サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト・大住良之による、重箱の隅をつつくような「超マ…

 サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト・大住良之による、重箱の隅をつつくような「超マニアックコラム」。今回は、PKか否か、境界は脇の下の最も奥の位置?

■不可解な反則「ハンド」

 サッカーになじみの薄い人にとって、ルールで最もわかりにくいのはオフサイド――。ずっとそう思われてきた。しかしビデオ・アシスタントレフェリー(VAR)というものがときにサッカーの主役になった現在、オフサイドは明白な「事実」となってしまった。いま、まったく不可解なのは「ハンド」である。

 偶発的に手に当たったボールをシュートしてゴールにはいっても得点は認められないがそれを味方にパスして得点になったら認められる? シュートをブロックしようとして倒れ込んだとき、自分の体を守るために支えようとグラウンドについた手にボールが当たっても反則にはならない? でもその手は少し広がっていたらPK? DAZNの「ジャッジリプレー」の家本政明さんも「う~ん、どっちかな?」という状況が続出するハンドの反則。私たちはいま、不可解の迷宮にさまよいこんでしまった。

 「サッカーとはどんな競技か」という質問をすれば、多くの人が「手を使ってはならないスポーツ」と答えるに違いない。まさにそのとおりで、「フットボール」と名のつく競技は数多くあっても、大半がボールを手でキャッチしたり、ボールをつかんだまま走ったりすることを認める。それどころか、主体にしている。

 「アメリカン・フットボール」にいたっては、足でのキックは、キックオフやフィールドゴールなどごく限られた状況にしか使われない。選手の大半はボールをけることなどなく(ときにはボールに触れることさえなく)、試合(もしかしたら選手生活まで)を終える。「フットボール」はどこに行ったのか? 

 サッカーだけが違う。サッカーは大半のプレーが足で行われる。頭や胸などでのプレーも可能だが、おそらくボールコンタクトの95パーセント以上は足首より下、すなわちまさしく「フット」の部分で行われるのである。そして手でボールを扱うことは、原則的に反則として罰せられるのである。

■「ハンド」は和製英語

 ルール(正しくは「サッカー競技規則」)第12条に、相手チームに直接フリーキックが与えられる反則のひとつとして、「ハンドの反則を行う(自分のペナルティーエリア内でゴールキーパーが手や腕でボールに触れた場合を除く)」とされている。

 ところで、英語で言う「hand」とは手首から先の部分を指し、手首から肩までは「アーム」である。日本サッカー協会が発行している日本語版「競技規則」の元となっているIFAB(国際サッカー評議会)発行の英語版の「Laws of the Game」を見ると、「a handball offence」となっている。サッカーとはまったく別の「ハンドボール」という競技があるが、日本では選手たちが「ハンド、ハンド!」と叫ぶとき、英語圏の選手たちは「Handball!」と叫ぶ。その「通称」あるいは「俗称」が、競技規則でもそのまま使われているのである。

 だが古いファンなら、「ハンド」は「ハンドリング」であることを知っているだろう。表現が大幅に直される前の「2015/16版」の競技規則では、「handle the ball」となっている。現在のルールでも、最初の表現のあとに出てくる詳細な説明では「handling the ball」という折り目正しい表現が使われている。

 「handle」という英語は、もちろん「hand」からの派生語だが、手を使ってものを扱うという意味をもっている。日本語訳の競技規則で言う「ハンドの反則」のカタカナの部分は、いわゆる「和製英語」あるいは「正しい英語表現の短縮形」で、「hand」という言葉を動詞として使う場合には「手渡す」というような意味になる。「handling」はけっして「handing」ではないのである。

■ラグビーのようだった、かつてのサッカー

 だがそもそも、サッカーが誕生した1863年には、ルールはずいぶん違うものだった。1863年につくられた最初のサッカールールには、「フェアキャッチ」というものがあり、相手がけったボールをノーバウンドでキャッチ(もちろん手で)することを意味していた。最初のルールでは、フェアキャッチあるいはワンバウンドでボールをキャッチした選手は、そのボールを抱えたまま相手ゴールに向かって走ることもできた。まるでラグビーである。

 ただ、こうしてボールを抱えて走ってくる相手に対しては、相手チームの選手は体当たりしたり、つかんだり、足を引っかけたり、すねをけったり、さらにはつかみ倒すといった、いまなら即刻レッドカードが出そうな、当時も通常は認められていない守備をすることができた。そのため、たいていの選手は、フェアキャッチした後には違う道を選んだ。ボールをキャッチすると同時に片方の足のかかと部分でグラウンドに「マーク」するのである。こうすると、その地点からフリーキックをけることができた。

 したがって、初期のサッカーでは、かなり頻繁に手が使われていた。ただし、ゴールに入れる(といっても当時はクロスバーもネットもなかったから、両ポストの間を通り抜けるだけだが)ために投げたりパンチしたり手でボールをもったまま走ることは禁じられていた。

 「フェアキャッチ」が認められていた背景には、当時のボールの形状が完全な球体でなかったうえに、足での「ボール技術」のレベルが非常に低かったことがあると思われる。相手のロングキックを胸でコントロールしたり、小野伸二ばりに魔法のように足元に止められる選手など皆無だったのだ。

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