春の東北大会4試合で合計30得点。17年ぶりに優勝した八戸学院光星(青森)は、仲井宗基監督が「うちのスタイル」と打ち出す攻撃力が際立った。 今年のセンバツ出場をかけた昨秋の青森県大会で初戦敗退だったチームが、春には東北制覇と大きく飛躍した…

 春の東北大会4試合で合計30得点。17年ぶりに優勝した八戸学院光星(青森)は、仲井宗基監督が「うちのスタイル」と打ち出す攻撃力が際立った。

 今年のセンバツ出場をかけた昨秋の青森県大会で初戦敗退だったチームが、春には東北制覇と大きく飛躍した背景。それは、打線よりむしろ投手陣にあった。3−2と接戦だった仙台育英(宮城)との決勝戦のように、打線が相手投手陣を打ちあぐねている展開であっても主導権を渡さない存在がいた。



春の東北大会優勝の原動力となった岡本琉奨(写真左)と洗平比呂

【昨年夏は兄とともに甲子園出場】

 2年生左腕の洗平比呂(あらいだい・ひろ)と岡本琉奨(るい)。

 ふたりの出色のパフォーマンスこそ、夏へ向けて大きな収穫となった。彼らの台頭について、仲井監督はこのように分析している。

「センバツに出られなくなったことで遠征を多くして経験を積ませ、冬場に鍛えたことで一本立ちしてくれたと思います」

 監督のコメントにある経験値で言えば、洗平はチームの投手陣では経験豊富なピッチャーだ。

 1年生だった昨年夏の甲子園、兄である3年生エースの歩人(あると)ともに出場したことでも話題となった。先発した愛工大名電(愛知)戦では5回1失点と好投し、その実力を証明した。

 しかし、この時はまだ安定感にムラがあり「立ち上がりの入りが難しく、気持ちの入れ方がうまくできないことがあった」と振り返っている。昨年の秋に行なった仙台育英との練習試合では3イニングを投げ4失点と精彩を欠いたように、リズムに乗りきれないピッチングも多かった。

 それが改善されたと印象づけたのが今年の春であり、東北大会だった。

 ハイライトは決勝戦だ。昨秋に苦渋を味わった相手に先発した洗平は、最速147キロのストレートとチェンジアップで的を絞らせず、3回までノーヒットに抑えるなど降板する9回2アウトまで2失点に抑えた。

「最後まで押しきるくらいの力をつけたい」

 そう悔しさをにじませながらも、総合的なピッチング内容には充足感があるようだった。

「相手は嫌らしいバッターが多いなか、秋は軽い気持ちで試合に入って打たれてしまいましたけど、今日はその反省を踏まえて、ランナーが出たらギアを上げたりとか......気持ちを入れて投げることができました」

 その洗平が「あとひとり」から二塁打を許し、一打同点のピンチでマウンドを託され後続を断ちきったのが岡本だった。

【冬場のトレーニングで心身とも成長】

「同級生であり、いいライバル」

 東北大会で3試合に投げ、13回2/3を4失点と主戦の役割をまっとうした洗平からそう言わしめる岡本は、この春、エースナンバーを背負った。3試合8回1/3を投げ防御率0.00。1年から甲子園のマウンドに立ったライバルをもしのぐピッチング内容だった。

 岡本はひと冬越え、著しく成長を遂げたピッチャーだ。岡本も昨年秋まで洗平と同じように精神面に課題があった。ランナーを出すと「打たれたらどうしよう......」と左腕が萎縮し、思うようなボールを投げられずにいた。

 そんなうしろ向きな思考が改善されたのが、シーズンオフのトレーニングだった。「自分には力がない」と自覚し、筋力トレーニングに励み、食事面も見直したことによって、ボールの威力が格段に増した。それによって変わってきたのが投げっぷりだ。

「前まではフォアボールを出すと、続けてしまっていたんですけど、今はそれがなくなりました。冬に鍛えたことで、メンタル面も自信が持てるようになりました」

 それまで最速138キロだったストレートは、東北大会初戦の鶴岡東(山形)戦で145キロ、準決勝のノースアジア大明桜(秋田)戦では147キロと一気に伸ばした。

 おそらく、来年のドラフト候補にラインナップされるであろう洗平と岡本。豊かな素質を有しているからこそ、仲井監督は気持ちを引き締めるように彼らを見守る。

「ふたりとも未完成ですし、無理をさせるつもりはありません。あまり勝ちにこだわりすぎると故障にもつながりますしね。そこは考えながらやっていこうと思います」

 まだ伸びしろがあることはわかっている。だからこそ焦らず、ひとつずつ成功体験を積み重ねていく。青森の連覇をかけた八戸学院光星の夏。洗平と岡本がライバルたちの脅威となることだけは間違い。