一軍出場わずか10試合の若手選手が、春季キャンプでこれだけ大きな期待をかけられることがあっただろうか。広島の田村俊介はチーム内で「ポスト西川」の筆頭候補に挙げられ、3月に行なわれる侍ジャパンの強化試合の最終候補入りと報道された。 愛工大名…

 一軍出場わずか10試合の若手選手が、春季キャンプでこれだけ大きな期待をかけられることがあっただろうか。広島の田村俊介はチーム内で「ポスト西川」の筆頭候補に挙げられ、3月に行なわれる侍ジャパンの強化試合の最終候補入りと報道された。

 愛工大名電から21年にドラフト4位で入団した20歳の外野手で、シュアな打撃を売りに評価は急上昇。昨季一軍デビューしたばかりも、プロ野球選手として迎える3度目の春は大きな転期になりそうだ。


ポスト・西川龍馬の期待がかかるプロ3年目の田村俊介

 photo by Sankei Visual

【2年目の昨年は開幕一軍】

 2月1日からプロ野球春季キャンプが始まった。昨シーズン、新井貴浩新監督のもと4年連続Bクラスから、2位に躍進した広島の注目点は、オリックスへFA移籍した西川龍馬の穴を埋める選手の台頭にある。昨季11本塁打を記録した末包昇大(すえかね・しょうた)も候補のひとりだが、一塁との併用も検討される大砲に対し、田村は外野手一本での勝負となる。

 片鱗は1年目からのぞかせていた。まだ高校卒業前の2022年2月12日、二軍での内容が評価されて一軍キャンプに練習参加。同日行なわれた紅白戦に出場すると、遠藤淳志から左翼フェンス直撃の二塁打を放ち、首脳陣や関係者、ファンを驚かせた。"お試し合流"だったこともあり、翌日からは再び二軍に合流となったものの、強烈なインパクトを残した。

 1年目のシーズンは順調に滑り出しながら、下半身のコンディション不良で戦線離脱するなど、リハビリを中心とした三軍で治療とともに、基礎体力強化に多くの時間を費やした。

 そして昨年の春季キャンプは、「将来期待される若手のひとり」として一軍に抜てきされた。当初は宮崎・日南での春季キャンプが終われば、沖縄へ移動せずにそのまま日南に残って二軍キャンプに合流する予定だった。

 だが前年の"お試し期間"とは違い、成長した姿と内容ある打撃をアピールして一軍に生き残り続けた。先輩選手が降格となってもしがみつき、キャンプを完走。一時は打撃を崩す時期がありながらも、オープン戦でも結果を残して開幕メンバー入りを果たした。

 キャンプイン時は最後列と目されていた外野の序列が、4番手にまで評価を上げたと聞く。だが、秋山翔吾、西川、野間峻祥のレギュラー陣の壁は高く、一軍では出場機会が限られるため、開幕7戦目に二軍降格。1年目にケガでの離脱もあり十分な実戦経験を積めていなかった田村に、二軍で数多く打席に立たせる前向きな降格だったといえる。

 5月に野間の離脱によって外野の一角が抜けた時期があったが、田村も負傷離脱。7月に再昇格を果たすも、2打席無安打ですぐに二軍へと逆戻りとなった。それでも9月12日に3度目の一軍昇格を果たすと、合流即スタメン起用されたヤクルト戦で先発のサイスニードからセンター前ヒットを放ち、プロ初安打をマーク。新井監督もたくましくなって帰ってきた姿に成長を認めた。

「よかった。内容もよかった。一軍にいたのは前になるけど、最後に見た彼と久しぶりに上がってきた彼とは違う。いい雰囲気を持って、いい反応をして、いい入りをしていたと思う」

 2試合連続スタメン出場となった翌13日ヤクルト戦も快音を響かせると、代打となった14日はヤクルトのWBC日本代表左腕の高橋圭二から右中間二塁打を放った。念願の初安打から若きバットマンが見せた輝きは、シーズン終盤に主力離脱が相次いだチームの希望の光だった。

 しかし、再昇格から6戦連続安打をマークした9月17日の中日戦でアクシデントに見舞われた。2点リードの9回一死一、三塁で齋藤綱記の内角球が左手を直撃。そのまま途中交代となり、左小指中手骨骨折で翌18日には出場選手登録を抹消。打率.365のまま、田村の2年目のシーズンは終わりを告げた。

【左投手を苦にしない】

 若手が伸び悩むなか、田村の成長を球団も高く評価したのだろう。昨年の秋季キャンプメンバーに選出。秋季キャンプは例年若手が多く抜てきされるため、20歳の田村が選ばれることは決して珍しいことではない。だが、直前に行なわれるフェニックスリーグに出場していない若手が、秋季キャンプのメンバーに入るのは異例だった。

 左手の治療に専念させながらでもキャンプに参加させたのは、期待の証し。近年、若手にとって秋季キャンプ参加が、翌春の一軍キャンプ参加の最低条件となることも影響したのかもしれない。

 そんな球団の思いに、田村はしっかりと結果で応えた。キャンプ期間中の紅白戦で内容ある打撃を示し、侍ジャパンとの練習試合では3打数2安打。相手はともに左腕の及川雅貴(阪神)と抑えの田口麗斗(ヤクルト)だった。

「左ピッチャーに対しての入り方がすごくいい感じになってきた。1年目は左ピッチャーがすごく嫌だったんですけど、全然嫌じゃなくなって。一軍に上げてもらって左ピッチャーからヒットも出ていますし、長打も出た」

 今季の広島もレギュラー格に左打者が多くいるなか、田村も左打ちだが、左投手を苦にしない。昨季、二軍では左投手との対戦では打率.242(対右投手は.297)だったものの、一軍では左投手に対して5打数3安打で打率.600(対右投手は17打数5安打、打率.294)だった。侍相手にも示した強みに、胸を張った。

 2年目を終えたばかりの昨年11月末、田村からはすでに新シーズンへの高ぶる思いが溢れていた。

「僕自身も楽しみ。もっとやれそうな気がする。もっともっと、いろんな人に見せたい気持ちがある」

 西川の移籍や侍候補入りで知らぬ間に周囲の期待値は高まっている。どれだけ周囲が騒がしくなろうとも、本人は冷静さを貫く。

「そこまで気にしていない。どういう状況であろうが、早くレギュラーを獲りたいし、試合に出たい」

 きっぱりとそう言いきれる強さこそ、大きな期待を受ける理由なのかもしれない。