パリ五輪グループリーグ初戦の相手は、ハイレベルな南米予選をトップで通過してきたパラグアイ。大会初戦の緊張感も含め、厳しい戦いになることが予想された試合は、しかし、終わってみれば5-0と、日本が望外の大勝を収めた。 そこでは、前半のうちにパ…

 パリ五輪グループリーグ初戦の相手は、ハイレベルな南米予選をトップで通過してきたパラグアイ。大会初戦の緊張感も含め、厳しい戦いになることが予想された試合は、しかし、終わってみれば5-0と、日本が望外の大勝を収めた。

 そこでは、前半のうちにパラグアイに退場者が出たことも、もちろん影響はしているだろうが、それ以上に大きかったのは、前半19分という早い時間に先制できたこと。さらには、後半に入ってパラグアイが一段ギアを上げ、反撃に転じてくるなかで、63分に追加点を奪えたことだ。

"いい時間"に奪った2ゴールが、勝負の行方を決定づけたことは間違いない。

 そして、そのふたつの効果的なゴールをともに決めたのが、身長164cmの小兵、三戸舜介である。


パラグアイ戦で2ゴールを決めた三戸舜介。右は斉藤光毅

 photo by JMPA

 今年4~5月に行なわれたパリ五輪アジア最終予選(U23アジアカップ)に出場していなかった三戸には、もしかすると、パリ五輪直前に加わった新戦力のイメージがあるかもしれない。

 だが、昨年以前の親善試合やU23アジアカップ予選にはコンスタントに出場しており、むしろ従来からの主力と言ってもいい選手である。連係面に不安を感じることはなかった。

 それどころか、パラグアイ戦を見ていると、三戸がインサイドMFに入ったことによって、選手たちの動きにより一層連動性が生まれ、アジア最終予選の時以上に、日本の攻撃が活性化された印象すら受けたほどだ。

 ピッチ上に選手のローテーションを生み出すスイッチとなっていたのが、三戸の動きだったのである。

 よくもこれほど大胆に動けるものだと感心させられるが、それについて三戸は以前、こんな話をしてくれたことがある。

「確かに、自分でもよく動いているとは思います。よく誰も言ってこないなと思いますね。『もっと止まっとけ』とかって言ってもいいと思うんですけど(笑)。

 でも、動きすぎて(他の選手と)ポジションがかぶったら、ちょっとやりすぎじゃないかなって感じますけど、今までやってきたなかでは、動き回っていても(他の選手から)何か言われることはないし、(大岩剛)監督からは『自由にやれ』って言われています」

 とりわけ好循環が生まれていたのが、左サイドの攻撃。三戸は斉藤光毅、大畑歩夢とともにうまくポジションを入れ替えながら、相手のマークを外し、スペースを作り出し、敵陣深くまで攻め入った。

 実際、三戸の先制点は、このトリオのコンビネーションによって生み出されている。

 とはいえ、これまでの三戸は、どちらかと言えばチャンスメーカーとしての役割が目立ち、決してゴールを量産するタイプの選手ではなかった。

 ところが、まるで優れたストライカーかのように、鮮やかに決めた2ゴール。いずれもフリーでパスを受けているとはいえ、シュートそのものは決して簡単ではなく、ゴール前での冷静さとプレーの質の高さが際立つものだった。

 まだアルビレックス新潟でプレーしていた昨年、5月度の月間ベストゴール(J1第13節、横浜F・マリノス戦で弾丸ミドルシュートをゴールネットに突き刺した)を受賞しながらも、「もっと(ゴールの)数を増やしたい」と話していた三戸。

 新潟を離れ、戦いの舞台をスパルタ・ロッテルダム(オランダ)へと移しておよそ半年が経った現在、有言実行のプレーを新潟のサポーターはもちろん、日本のサッカーファンに披露した格好だ。

 攻撃的なポジションを任される選手として、得点へのこだわりを口にしていた三戸は、昨年当サイトでインタビューした際、「正直、(J2から昇格して)J1になって、点を取るのは難しいなって、あらためて思いました」と苦労を口にしつつ、こんなことも話していた。

「もう入るときは入るんだな、っていう考えになっちゃってますね、今は。点は取れていないけど、焦ってもしょうがない。入るときは入るだろうって」

 入るときは入る――。

 オランダで成長を続ける小さなヒーローの活躍を見ながら、そんな言葉を思い出した。