2020年、世界的に広がった新型コロナウイルスの影響で戦後初めて中止となった全国高校野球選手権大会。あれから3年の月日が経った今でも当時の球児達の胸の奥に残る無念を晴らすべく、あの夏を取り戻そうと活動を行う大学生がいる。当時高校3年生で野球…

2020年、世界的に広がった新型コロナウイルスの影響で戦後初めて中止となった全国高校野球選手権大会。あれから3年の月日が経った今でも当時の球児達の胸の奥に残る無念を晴らすべく、あの夏を取り戻そうと活動を行う大学生がいる。当時高校3年生で野球部だった大武優斗さん。大武さんが発起人となり、失われた2020年の夏の甲子園を開催しようと「あの夏を取り戻せ」プロジェクトが始まった。そして11月29日から12月1日にかけて3年越しの大会が開かれることが決定。11月29日からの開催に先駆け、大武優斗さんにインタビューを行った。

プロジェクトを始めたきっかけは2022年6月、当時の城西高校のメンバーとご飯を食べに行ったことが契機に

――「2年ぶりに会って楽しい話をしていたんですけど、最後は『なんで自分たちの代がなくて、後輩の代はあるんだろう』って。そういうネガティブな話になってしまっていて。」

 

3年たった今でも夢や希望を持てていない選手がいたと話す大武さん。当時のメンバーに理由を聞くと、「いくら本気で努力して向かっていっても一瞬で消えてしまうこともある。もう同じような経験をしたくないから。」と答えたという。

 

このままでは10年経っても20年経っても甲子園がないことを言い訳にして前に進めない選手が多いんじゃないか。そう考えた大武さんは、自分が思いついたのなら思いついた人がやる責任があると考え、「あの夏を取り戻せ」プロジェクトを始めたのだ。

 

最初は個人の見切り発車なプロジェクトだったものの、ある人との会話が彼を本気にした。


――「尽誠学園の橋爪仁という選手から電話がかかってきて、『本当にこのプロジェクトに参加させてほしい、自分自身も2年間前向きになれずに甲子園がなかったことを言い訳に進んできた』という話を電話で言われて。」

 

この一本の電話がきっかけとなり、”絶対に甲子園で野球をして終止符を打って次のステップに進まなきゃいけないんじゃないか”と考えた大武さんは、改めてプロジェクトに対して気合が入ったのだ。

 

甲子園がなくなったから成長できたとポジティブにとらえる「あの夏世代」に

甲子園がなくなったことをずっと言い訳にしてきた。しかし大武さんはそれを逆手に取り、”自分たちしか経験してないし、逆にそれが自分たちの世代の絆になっている”とプラスの方向に考え方が変わった。

 

――「あの夏世代だからこそ、僕らは後輩の人たちに対して甲子園でできることのありがたみっていうのを伝えられる唯一の世代だと思っていますし、僕らだからこそできることっていうのがたくさんあるんじゃないかなと思っていて。あんなに悔しい思いをしたから、たぶんこんなに強い絆が生まれたと思いますし、”あの夏世代って最強じゃね”みたいな、そんな男になりたいなって思います。」

 

誰も味わったことのない、あの悔しい思いを経験したからこそ強くなれたと語った。周囲からは、コロナによって何もかも奪われた世代、被害を受けた世代と思われるそうだが、大武さんはこの世代を”あの夏世代”と呼び、前向きに捉えた。

城西高校時代の大武さん

いよいよプロジェクト始動!選手を集めるために北から南まで全国行脚

大武さんはメンバーを集めるために、ヒッチハイクやキャンピングカーで当時の選手に会いに行った。お金も食べるものもなく、食パン1斤で1週間をしのいだり、このプロジェクトの支援者の方の家に泊めてもらったりしながら選手を集め続けた。2ヶ月から3ヶ月ほどかけ、東北から鹿児島まで当時の選手にひたすら会いに行ったそう。

 

――「直接会えないと伝わっていない感覚があり、絶対当時のメンバーに会って話したいって思ったので、その思いだけです。情熱という想いだけで動きました。」

大武さんの情熱が実を結び、20年独自大会の優勝校など出場チームが続々と決定。そして選手総勢約1000人の選手が集まった。

 

2023年の3月、甲子園球場で野球ができることが決定!

大武さんの熱い想いが通じ、甲子園球場での大会開催が決まった。

 

――「甲子園がなければあの夏は取り戻せない。やっと甲子園球場で当時のメンバーを連れていけるという感覚があります。」

昔も今も変わらない甲子園という場所が、絆を作ってくれてると感じたそう。これでやっと失われた2020年の夏の甲子園を取り戻せると自信がついた瞬間だった。

 

開催が決まったものの、直面している課題

大武さんは、今直面している課題について「当日どれだけ人を呼べるか」だと話す。選手も大会資金も集まり、残る不安材料は集客。甲子園でプレーするだけでなく、多くの歓声も体験してほしいと感じている。甲子園球場で1回戦におおよそ入る観客の数は1万人弱といったところから、現在1万人の動員を目標に掲げている。

 

――「再現するっていうところでおいて言うと、やっぱ1万人はいなきゃいけないんじゃないか。」

現状、集まっている人数は2600名程度だと言う。観客の方々にぜひこのプロジェクトに参加する選手の背中を見てほしいと期待を寄せている。

 

大武さんが大会の開催を通じて伝えたい想いとは?

――「メディアの方々からは僕一人が頑張っているような見え方になっているんですけど、その場で多くの人たちが支えてくださるということを見せられると思います。僕たち選手含め運営メンバーは、裏でクラウドファンディングで支援していただいた方々やSNSをフォローしてくれている方々からのご支援でここまで来れたと思っています。」

 

このプロジェクトに携わってくれた方々に感謝の想いでいっぱいの大武さん。当日は、甲子園球場に立つ前の表情と立った後の表情でどれだけ変わったのか、そしてどれだけ終止符を打って次に進めることができるかを楽しみにしている。


――「戦後初めて甲子園がなくなったのというのは、僕たちの代しかいなくて、色々な球児と甲子園で野球ができる。当たり前っていうのは、僕たちにとっては当たり前じゃないですし、そのことを高校生、中学生、小学生の野球をやっている選手に対しては伝えることができる唯一の世代だと思っているので。」

 

甲子園が中止になったというその事実を目の当たりにしたからこそ、甲子園で野球ができることのありがたみを実感。裏で多くの方々が支えてくれていることでその選手の当たり前が成り立っていることを伝えたいという。


――「ライブ配信もありますけれども、やはり生で見るのは全然違う。本来見に来るはずだった人たちも見に来てほしいなと思います。」

多くの方に現地で楽しんでもらい、声援を送って欲しいと話す大武さん。やっと取り戻せる2020年夏の甲子園の開催を心待ちにしている。


夏の甲子園を再現するために、球場に足を運び球児・観客の力を合わせてあの夏を取り戻そう!
無料チケットはこちらから▷https://re2020.peatix.com/


開催情報
2023年11月29日(水)・阪神甲子園球場
2023年11月30日(木)・姫路ウインク野球場・県立明石公園トーカロ球場・三木総合防災公園野球場​・高砂市野球場
2023年12月1日(金)・県立明石公園トーカロ球場​・尼崎ベイコム野球場
*阪神甲子園球場での観戦のみ無料チケットが必要です。


あの夏を取り戻せHP▷https://www.re2020.website/