写真提供:共同通信 ■ライト前ヒットを二塁ゴロに 一二塁間に野手を三人(時には四人)並べたり、右翼手の前に野手を配置するような大胆な守備シフト。シチュエーションに応じて忙しくシフトを組みかえる戦術はMLBでは珍しくないが、先日の楽天とソフト…

写真提供:共同通信

 

■ライト前ヒットを二塁ゴロに

 一二塁間に野手を三人(時には四人)並べたり、右翼手の前に野手を配置するような大胆な守備シフト。シチュエーションに応じて忙しくシフトを組みかえる戦術はMLBでは珍しくないが、先日の楽天とソフトバンクの試合でもこれに似たシーンがあった。2死一塁からペゲーロが放った“ライト前”への強烈な打球を二塁手・川島慶三が捕球し、一塁へ転送してスリーアウト。川島が二塁手として常識的な守備位置に着いていればほぼ確実にヒットになったと考えられる当たりで、まるで打球方向を予測していたかのようにライト寄りに深く守っていた川島の姿に対し、一部のメディアは「ペゲーロシフト」と呼んで称賛した。

 かつての「王シフト」や「松中シフト」など、NPBでも打者の特性に合わせて守備シフトを動かす戦術は存在している。ただしあくまでもその対象は一部にとどまり、歴史的に見ても一般的ではない。現在こうしたシフトが当たり前のように見られるMLBでもこれほど積極的に取り入れられ始めたのはこの数年のことで、トラッキング技術の発展などもあって豊富な打球データがインプットされ、分析された結果、驚くような大胆なシフトを採用するに至っている。

■「ペゲーロシフト」は多くない

 MLBに追随して国内でもこの戦術の流行の兆しが見られないか、2017年のデータで検証してみたい。上の図はペゲ-ロと中村晃(ソフトバンク)の二ゴロの捕球位置をプロットしたものを表している。ベースカバーのために変則シフトを取りづらい、無死、一死かつ走者を一塁に置いている場面の打球は除外している。

 打球が速く、二塁手の両サイドを抜かれやすいペゲーロは深い位置で捕球している傾向が見られ、どちらかと言えばコンタクトヒッターに分類される中村はより前の位置で打球を処理している様をうかがうことができる。ペゲーロの方がより深いポジショニングとなっているのは間違いないが、冒頭の「ペゲーロシフト」のような極端に深い二ゴロは数えるほどにすぎない(一番ライト寄りのプロットが川島の処理した打球)。この2名以外の左打者のデータも検証を行ったものの、極端に深い位置で数多く二ゴロに仕留められている打者、というのは見つからなかった。細かいポジショニングデータによる検証ではなく、あくまでもゴロの捕球位置データによる推測にとどまるものの、現在のNPBにおいて恒常的に大胆な守備シフト戦術を採っているチームは存在していないものとみられる。

 この大胆な守備シフトの効果のほどはアメリカでも議論の対象となっているものの、程度の差はあっても採用しない球団の方が少数派となっている。NPBでこうしたシフトを取りづらい理由はいくつか考えられるが、最も大きい理由と言えそうなのが極端に引っ張る左のプルヒッターがMLBほど多くない、ということだろう。シフトを敷くということはそれだけ“穴”を生むことにもつながり、シフトの逆手を取って広く空いた三遊間に流し打たれたり、バントヒットなどの単打のリスクも高まる。長打を打たせないためにあえてこうした“穴”をつくる作戦も考えられるが、よほど長打の可能性が高いバッターでない限り、割に合わない賭けとなる。

 MLB式の極端なシフトは敷きづらいものの、二塁手のポジションを通常よりもライト寄りに下げ、強いゴロに備えるシフト自体はおそらく有効だ。右方向へのゴロの打球が多く、強い打球を放つ頻度の高い左打者がその対象となる。上に示した図はゴロの打球のうち引っ張った割合と、強い打球を放つ割合(ウェルヒット率、全打球に占める強い打球の割合)の関係を表したもので、右上に位置する打者ほど二塁手に向かって強いゴロの飛んでくる可能性が高い。逆に左下のグループは打球方向を読みづらい上に弱い打球も多いため、二塁手はもとより内野全体として偏りの少ないポジショニングが好ましい。

 冒頭で登場したペゲーロだが、実のところ引っ張ったゴロの打球はそれほど多くない。打球自体は速いので通常よりも下がった位置で構えることには意味がありそうなものの、ライト方向にあまり重心を寄せすぎるとアウトを取りこぼす可能性がある。プレーの当事者である川島は「鳥越コーチの指示で守っていた」と談話を残しているが、現場の嗅覚でつかんだ幸運なファインプレーだったのかもしれない。

■網にかかる鈴木大地

 セ・パ両リーグで規定打席に到達した左打者のうち、最も高い頻度で引っ張ったゴロ打球を放っているのが鈴木大地(ロッテ)だ。ウェルヒット率も高く、守備側にとって一二塁間で網を張るのに適した打者となっている。

 そして各球団とも、こうした鈴木の打球特性を踏まえて対策を講じているフシがある。上の図は鈴木が二ゴロに打ち取られた際の二塁手の捕球座標をプロットしたもの(併殺ケースを除く)だが、ペゲーロに劣らないほど深い位置で処理された打球が複数あることを確認できる。図中の青いひし形は、左打者が二ゴロで打ち取られた際の平均的な捕球座標を示している。これと比較すると、鈴木の座標はライト寄りに数多くプロットされている。

 鈴木は引っ張ったゴロの打球が安打となる確率が低く、規定打席に達した左打者の中で両リーグ通じてワーストとなる.140という数字が残っている。プロ6年目を迎えている鈴木はルーキーイヤーから一貫してプルヒッターであることから、各球団の二塁手は深めの守備位置を取ることで一二塁間を抜かせないように備えていることが考えられる。通常の守りであればヒットとなった打球は1本や2本ではなく、鈴木にとってみると大きな不利益を被っていることになる。これを回避するためには、同じような状況からフライボールヒッターに変貌することでシフトの上を行った柳田悠岐(ソフトバンク)のように打球を上げるか、中村晃のように巧みな流し打ちをすることでヒットゾーンを広げる必要があるかもしれない。

 この鈴木の例のように、NPBでも打者の特性に合わせた細かい守備位置のカスタマイズが進んでいくとみられる。速度が150キロを超えるような打球を処理しなくてはならない内野手は、一歩も二歩も先んじたポジショニングが結果を分ける。今回は二塁手に絞ってNPBの現状を探ったが、データに基づく最適な守備の配置の重要性はどこのポジションであっても変わりはない。MLBのような極端な守備シフトがNPBで主流となる未来は考えにくいが、何年もしないうちに実験的で大胆なポジショニングを取る球団が出てきても不思議ではなさそうだ。

※データは2017年8月21日現在

文:データスタジアム株式会社 佐々木 浩哉