4月4日から3日間にわたり開かれたU18日本代表候補選手強化合宿。35人の参加選手のうち、とくに目立ったパフォーマンスを見せた野手を紹介したい。木製バットで快打を連発した広陵の真鍋慧【別格だった真鍋慧の飛距離】 高校生の打者が卒業後に直面…

 4月4日から3日間にわたり開かれたU18日本代表候補選手強化合宿。35人の参加選手のうち、とくに目立ったパフォーマンスを見せた野手を紹介したい。



木製バットで快打を連発した広陵の真鍋慧

【別格だった真鍋慧の飛距離】

 高校生の打者が卒業後に直面する大きな壁は、バットが変わることである。スイートスポットの広い金属バットから、飛ばせる部分が限られる木製バットへ。金属バットなら多少詰まっても飛んでいくが、木製バットでは折れてしまう。つまり、ごまかしがきかなくなるのだ。

 4年前の合宿と同様に、今回も参加選手は木製バットを使用した。9月開催のU−18ワールドカップは木製バットを使うためだ。合宿に参加した選手は全国指折りの好打者だけあって、巧みにコンタクトする打者が多かった。しかし、飛距離に関してはひとりだけ飛び抜けていた。

 広陵の真鍋慧である。

 合宿初日の打撃練習から、その打棒は異彩を放っていた。本人によると「8割くらい」の力加減ながら、打球の初速スピードがほかの選手とまるで違う。一瞬で外野後方まで持っていき、逆方向のレフトスタンドに放り込むシーンも見られた。

 真鍋は身長189センチ、体重90キロの大型打者だが、力任せにバットを振るわけではない。木製バットは金属バットに比べて「しなる」打感があると言われるが、真鍋はその特性を生かし、見事に使いこなしていた。

 真鍋に聞くと、日常的に木製バットを使って打撃練習をしているという。

「冬の練習でヘッドの利かせ方を意識して、感覚をつかんでから軽く振ってもヘッドが利くようになりました。バットに当たる時に『クッ』と手首を返すイメージで振っています」

 金属バットと木製バットの飛距離の違いについて聞いてみると、真鍋は「詰まったら金属のほうが飛びますけど、ちゃんととらえたら変わらない」と語った。

 合宿2日目の紅白戦では、好左腕・武田陸玖(山形中央)の初球のストレートをとらえてライト前ヒットを放った。4打数1安打1四球2三振という結果だったが、存在感は際立っていた。

 一塁守備ではぎこちない身のこなしでエラーを犯すシーンもあったものの、スローイングは力強い。ふだんの練習では、将来を見据えて三塁守備も練習している。

 今回の合宿ではライバル格である佐々木麟太郎(花巻東)が招集されなかったため、直接的な比較はできなかった。多くのスカウト陣の前で見せた圧倒的なデモンストレーションは、真鍋の運命を変えるかもしれない。

【捕手は堀柊那と鈴木叶が猛アピール】

 もうひとりの一塁手スラッガー・佐倉侠史朗(九州国際大付)も合宿で進化を見せた。ウォーミングアップ中には巨体ながら軽やかなジャンプを披露。昨年までの鈍重なイメージを塗り替える身のこなしだった。

 一時115キロまで達した体重は、ダイエットによって100キロまで減ったという。ただし、その後、腰痛を発症した影響で運動量が減り、合宿時の体重は106キロだった。佐倉は「100キロジャストだと足もそれなりに速くなって、打ててもいました」と語る。

 打撃練習では真鍋ほどのアピールはできなかったものの、紅白戦では6打数3安打と結果を残した。そのうち2安打は杉山遙希(横浜)、東松快征(享栄)と左投手からマークしている。

 同じ右投げ左打ちの大型一塁手である真鍋について、佐倉はどう見ているのか。

「自分よりとらえる確率が高いのと、ボールの見極めができていると感じます。初球から難しいボールに手を出すのではなく、2ストライクからも見極めてボール球を選べる。僕よりすごいなと感じます」

 高校通算25本塁打の発展途上のスラッガーは、今後の進路について「いや、まったく何もわかっていません」と語る。今春以降に減量効果が結果として表れてくれば、道は拓けてきそうだ。

 捕手では堀柊那(報徳学園)、鈴木叶(常葉大菊川)の両巨頭が存在感を見せた。とくに評価を高めたのは鈴木だろう。

 快足の多田羅浩大(智辯和歌山)の盗塁を刺した強肩だけでなく、打撃練習では力強い振り抜きで快打を連発。やや木製バットの扱いに手間取った感のある堀を凌駕する内容だった。

 紅白戦では7打数0安打に終わったものの、攻守に高い潜在能力を感じさせただけに、堀より高く評価するスカウトがいても不思議ではない。

 一方の堀は紅白戦で5打数2安打と実戦での強さをアピール。さらに数字に表れにくい部分での魅力も見せた。堀とバッテリーを組んだ東松(享栄)はこう証言する。

「垂れたボールでも堀がうまく捕ってくれるので、全部がいい球に見えました。おかげで気持ちよく投げられました」

【野手は個性よりもバランス型】

 全体的に走攻守のバランスがとれた選手が多く選出されており、飛び抜けた個性をアピールできた野手は少なかった。

 それでも、打撃練習から雄大なフォロースルーで打球を運ぶ中澤恒貴(八戸学院光星)。紅白戦で4安打を放ち馬淵史郎監督(明徳義塾)もバットコントロールを評価した高橋海翔(山梨学院)。コースにさからわず広角にヒットゾーンへと運べる高中一樹(聖光学院)。走攻守にスピードと強さを感じさせた知花慎之助(沖縄尚学)。キレ味抜群の投球だけでなく、天才的な対応力でも輝きを放った武田陸玖(山形中央)といった野手が躍動した。

 また、「山陰の浅野翔吾」の異名を持つ高野颯太(三刀屋)は左有鉤骨骨折から復帰途上のため、守備のみの参加になったのは残念だった。

「合宿のスピード感についていくので精いっぱいでした。前田くん(悠伍/大阪桐蔭)はほかの選手と違うオーラがあります」

 こんな初々しい感想を口にする選手が有名選手から刺激を受け、進化していく。これも合宿の大きな意義だろう。4年前は駿河総合から紅林弘太郎(現・オリックス)が合宿に参加し、同年秋のドラフト会議で2位指名を受けた例もある。

 高野は身長176センチ、体重90キロの厚みのある肉体で、とくに「もとから太い」と語る太もも周りの発達ぶりには目を見張った。本人によると、左有鉤骨の故障もあと1カ月程度で治る見込みだという。

 代表合宿中、馬淵監督は野手陣に関してこんな課題を口にしている。

「紅白戦でみんな打っていたのは、変化球の抜け球とかで、本当の速いボールは打てていません。夏までに木のバットに慣れてもらえたらいいですね」

 今回招集されなかった選手にも、チャンスは十分にある。木製バットを使いこなし、夏に日の丸を背負う強打者の出現を楽しみに待ちたい。