)113安打18本塁打64打点4盗塁 打率.294(4位)
OPS.816(2位)RC76(4位)
柳田悠岐(ソ)163安打22本塁打85打点1盗塁 打率.299(3位)
OPS.783(3位)RC100(2位)
盗塁や三振などの要素を含むRCとOPSは一部食い違うこともあるが、OPS1位とRC1位は両リーグともに一致している。
アマチュア野球でも活用を!
膨大な計算を要するRCやWARに比べてOPSは、二つの数字を足すだけという極めて簡単な計算式で算出できるのに、RCやWARとほぼ同じような評価をすることができるのは、OPSが「出塁」「長打」という打者の最も重要な指標をもとに算出されているからだ。
ただOPSは、打数が極端に違う選手を比較することができない。一般的には規定打席以上の選手の比較に限定される。
アマチュア野球でも最近は「1球速報アプリ」が利用されているが、こうしたサイトの集計ページでも「OPS」が普通に掲載されている。
単に安打を打つではなくて、OPSを意識すると、出塁率を高めるために四球を選ぶとか、長打率を意識して次の塁を狙うとか、野球の意識が変わってくる。
積極的な野球のためにOPSという指標を取り入れてみてはどうだろうか?