1月15日に、皇后杯の準々決勝が行われた。ベスト4入りを懸けた戦いは、見応えがある一方で問題点もうかがえた。サッカージ…
1月15日に、皇后杯の準々決勝が行われた。ベスト4入りを懸けた戦いは、見応えがある一方で問題点もうかがえた。サッカージャーナリスト・後藤健生が、現在の日本女子サッカーの魅力と問題点について考察する。
■互いに見つけた課題
INAC神戸レオネッサが狙いとするサイド攻撃によって12月の試合で今シーズンのWEリーグで初黒星を喫した三菱重工浦和レッズレディースも、当然、対策は練ってきたはずだ。「サイドバックが上がった後が無防備だった。その後、ミーティングを重ね、実際に失点は減らせた」とは楠瀬直木監督の言葉だ。
だが、皇后杯で再びウィングバックからの攻めに崩されたので、浦和としては今後に向けて大きな修正材料となる(リーグ優勝を目指すには、神戸との再戦=5月13日または14日の第18節=に勝つ必要があるだろうからだ)。
一方、神戸は狙いとするカウンターの形を作って浦和相手に連勝した(朴康造監督は「カウンター狙い」を明言。一方、楠瀬監督も「やられるとしたらカウンターと感じていた」と発言)。
しかし、神戸としては内容的に浦和に攻め込まれる内容だったことは確かだ。もし、浦和の攻撃がうまく機能して2点目、3点目を奪われていたら、勝利はあり得ない展開だった。しかも、12月の試合よりもさらに受け身になる時間が長くなってしまった。
皇后杯ではFWの田中美南が欠場で、本来MFの阪口がトップを務める苦しい布陣だった影響もあるだろう。しかも、ベンチの控え選手が5人(GKを除くと4人)だけしかいない状況で、さらにセンターバックの三宅史織が負傷で交代を強いられるといったハンディキャップもあった。しかし、それにしても、神戸は浦和との最終決戦までにボールを握って攻める形を作っていかなければならない。
■低迷するベレーザ
浦和と神戸が“2強”と言われるのは、WEリーグ開幕前まで“絶対女王”的な存在だった日テレ・東京ヴェルディベレーザがこのところ失速していることも原因だ。初年度のWEリーグでは3位に終わり、今シーズンも現在4位と低迷中である。
直接的な原因は、長谷川唯を初め籾木結花や清水梨紗といった主力選手が相次いで海外クラブに流出したこともあるだろう。
しかし、選手の海外流出はベレーザだけではない。ベレーザが苦しんでいる根本的な原因は、「美しくパスをつないで崩す」というベレーザのサッカーの“美学”に固執しているところにある。
縦への推進力を生かした浦和レッズレディースやワイドな攻撃を目指すINAC神戸レオネッサのように、日本でもよりダイナミックな動きを取り入れたサッカーが増えつつある女子サッカー。誤解を恐れないで言えば、より“男子的”なサッカーが台頭しているのだ。
そうした新しい流れの中で苦しんでいるのが最近のベレーザなのではないか。
ベレーザ自体もそうした新しい流れを取り入れる必要もあるだろうし、逆にパスやパススピードをさらに上げて、ベレーザのパス・サッカーで他チームをねじ伏せるための努力が必要なのかもしれない。
それでもベレーザは育成組織(メニーナ)が機能しており、毎年のように素晴らしい若手選手が育ってきている。
■結果を伴った好ゲーム
現在のベレーザは、今では日本代表の最大の得点源となっている植木理子や小林里歌子、ヤングなでしこで活躍した藤野あおばらの攻撃陣を擁しているが、得点力不足に悩まされている。長谷川のようなゲームメーカー不在の影響なのかもしれない。
実際、今シーズンのWEリーグでも、7試合を戦って11得点(7失点)とベレーザは点が取れていなかった。12月4日の第5節では、皇后杯準々決勝で対戦する広島に0対1で敗れ、また直近の試合(1月9日の第8節)でもマイナビ仙台とスコアレスドローに終わっている。
どちらも、チャンスはつかみながら決めきれないで勝点を落とす同じようなパターンの試合だった。
そんなベレーザだったが、皇后杯準々決勝では広島に対して3対0で快勝した。
3ゴールを奪えた“結果”も素晴らしかったし、そのゴール自体もパスをつないで崩したベレーザらしい美しい得点だった。
前半44分の先制点は左サイドでパスをつないだ後、小林がドリブル突破し、マイナス気味に入れたクロスに植木が合わせてDFのマークをはずして決めたもの。彼女のシュート技術の高さを見せつけたようなゴールだった。
67分の2点目はボランチの木下桃香が右サイドの藤野にロングレンジのグラウンダーのパスを通し、藤野が右45度から決めたもの。さらに、78分のダメ押し点は中盤で生まれたこぼれ球を拾った木下が縦に走る植木に絶妙のスルーパスを通して植木がフリーになったもので、パスの出し手も受け手もしっかりとイメージを共有した素晴らしい3ゴールだった。そして、木下というMFが何かをつかんで覚醒するきっかけとなるような2アシストだった。