女子ボートレーサー北村寧々インタビュー 後編(前編:なぜ命の危険もあるボートの世界に入ったのか>>) 21歳のボートレー…

女子ボートレーサー

北村寧々インタビュー 後編

(前編:なぜ命の危険もあるボートの世界に入ったのか>>)

 21歳のボートレース界の「期待の新星」北村寧々。ボートレーサーになるまでの経緯や目標について聞いたインタビュー前編に続き、後編は抱えている悩み、オフの過ごし方なども聞いた。



女子ボートレーサーとして人気を集める北村

【女子ボートレーサー特有の悩み】

「最近、35万円もするネックレスを買っちゃったんです」

 北村の去年の獲得賞金は685万。レーサーの平均年収は約1800万円とされているため、かなり物足りなく感じる。若い身にとっては十分すぎる金額かもしれないが、家賃に食費、備品代、練習などにかかる費用や保険も自己負担だから、そんなに贅沢な暮らしをしているとは言えない。

 その中で35万円もの出費をしたのは理由がある。

「そのネックレスをつけると、体幹がブレなくなるらしくて(笑)」

 その効能はさておき、北村が普段乗っているボートは水面を時速80キロで進む。レース中は常に正座の状態で、まるで「荒れた道をトラックで走るような衝撃」だという。

「柔軟性」「動体視力」など数ある条件の中でも、ボートレーサーにとって「体幹」は特に大事。どんなことをしても手に入れたい才能とも言えるだろう。筋力トレーニング以外でも、日常生活にバランスボールを取り入れるなど、日頃から体幹を意識し続けている彼女らしい買い物といえるかもしれない。

 トレーニングと同じくらい欠かせないのが、しっかりとした食事だ。ボートレーサーには体重の下限と上限があり、女子レーサーの最低体重は47kg。男子レーサーの多くは減量に励むというが、小柄な女子レーサーは増量に苦労する。身長153cmの北村も例外ではない。最低体重に届かない場合は重りの入ったベストを着用するのだが、それが操縦に与える影響がかなり大きい。

「ウエイトをつけると乗りにくくなっちゃうので、意識して食事を摂るようにしています」

 さらに、体重が軽いレーサーはターン時に安定しないという。男子レーサーに比べてボートをコントロールする力も弱いから、必然的に旋回で差が出る。

 男子と対等に戦うスポーツだからこそ、トレーニングと適切な食事で最適体重に近づける必要がある。

【期待の大小で揺れ動くメンタル】

 昨年のSG(ボートレース界最高峰のレース)覇者となった遠藤エミをはじめ、男子レーサーと対等に渡り合っている女子レーサーはたくさんいる。北村が憧れるのは、香川県出身の中村桃佳だ。学生時代に少林寺拳法で四国2位という成績を残しており、現在はA1級で活躍を続けている。

「中村選手のレースを見ていると、強気な感じが伝わってくるんです。『絶対にここは無理だ』というとこから出てきたり、他のレーサーがちょっとでもミスをしたら、それを絶対に逃さない」

 A1のレーサーたちは、取れるレースは絶対に勝つ。一方の北村は「プレッシャーに弱いタイプ」。それが目下の悩みだという。

「レース本番では、ボートレース場の控え室にテレビが置いてあってそれを見るんですけど、自分の舟券が売れてるとすごくプレッシャーを感じますね」

 苦手な枠順で、さらにモーターの調子もよくない。それなのになぜか舟券が売れている。その様子がレース前の北村の目に飛び込んでくる。なぜかといえば、北村の人気によるところが大きいのだが、結果が伴わなければすぐにファンは離れていく。「結果を出さなければ」というプレッシャーに毎度押しつぶされそうになる。

逆に信頼度が低い時も、自身の不甲斐なさを感じる。たとえば5月のレースで1コースからの1着になった時には、1-4-5という結果で三連単の配当は9910円。強い選手が1コースの時はひと桁オッズになることも珍しくないボートレースでは、北村のインはまだまだ信頼されていないということだ。

 プレッシャーに勝とうと思っても、自分自身が押し潰されては意味がない。のどかな田舎で育った彼女の現在のルーティンは、自分にストレスを与えず、マイペースでいること。そうすると自ずといい結果がついてくる。

「自分のリズムを崩したくないです。そして、1走を大事にして、絶対に"なあなあ"でやらないこと。後悔したくないですから」

【英気を養うためのオフの過ごし方】

 レース開催中は、前日に会場入りしてモーターの抽選を行ない、レースに備える。ボートレース場に入った瞬間からずっと気持ちが張り詰めているので、最終日が近づくと、どっと疲れが出るという。そんな時は、レースが終わった後のことを考えて乗りきる。

 オフの楽しみは旅行だ。愛車のバイクで九州をツーリングしたり、あるいは友人と温泉に行ったり。時間があれば、必ずどこかに出かける。もちろん自分でハンドルを握る。今の夢は北海道にツーリングに行くことだ。普段の息抜きはおいしい食事と酒。自炊もするが、やはり外食が一番の楽しみだ。

「好きなご飯は焼き肉。中でも塩ホルモンが好きですね」

 トレーニングが終わったあとの一杯は格別だ。最初はビールを頼んで、2杯目からはサワー、梅酒と杯を重ねる。「酒は嫌いではない」と笑うが、こうして謙遜するタイプは酒豪であることも多い。

「いえいえ(笑)。家では飲まないから、外ではしっかり飲んじゃうのかも」

 酒が翌日まで残らないようにセーブはする。それはプロ選手としての最低限の嗜み。だが、焼肉のあとにデザートを食べに行ったり、締めのごはんを求めてハシゴすることもあるという。彼女はまだ21歳の若者なのだ。そうやって心と体をリフレッシュして、次のレースへの英気を養う。

 デビューから3年目を迎え、今年はB1級からA2級に上がるという明確な目標ができた。

「スタートがもう少し安定したらA2にはいけると思います。でも、その上の壁が高いですね。でもせっかくボートレーサーになったんだから、一番上を目指して頑張ります」

 今年はGⅡレディースオールスターに選ばれるなど、北村の人気は着実に高まっている。舟券が売れれば、全国のレース場から声がかかる。人気に伴った実力をつけなければいけない。そのプレッシャーを力に変えられる時、もっと活躍することができる。小さな体に大きな期待を乗せて北村は走り続けている。

【プロフィール】
北村寧々(きたむら・ねね)

2001年9月28日生まれ、長崎県出身。B1級のボートレーサー。高校を卒業後に養成所に入所し、2021年5月に地元・長崎のボートレース大村でデビュー。 長崎支部で8人目の女性ボートレーサーとしても注目を集めている。師匠はA2の男子ボートレーサー宮本夏樹。