2023年のワールドカップ・フランス大会に向けて強化が進むラグビー日本代表は、6月18日から7月9日にかけてウルグアイ代表、フランス代表とテストマッチ4連戦を行なう。特に開催国フランス代表は世界ランキング2位の強豪で、ワールドカップへの大…

 2023年のワールドカップ・フランス大会に向けて強化が進むラグビー日本代表は、6月18日から7月9日にかけてウルグアイ代表、フランス代表とテストマッチ4連戦を行なう。特に開催国フランス代表は世界ランキング2位の強豪で、ワールドカップへの大きな試金石となろう。

 今夏のラグビー日本代表には、多くの若く有望な選手が招集された。そのなかで大いに活躍が期待されているのが、身長202cm、足のサイズ32cmという20歳の巨漢ワーナー・ディアンズ(東芝ブレイブルーパス東京)だ。



リーチ(左)より頭ひとつデカい身長202cmのディアンズ(中央)

 昨年秋、ディアンズはトップリーグ未経験ながらも、「(日本代表にいなかった)2メートルという身長もあり、非常に見たい選手」とジェイミー・ジョセフHC(ヘッドコーチ)の目に止まり、日本代表メンバーに抜擢。ヨーロッパ遠征のポルトガル代表戦で途中出場を果たし、いきなり初キャップを得た。

 ディアンズのポジションは体躯が生きるLO(ロック)。今年4月に20歳になったばかりで、ポテンシャルにあふれている逸材だ。今回の代表戦に向けて、「フランス代表戦は楽しみ! 世界トップクラスのフィジカルチームなので、自分がどれだけできるかを知りたい」と声を弾ませ、試合を楽しみにしている。

 出身は"ラグビー王国"ニュージーランドのクライストチャーチ。母・ターニャはネットボールの元ニュージーランド代表選手だ。父の勧めで4歳からラグビー競技を始め、子どもの頃はオールブラックスになることが夢だった。

 中学2年の時、父・グラントがトップリーグ(当時)のNEC(現NECグリーンロケッツ東葛)のストレングス&コンディショニングコーチに就任。それを機に来日し、千葉・あびこラグビースクールに入った。

 高校は流通経済大柏に進学。NECが練習拠点とする我孫子市と同じ「東葛地区」にある、千葉の強豪校を選んだ。

高卒でプロ入りを選んだ理由

 全国高校ラグビー大会「花園」には2年連続で出場し、2年時、3年時にはベスト8に進出。もちろん、身長は全選手のなかで一番高かった。

 日本代表経験のある相亮太監督のもと、1〜2年時はLO、3年時はスピードを活かしてFL(フランカー)、No.8(ナンバーエイト)でもプレーした。身長を活かしたプレーだけでなく、ボールキャリーや低いタックルの習得も研鑽を積んだ。

 当然、ディアンズの進路は大きな耳目を集めた。

 日本で開催された2019年ワールドカップの開幕前、流通経済大柏に近い柏の葉でオールブラックスが事前キャンプを行なった。その時、オールブラックス関係者が駅の近くで偶然ディアンズを見かけ、たちまちニュージーランドのスーパーラグビーチームでも知られる存在となったという。

 日本の強豪大学でプレーするのか、大学に進学せずトップリーグチームに進むのか、はたまたニュージーランドに戻ってスーパーラグビーのアカデミーに入るのか......。さまざまな噂が飛び合うなか、ディアンズが選んだ道は「日本でプロ選手になって、東芝に入団すること」だった。

 ブレイブルーパスには、同じクライストチャーチ出身で日本代表でも活躍するモデルケースがいた。2014年から2021年まで日本代表のキャプテンを務めたリーチ マイケルである。また、流通経済大柏の先輩であり、元日本代表の故・湯原祐希FWコーチがいることも大きかった。

「大学だとレベルが違うし、ニュージーランドに帰るとまたゼロから始めないといけない。自分が一番成長できる場所だと思って東芝を選んだ。(リーチのように)日本のためにプレーしたいと思った」(ディアンズ)

 19歳の青年の決断は正しかった。「最初は日本代表で試合に出られると思わなかったが、5分だけだったけどテストマッチに出場して、ちょっと自信をつけた」ディアンズは、今季から始まった「リーグワン」で躍動する。

 プレーオフも含めると、17試合中15試合で先発。高卒ルーキーながら中核を担い、チームを4位まで押し上げる原動力となった。ラインアウトやスクラムといったセットプレーだけでなく、ボールキャリーやタックルなどフィールドプレーでも存在感を示した。

元オールブラックスも大絶賛

 高校時代より身長は1cm、体重は8kgほど増えたという。ディアンズは「最初は不安があったが、シーズンを通して目の前の試合に集中し、たくさん学べた。若いからどうかなと思われるけど、フィジカルは強くなった」と胸を張る。

 今季、2試合の出場停止処分を受けたが、これは激しいタックルによるもの。もしこの処分がなければ新人賞の対象になっており、WTB(ウィング)根塚洸雅(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)に替わってディアンズが受賞した可能性も十分にあったほどのインパクトだった。

 その強烈なインパクトを残したディアンズのプレーについて、オールブラックス経験者たちは手放しで賞賛の言葉を送る。

「本当に非凡なヤングジャイアントです。日本代表は彼をチームに加えることができて幸運ですよ」(ライアン・クロッティ/スピアーズCTB)

「試合ごとによくなっていった。日本ラグビーのスターになりつつある。ニュージーランドの同じ歳の選手と比べても並外れている。(ニュージーランドに)送り返したほうがよかったかな(苦笑)」(トッド・ブラックアダー/ブレイブルーパスHC)

 ブレイブルーパスでメンター的存在のリーチも、ディアンズの成長に目を細める。

「前は本当にボーイ(少年)だったけど、今は耳がやっと湧いて(餃子耳となって)いい感じ。大人になった」

 しかし、ディアンズ本人はいたって謙虚だ。自身の課題について聞くと、「ボールキャリーもタックルも、もっとうまくやれる。ラインアウト、スクラムもまだまだ」と、前向きな姿勢を崩さない。

 趣味は「ラグビーを見ること」。小さい頃から憧れているオールブラックスのブロディ・レタリック、南アフリカ代表エベン・エツベス、イングランド代表マロ・イトジェなど、世界的スター選手のプレー動画をYouTubeでチェックし、それをマネる日々だという。

「世界一のLOになる」「ワールドカップに出ることは、ずっと子どもの頃からの夢」

 しかしまだ、桜のジャージーを着てプレーした時間はたった5分。

「ワールドカップのことは、今はあまり考えていない。(今夏の)テストマッチに出て、いいパフォーマンスをすることにフォーカスしている。高い身長を活かしてラインアウト、空中戦で勝って、フィジカルでも勝ちたい!」

 今夏、国際レベルでも十二分にプレーできることを証明するため、日本代表の"ヤングジャイアント"が世界に挑む。